『私の提言』

学生特別賞

学生が安心して羽ばたける労働環境のために
―学生目線だからこそ言えることー

豊田 真由

1.はじめに

 私はアルバイトや就職活動を通じて労働に対していくつか疑問を抱いたため、このテーマを設定した。学生目線だからこそ言えることや感じることがあると思う。したがって、主にアルバイトにおける課題と我々がこれから社会人として働く上で不安を解消するにはどうしたら良いのかについて提言を行う。

2.アルバイトにおける課題

 私の大学で労働組合の方がいらっしゃってワークルールを教えて下さる授業があった。その際生徒からアルバイトにおける相談を募集し、いくつか抜粋して紹介された。その中には、「給料明細を貰ったことがない」や「お客さんの前で店長に怒鳴られた」といった相談が寄せられていた。相談をしていたほとんどの学生がアルバイト先で声をあげられず1人悩みを抱え込んでいるのが現実だ。また、アルバイトでも有給休暇が使えることや、アルバイトを休む際に代わりを探すことは義務では無いことを知らない学生も多く見受けられた。
 私自身もアルバイトで悩んだことがある。大学一年生の時、居酒屋のアルバイトだ。内容としては、時給がホームページや面接時に提示された額と異なっていたり、給料が一日分抜かれていたりした。その際、友人に相談してすぐに店長に抗議したが、「お前がそう思うならいいよ」と足りない分のお金を渡された。店長から謝罪の一言もなく、その時初めてアルバイトで理不尽な目にあった。他にも疑問に思うことが沢山あったためそのアルバイト先はそのまま辞めた。もし私が気の弱い何も言えない性格だったら一日頑張って働いた給料を貰えず泣き寝入りしていたのだろうと思うし、実際世の中の大学生で店長に抗議出来るような性格の人はそれほど多くないだろう。また、私自身が給料をしっかり計算していたため気づくことができた事例であるため、自己管理の大切さをそこで実感したし、世の中には信用できない会社もあるものだと痛感した。そう思うとやるせない気持ちにもなる。また、大学の授業にてアルバイトで悩みを抱えている学生が沢山居たように世の中にはアルバイトで嫌な思いをした人が沢山いるのではないか。そこで、図1はアルバイトで悩んだことがあるかどうかのアンケートだ。これを見ていただくと分かるように、約半数の学生がアルバイトで悩みを抱えていることが分かる。

図1
(図1)アルバイト経験のある短大生・大学生・大学院生18歳~29歳300人に調査(2014年5月14日~15日)/調査協力:株式会社クロス・マーケティング

3.アルバイトにおける問題を解決するには

 図2を見ると、パート・アルバイトの人達が労働に関する権利をどれほど認知しているのかが分かる。正社員の人達よりもかなり認知度が低いことが分かる。自分たちの生活に関わる“労働”に対してあまり知識がないという現状は、自分を守る為にも改善していくべきであると思う。この現状を打破するには“ワークルールを広めること”が1番効果的であると思う。私自身労働組合の方の講義を聞いてもっと早く知りたかったと思った。そのため、是非大学に入学したての学生や高校でアルバイトをできる年齢の学生向けに講義をして頂けたら被害を受ける学生は減ると思う。また、雇い主側もワークルールを知らずに破ってしまっている可能性もあるため、雇い主側にも学ぶ機会があれば良いと思う。労働に関する全ての人がワークルールを理解することで、正しい労働環境を整えること出来ると考えられるし、アルバイトの人たちも声を上げやすい環境を作ることが出来ると思う。また、SNSでの呼びかけも増えていくとより良いと思う。大学の構内に最低賃金についてのポスターが貼ってあるのを見かけたが、目に入るところに情報を載せるのはとても良い施策だと思う。情報を視界に入れることで学生のワークルールに対する意識を強めると共に自分を守るためにも積極的に学んでいくべきだ。

図2
(図2)(資料出所)佐藤博「権利理解と労働組合効果のアピールを一」(『バランスのとれた働き方一不衡からの脱却一』、エイデル研究所 2008表1一④の調査を基に作成。)
(注)計には雇用形態の不明を含む。無回答を除く。

4.学生が不安に思うこと

 これから社会に出る学生は不安だらけだ。「就活で約90%の学生が不安を感じている就職関連サービスを提供する株式会社ディスコが実施した、『2024年卒学生9月後半時点の就職意識調査』によると、就職活動への不安について、『とても不安』『やや不安』を合わせて、約9割が『不安がある』と回答(計 89.6%)しています。不安の内容は、『夏インターンの選考に大量に落ちたので本選考が不安』『選考の早期化の影響で修士研究との両立が大変』など多岐にわたります。調査結果から分かるのは、不安の内容にこそ違いはあるけれど、就活に不安を感じるのは特に珍しくないということです。そのため、自分だけが不安を感じている、就活がうまくいっていないなどと考えず、誰しも不安を感じながら就活を進めていると理解しておきましょう。」(注1)以上のことから分かるように、なんと就活生の約90%が不安を感じているのだ。私自身就職活動を終えて4月に入社を控えている身であるが、就職活動中と就職活動が終わって入社に向けての期間に2種類の不安があった。

