『私の提言』

学生特別賞

女性活躍に向けて労働組合がすべきこと
~マルイグループユニオンの取り組みを踏まえて考える~

吉岡 佐知子

1.はじめに

 2022年に行われた春闘は30年ぶりの水準となる賃上げが実現したことで、新聞やニュースなど多くのメディアで取り上げられた。実際、2022春闘で労働組合から賃金に関する要求があった企業は85.9%であった。要求内容(要求があった企業=100、複数回答)は「ベースアップ(以下、ベアとする)の実施」73.3%、「定期昇給の実施・賃金体系維持」70.5%である。要求があった企業のうち、交渉が妥結したのは99.3%、妥結内容(妥結した企業=100)は「ベアの実施」51.7%、「定昇の実施・賃金体系維持」同77.9%であった。労働組合の活動は、春闘における賃金の交渉だけでなく、労働条件の改善や雇用区分の見直しなど活動は多岐にわたる。さらに、多くの日本企業が注目し、投資家もその活動について見守っているESG投資や女性活躍・多様性の確保といった活動にも労働組合は重要な役割を果たしている。しかし、日本の女性活躍は世界と比べ、進んでいないのが現状である。経済協力開発機構(OECD)によると、東証上場企業の女性役員の比率は13%と主要7カ国(G7)の中で最低である。女性役員が1人もいない企業は東証プライム上場企業で344社と全体の19%にものぼる。多様性への関心が高い海外投資家への注目を集めるためには、女性の働きがいや働きやすさへの配慮は欠かせない。政府は6月に「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(以下、女性版骨太の方針とする)」を決定した。プライム市場上場企業を対象に、2025年を目途に女性役員を1名以上選任するよう努めること、2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指すこと、これらの目標を達成するための行動計画の策定を推奨している。経営層が「女性の皆さん、管理職になりましょう」と宣言し、傍観しているだけでは女性版骨太の方針を進め、目標を達成することはできない。適切な制度を構築し、これまでになかった考え方を新しい常識として根付かせなければならないのだ。
 以上のことを踏まえて本稿では、はじめに日本の労働組合の現状について述べ、企業が女性活躍をいかにして進めていけばよいのか、女性活躍を推進する上で重要なポイントとは何かと展開していく。そして女性活躍推進の先進企業として丸井グループの事例について紹介する。それらを踏まえ、最後に女性活躍を推進する上で重要なこととは何か、労働組合がどのように関わっていくべきなのか考察する。

2.日本の労働組合の現状

 表1から、雇用者数に占める労働組合員数の割合を示す推定組織率は年々減少傾向にあり、2022年には16.5%と、労働者の5分の1以下しか労働組合に加入していないことがわかる。1994年のピーク時には1269万9000人にいた労働組合員も999万2000人と大幅に下落した。ここで注目したいのが、女性の労働組合員数が増加しているということである。前年に比べ、3万4千人の増加、推定組織率は12.5%で、前年とほぼ同様の水準を維持している。これは、多くの女性がパートタイム労働者として働き、そのパートタイム労働者の組合員数が増加しているということが関係している。依然として組織率は低い値にとどまっているが、全体の組織率が低下している一方で、パートタイム労働者の組合員数が増加しているという現状は無視できない。女性が多いパートタイム労働者の組織が形成されつつあるということは、正規と非正規間の格差やジェンダー平等につながるという見方もできる。これまで取りこぼしてきた女性の意見に耳を傾ける機会ができたということである。しかし、労働組合員数が減少し続ければ、労働組合の役割が希薄化し存在意義が薄れてしまう。つまり、労働組合の力が弱くなってしまえば女性の意見を聞く機会ができたとしても、それを反映する力が失われてしまうのである。

表1 労働組合数、労働組合員数及び推定組織率の推移(単一労働組合)

表1 労働組合数、労働組合員数及び推定組織率の推移(単一労働組合)
(資料出所:厚生労働省「労働組合基礎調査」より引用)

表2 パートタイム労働者の労働組合員数及び推定組織率の推移(単位労働組合)

表2 パートタイム労働者の労働組合員数及び推定組織率の推移(単位労働組合)
(資料出所:厚生労働省「労働組合基礎調査」より引用)

3-1.女性活躍とは

 女性活躍、ジェンダー平等、多様性といった言葉はSDGs、2015年に国連総会が掲げた持続開発目標を契機に多くの場面で聞かれるようになった。2030年までに達成すべき17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上誰一人取り残さないということを誓っている。国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は「ジェンダー平等は基本的人権であるとともに、いくつかの最も重大な世界的課題に対する解決策でもあります。しかし、事態は悪化しており、最先進国でさえ、男女間には大きな賃金格差があります。このままのペースで行くと、女性が男性と同じ法的地位を得るまでには、286年かかる可能性があります。」と発言し、ジェンダー平等への取り組みを強化するとした。2021年ジョー・バイデン氏が米国大統領に就任し、副大統領に女性であるカマラ・ハリス氏を任命したことは世界中で注目された。G7においては、メルケル首相が16年間ドイツを率いたことにより、Manel(Man+Panel)化を防ぐことができた。しかし、メルケル首相の退任以降、7カ国すべての首相が男性となったことで批判の声が多くなった。2023年5月の広島サミットではイタリアのメローニ氏が唯一の女性首相であった。SDGsにより世界に広がったジェンダー平等、女性活躍であったが、序章で述べた通り、日本の現状も到底満足のいく成果が表れているとは言えない。

