『私の提言』

講評

第20回「私の提言」運営委員会
委員長 相原 康伸

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、スタートしました。第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合がめざす社会像実現のための提言の募集を、組合員のみならず幅広く呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて26回目、連合の事業となってから20回目の節目となる今回は、テーマを「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて連合・労働組合が今取り組むべきこと」とし、例年の「優秀賞」の名称を「第20回記念賞」といたしました。

 連合はもとより、教育文化協会HP、公募ガイドなどを通じて、今回は45編の応募をいただきました。「どなたでも応募できます」という呼びかけに呼応いただく形で、労働組合役職員のみならず、公務、民間問わず様々な職場で働かれる方々、さらには、自営業、学生、定年退職された方々など、実に幅広い皆様方から応募いただきました。感謝申し上げます。今回は、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けたここ数年の経験も踏まえて、これからはどのような社会、どのような働き方をめざすべきか、労働組合に何を期待するのかなど、時宜を得た多岐にわたる提言が寄せられました。どれも豊かな経験と高い問題意識を基とした意義深いものでありました。また、労働組合役職員からの応募が19編と、前回から大きく増えましたが、労働組合の現場から今後さらに多くの提言をいただけるよう、運営する側として一層の周知に取り組んでまいります。

 提言の選考にあたる運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言度」「自身の経験を踏まえたオリジナリティ性」などを様々な角度から最終選考を進めました。その結果、委員の総意で「第20回記念賞」1編、「佳作賞」1編、「奨励賞」3編、「学生特別賞」1編を選出しました。「第20回記念賞」には、ご自身の組合活動経験をもとにした労働組合役員からの提言が入賞を果たされましたが、組合関係者から寄せられた多くの提言はいずれも「これからの社会、労働組合活動はどうあるべきか」「それに向けた具体的取り組みは如何なるものか」等、高い課題意識を感じさせるものばかりでした。自らの経験をこれからに生かすべく、積極的に自らの考えを発信しようという姿勢を大変心強く感じました。

 最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、金井郁さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の45編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、今回の第20回という節目を超えて、ますます多くの皆様からの提言をいただきたいと考えております。

 また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。


寸評

國學院大學教授 橋元 秀一

 第20回記念賞に選ばれたのは、白井桂子(代表)・田中美貴子(共同執筆者)「クミジョは大志をいだいてる KUMIJO has AMBITIOUS~クミジョが活躍できる制度と課題~」である。「女性執行委員が少ないことに・・・常に飢餓感に似た焦りや苛立ちを感じ、同時に恐怖も感じている」という。「多くの女性役員や女性組合員が思ったような活動ができずに悩んでいる。」「組合活動が「健康な中年男性」を基準に回って」おり、しかも彼らは「家庭に対して支援や介助を免れている」ので、「様々な事情に配慮ができているとは言えない」と。そこで、「組合女性執行役員が確実に増え、全国の女性組合員、女性組合役員をまもり、つなげ、安心して活躍できる基盤を整える方法と、創り出す制度・システムを提言」している。その要点は、「執行委員選任に性別ローテーションを導入し、今期男性が務めた産別・単組は、後任者に女性を選ぶ」方法である。3グループに分けるなど実施に当たっての詳細な工夫は省くが、これにより「1:1の男女比に近づける」とする。懸念される諸問題と対策もきちんと提示している。人材を育て、前任者等による指導で未経験者にも務まるようにすること、家事代行サービスや家事負担を節約することを含む支援を実施するという。
 男女雇用機会均等法が制定されてから38年も経っているにも関わらず、日本の現実は「男女共同参画社会」にはほど遠い。とりわけ労働組合における実効性のある取り組みが著しく遅れている。この現状に対する率直な提案である。労働組合はその実効性に真剣に向き合うべきであろう。同時に、留意すべきは、受賞者も言うように、女性に都合の良い社会を求めているのではなく、「誰もが安心して尊厳を持って生きられる社会・組織」の実現である。換言すれば、非正規労働問題、障害者雇用問題、LGBTQへの対応など、様々な問題を抱えている状況を改善していく一環であり、普遍的人権保障を実現していく意義を有するものであり、そうした視点をも組み込んだ政策化が大切であろう。
 佳作を受賞したのは、平野亮「労働が変化する中、労災保険制度がセーフティーネットとして機能していくためには」である。目に触れにくい問題を、具体的で極めて有益に教示している。奨励賞は、3作品であった。石川要一「労働組合による人権への取り組みとGFA締結の推進」、川尻史朗「連合には期待しかない~労働組合の進化のための提言~」、吉田圭佑「能力主義社会における労働組合のあり方を考える」である。3作品の取り上げている論点は全く異なるが、今後の組合活動にとって重要な提言であり、すべての組合に受けとめてもらい、自分たちなりのやり方を生み出していただきたい問題であろう。学生特別賞は、吉岡佐知子「女性活躍に向けて労働組合がすべきこと ~マルイグループユニオンの取り組みを踏まえて考える~」が受賞した。幅広い視点から学ぶと同時に、自ら調査し事例を取り上げ考察している。提言として具体性がやや弱いものの、全体のまとまりも文章表現も評価できるものであった。
 今回、労働組合員・同役員の方々からの応募作品がこれまでより多かった。受賞は逃したものの、現場目線から、労働組合に真剣に受けとめ議論していただきたい提言も少なくなかった。労働や組合活動の現場から、ますます多くの提言が寄せられることに強く期待したい。