4−1 就職活動中の不安

 私自身、就職活動中は、「内定を貰えるのか」や「面接で上手く喋れるか」や「周りと比べて遅れている」と言うような就職活動事態に関する不安が多かった。図3を見ると、他の就活生がどのような悩みを抱えているのかが分かる。私と同じように就職活動についての悩みが多く、これらは就職活動が終えることや努力をすることである程度解消できるような悩みであると言える。

図3
(図3)・調査対象:「あさがくナビ2023(ダイレクトリクルーティングサイト会員数No.1)」へのサイト来訪者・調査方法:Web上でのアンケート・調査期間:2022年4月19日~2022年4月28日・有効回答数:649名

4−2 就職活動終了後の不安、内定ブルー

 内定ブルーという言葉をご存知だろうか。「内定ブルーとは、学生が就職活動で内定を得て承諾した後に、自分の選択に疑念を抱いたり、社会人生活への不安などにより気分が落ち込む状態を指す言葉です。新しい経験や人生の大きな決断の前に感じる精神状態を表しており、結婚前のマリッジブルーや妊娠中のマタニティブルーと似ています。」(注2)先ほど就職活動中と就職活動を終えた後で二種類の不安があったと述べた。私は、企業から内定を頂きやっとの思いで就職活動を終えたのに、次は内定ブルーに陥ってしまったのだ。
 「売り手市場のなか、採用活動を前倒しで進める企業が増えており、企業が内定・内々定を発表する時期も以前よりも早まっています。
 社会人経験がない学生にとって、先輩や友人、家族、口コミなどからのネガティブな情報は、比較対象とする情報がない分、将来の不透明感からくる精神的負担へとつながりやすいものです。先述のとおり、学生の内定をもらってから実際に働くまでの猶予期間は長くなっており、そういった情報に触れる機会が増えやすい状況にあります。猶予期間の長期化は、未知の環境に対する不安を抱える期間の長期化でもあり、これが内定ブルーを引き起こす背景となっている可能性があります。」(注3)内定ブルーには様々な要因があるが、そのうちの一つに就職活動の早期化があるようだ。就職活動の早期化は、就職活動中の不安を引き起こす要因でもあると思う。就職活動が早期化するせいで学業に取り組む時間が減ってしまったり、インターンに受かることが出来なかった時に非常に焦ってしまったり、自分のやりたいことをゆっくり考える時間が減ってしまった。さらには内定ブルーの要因にもなってしまうということで、学生側にデメリットが多いように感じる。そのため、これ以上の早期化は望ましくない。また、そのほかの要因として配属先どのようであるか分からないといった不確実性によるストレスもある。こういった部分も企業の努力である程度は解消できるのではないか。
 私が内定ブルーを乗り越えられたのは実際に社会人として働いている先輩に「仕事は常に勉強。もし入社して思ったのと違うって思うことがあるかもしれないけど、どこに行っても思ったのと違うことは絶対にあるからまずは続けてみて、そのうち楽しくなるよ。」という言葉のおかげだ。普段色んな人から、納得いかなければ転職したらいいよと言われてその言葉にピンと来なかった私にとって、先輩の言葉はとても腑に落ちた。きっとどこに入社しても嫌な思いはするだろう。もちろんそういった仕方ない事情は前提として、少しでも無駄に不安にならないように、労働組合にぜひ取り組んで欲しいことがある。

5.企業も労働者も守られるための認定制度

 私が考えた制度は、望んだ全ての人々にワークルールの講習を受けてもらい、実行した人には受講済みの認定証が渡されるという制度だ。この制度を企業向けにも実施し、管理職などの企業の中でも上の立場にいる人たちに受講してもらい、達成した企業に認定証が渡される。これは、「ホワイト企業認定」「プラチナくるみん」のように労働者が働く場所を決める際の指標になり得ると考えられる。また。ホワイト企業認定とプラチナくるみんについては以下の通りである。
 「ホワイト企業認定について、ホワイト企業認定ロゴ次世代に残すべき素晴らしい企業を発掘し、『ホワイト企業』として認定します。ホワイト企業認定とは?家族に入社を勧めたい次世代に残していきたい企業のホワイト化を総合的に評価する国内唯一の認定制度一般財団法人日本次世代企業普及機構(通称:ホワイト財団)は、“次世代に残すべき素晴らしい企業”を発見し、ホワイト企業認定によって取り組みを評価・表彰する組織です。人々がそれぞれの個性と特徴を活かしながら。溌剌と創造的に働く。そのような企業であふれ、明日が楽しみに思える社会の実現を目指します。」(注4)
 「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークとは『子育てサポート企業』として、厚生労働大臣の認定を受けた証です。
 次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって『子育てサポート企業』として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。」(注5)
 私は就職活動を行う際にこう言った証をひとつの指標として見ていた。そのため、ワークルール受講済みの証は働き手にとっても企業の善し悪しを決める1つの指標となり、良い企業であると判断して貰えたら新たな働き手の獲得にも繋がると言える。
 ワークルールの受講を推奨したいのは、一般企業はもちろん、個人の飲食店といった、従業員数が少ない所といった、幅広く全ての労働に関わる人達だ。その中で管理職の人たちに優先的に受けてもらいたい。なぜ管理職の人達に優先的に受けてもらいたいと考えたのかと言うと、管理職の人たちは部下を従える立場にあるため、ワークルールを知らないまま部下に嫌な思いをさせてしまうことが比較的多いと思う。例えば学生アルバイトの多い飲食店等は店長がシフト管理や労働環境の管理をしていると思うが、その際ワークルールを知らないままでいると、無意識にワークルールを破ってしまったり、嫌な思いをしたりするアルバイトの人が出てしまう。また、特に居酒屋のような飲食店でアルバイトしている人達がアルバイト先で揉め事が起きているイメージが強い。そのため、管理職の人たちに優先的に受けてもらいたいのだ。

6.まとめ

 人口減少から働き手の不足により、雇い手も働く側も不安を抱えている。特に若者は働くことだけでなく、将来望んだ人間関係を築けているのか、自分が高齢者になった時に年金を貰えるのかと言った多岐に渡る不安がある。人生100年時代と言われているが、まだ100年の5分の1しか生きていないのだから、何十年も先の未来を見通すことはかなり難しいことではある。そんな中で、学生時代に培った能力を活かして行くためにも、働く場所というのは生活に大きく影響を与える。不安なことを沢山あげてきたが、改善してきたところも沢山ある。例えば、「労働環境を改善した企業の成功事例:日本電算機販売株式会社
 『日本電算機販売株式会社』は、複数のフロアに人員が分散しているせいで、業務の効率が上がりにくいという課題を持っていました。
 従業員同士がなかなか顔を合わせる機会を持てず、コミュニケーションを円滑に行えていなかったのです。
 そのような労働環境を改善するために同社が取った手段は、オフィスを移転して人員をワンフロアに集結させることでした。
 さらに、どこに座っても良いというフリーアドレス制を採用したことも重要なポイントです。
 この2点により、好きなときに誰とでも顔を合わせられる職場に進化しました。
 ソフト部門とハード部門の従業員が隣同士になってシステム開発の打ち合わせをするなど、組織の垣根がなくなったこともメリットの一つです。
 他人の仕事や進捗もよく分かるようになり、お互いを助け合うような一体感のある社風が育まれました。
 自由で明るい雰囲気なので、身分に関係なく自分の意見を気軽に発言できているとのことです。」(注6)
 このように働き手のことを考えて改善している企業も沢山あるのだ。
 また、私の入社予定の会社もコロナウイルスの影響でリモートワークが定着した。リモートワークの導入のおかげで、住む場所や働く場所を縛られずに仕事できるので家族と離れて住まなくても良くなった人や、子育てと仕事が両立しやすくなったようだ。私はそういったワークライフバランスの取りやすさに魅力を感じ入社を決意したのだ。そういった良い面にも着目すると、我々も不安に感じすぎなくても良いのではないかと思える。企業がより良い労働環境のために努力すれば、その企業に魅力を感じる学生も増えるだろうし、良い学生が集まりやすくなると思う。
 働き手側も、良い企業を見極め、疑問に思ったら抗議できるようにワークルールを学んでいくと良い。両者の努力がより良い社会を作っていけるだろう。
 また、今回提案したワークルールの講習の認定制度はそういった両者の努力の手助けを出来るだろう。社会に出たことの無い学生目線の提言ではあるが、アルバイトや就職活動を通して考えたことを記した。一人の大学生の生の声として世の中に少しでも良い影響を与えられたら良いと思う。これから、社会人になって部下を従える立場になった時に、今感じたことを忘れずにいられたら良いと思う。それぞれの人の努力で全ての人にとって良い労働環境を作り上げていきたい。



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