寸評

埼玉大学教授 金井 郁

 2023年春闘は、基本給を底上げするベースアップに定期昇給を合わせた平均賃上げ率は連合が7月5日に発表した数字で3.58%(10,560円)と、3.9%だった1993年以来、30年ぶりの高水準を記録した。この背景には、コロナをインパクトに加速した人手不足とインフレが挙げられるが、それだけでは自動的には賃金は上がらない。個々の単組や産別の取組みが奏功し、賃上げを勝ち取る組合が多かったといえる。新型コロナウイルスやインフレ、人手不足など急速に労働市場環境が変わる中で、生活者、労働者、組合員、学生といった様々な立場からの思いや提言も集まった。今回は45件の応募があり、前回よりも大きく増加し、また労働組合関係者からの応募が増えたのが特徴であった。
 第20回記念賞は、白井桂子さん(連合群馬副事務局長)と田中美貴子さん(自治労群馬県本部 書記次長)の共同執筆の「クミジョは大志をいだいてる KUMIJO has AMBITIOUS~クミジョが活躍できる制度と課題~」が選ばれた。同提言は、労働組合活動に女性を増やすための具体的な提言を行う。とくに、女性が偏って負担している世帯内でのケア負担をいかに軽減できるのかが組合活動参加の大前提になるという視点に立ち、例えば、家事サービス代行の補助を出す仕組みや食洗器や衣類乾燥機などを贈呈するなどが挙げられ、どの提案も具体的で彼女たちの組合活動の経験から生まれた言葉で伝えられていた。その反面、組合活動に個人的な見返りをしているようにみえるといった審査意見も出されたが、組合活動とケアの問題を真正面からとらえた提言の視点が独創的で、第20回記念賞となった。
 佳作賞は、平野亮さん(連合東京総務企画局次長)の「労働が変化する中、労災保険制度がセーフティーネットとして機能していくためには」が選ばれた。労働組合の取組みとして重要である一方、なかなか注目されることのないテーマへの提言が光っていた。
 奨励賞は、以下の3本を選出した。石川要一さん(UAゼンセン ミズノユニオン 中央執行委員長)の「労働組合による人権への取り組みとGFA締結の推進」は人権について労働組合がいかに取り組んでいくのかについて具体的な自組合の活動事例を紹介しながら提言している。吉田圭佑さん(情報労連 NTT労働組合データグループ本部 組合員)の「能力主義社会における労働組合のあり方を考える」は、能力主義社会においては個人化につながりやすい側面を持つため、組合活動と相反する面がある。そこで、どのような組合活動が必要なのか、そのテーマ設定がよかった。川尻史朗さん(連合岐阜専従局員(常任役員))の「『連合には期待しかない』~労働組合の進化のための提言~」は、組織率低下の背景に対して、具体的な提言が共感を得やすいのではないかと評価された。
 学生特別賞には、吉岡佐知子さん(埼玉大学 経済学部3年)の「女性活躍に向けて労働組合がすべきこと ~マルイグループユニオンの取り組みを踏まえて考える~」が選ばれた。学生の立場を生かして、労働組合にインタビューに行き、組合の具体的な活動を知り、それをまとめたこと自体が高く評価される。学生のうちから、組合の活動を身近に感じることは、労働運動にとって大きなプラスと言えよう。
 来年も生活者、労働者、組合員といった様々な立場からの多くの提言が寄せられることを期待しています。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 連合「私の提言」募集の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会をいただき、評者にとって14回目を迎えた。運営委員として10回以上を数えると、その回毎に応募者の傾向に特徴があること、コロナ禍の影響もあるのだろうが、社会背景が如実に提言に反映されていること等が理解できる。
 さて、連合「私の提言」も20回を数えることとなり、今回、様々な意味で節目となることから、これまでの傾向等について何点か振り返ってみたい。
 まず、応募数についてである。第20回となる今回は昨年に比して45編と増えたものの、まだまだ少ないと言わざるを得ない。この間、広報や各級組織への周知強化など応募数を増やす取り組みを行っていただき、第13回は55編、第14回は67編と第10回までと比べると格段に増えたものの、100編には届いてほしいと取り組みを進めてきたこともあり、次回以降も課題であろう。なお、第7回までは連合「論文」として募集していたが、第8回からは「提言」として、「働くことを軸とする安心社会の実現にむけて」少しでも多くの提言を受け入れられるよう、工夫もしてきたところである。
 次に、応募の内訳である。本審査でも議論となったが、今回、一般の応募は回復傾向にあるものの、学生の応募が減少に転じており、労働組合関係はもちろんであるが、連合としてもこれから社会に出ようとする学生へのアプローチは欠かせないと考える。

 本審査においては、今回は20回目の節目でもあることから、優秀賞に該当する第20回記念賞を選出する前提で様々な観点から議論した結果、第20回記念賞1編、佳作賞1編、奨励賞3編、学生特別賞1編を選出した。これまで20回中、2回優秀賞を選出できなかったこともあり、優秀賞の選出について議論になることも多いのであるが、今回はどの提言がそれにふさわしいか議論の末、選出となっている。なお、これらの提言が提言として留まるのではなく、具現化することを願うものである。
 提言でも多く触れられていたが、コロナ禍を経て、その働き方が大きく変化したり、影響を受けたりした業種業態は多くあり、社会の在り様も同様であろう。冒頭、社会背景が提言の傾向からも垣間見える旨紹介したところであるが、今回も極端な論調の提言もごく少数ながら見受けられた。もちろん、ほとんどの提言が働く人すべてに関わる最大利益をいかに追求するかであったり、自身の経験を踏まえた貴重な提言であったりするのだが、今の社会をどう捉えるか、考えさせられることも多い。そして、これら貴重な提言を労働運動にどう活かすかが問われている。
 雇用される側は、いまこそ連帯して結束しなければならない。連合自体が岐路に立たされていることは言うまでもない。働くことを軸とする安心社会の実現のため、いま一度原点に立ち返るべきではないだろうか。


戻る