3-2.女性活躍推進のポイント

 多様性やジェンダー平等を経営戦略に組み込んで成長している多くの先進企業を分析した羽生氏は女性活躍推進を定着させるポイントとして制度・風土・経営層・現場の4つを挙げた。本稿ではその中の「風土」について注目していきたい。ここで言う風土とは、数値などで表されるようなものではなく、労働者を取り巻く精神的な環境を指す。海外投資家やコーポレートガバナンスの改訂によって、多くの経営層が女性活躍、多様性の確保には力を入れている。制度面においても海外と比較すれば、日本の育児休業制度は所得保障や期間が充実している。しかし、経営層がその重要性について理解し新たな制度を導入したとしても、従業員に女性活躍の考えが浸透しなければ、制度が適切に運用されることはない。これが、「風土」に焦点を当てる所以である。風土の形成とは、当たり前であったことを覆すということであり、容易にいくものではない。常識や心情というのは知らず知らずのうちに固定化されてしまう。意識して改革しようとしても変化には多くの時間と労力を要する。
 そこで、次章からは女性活躍推進の先進企業といえる丸井グループの事例から、いかにして意識改革をおこなっていったのかについて探っていく。

4-1.マルイグループユニオン

 丸井グループはファッションビル運営を主に行っており、現在の収益の軸はクレジットカードに代表されるフィンテック事業である。丸井グループの企業内労働組合であるマルイグループユニオンの労働組合員の組織範囲は、正社員と定年再雇用社員とパートタイマー(学生は対象外で、勤続1年以上かつ、一定以上の勤務時間の契約がある労働者)としている。組合員数は全体で約6500人。正社員に関しては約4500人、定年再雇用が約500人、パートタイマーが約1200人という内訳になっている。正社員は男性女性半々の構成であるが、パートタイマーは女性の方が多いため、組合員数においては女性が男性よりもやや多いという構成だ。労働条件の維持・改善、お互いを助け合う相互扶助、持続可能な社会の実現とグループの企業価値向上を目的とし、活動を進めている。そして、この4つの目的の重なりの総和の拡大を「良き社会人づくり」としている。

4-2.マルイグループユニオンの風土づくり

(1)女性の上位職志向を高める

 前章で注目した風土づくりについてマルイグループユニオンではどのような取り組みを行っているのか見ていきたい。丸井グループでは女性管理職比率が低いことの理由として女性の上位職志向の低さが関係していると考えている。女性が管理職を目指そうとしない理由として、仕事の質が高く難しそう、拘束時間がより長そう、残業時間が増えてしまいそう、といったイメージが多いのではないかと分析しており、改善に乗り出している。労働組合と会社側が協力し管理職に対して休日の取得を促すなどの対策を講じている。管理職だけではなく、社員全体の労働時間の削減も行った。2007年から2020年までは年間労働時間は1950時間であったが、2020年度から2023年度の各年に年間所定労働時間を30時間ずつ減少させている。なぜなら、丸井グループは元来年間の残業時間が平均40時間と比較的短く、有給休暇の取得も進んでいたことから、年間所定労働時間を減らしても問題ないのではないかと考えられるようになったためだ。さらに、長時間労働に対して反対の声が大きい就活生や世の中の状況を踏まえ、会社側と労働組合側で所定労働時間についての案を出し合いながら段階を踏んで決定された。社員全体の労働時間の短縮は、管理職のマイナスイメージ払拭だけではなく、全員の働きがいにも関係するとして行われたのである。

(2)性別役割分担意識の見直し

 女性活躍推進の基礎となる、性別の役割分担意識の見直しに向けた取り組みも強化している。会社が実施した社員アンケートにおける「『男性は仕事、女性は家事育児』という性別役割分担意識を見直すことに共感するか」という問いに対して、「共感する」の回答は約53%であった。2025年度の目標は50%であるので、目標は超えている。共感の選択肢には「共感する」と「どちらかと言うと共感する」の2段階があり、「共感する」という明確な回答をさらに増やしていくことを目指している。その活動の一環として、丸井グループは労使共催で育児フォーラムを開催している。これはもともと育休を取得していた母親の仕事復帰を応援するようなイベントであったが、性別役割分担意識見直しの観点から、母親のみだけでなく父親、社内外のパートナーも参加できるイベントに変わった。

(3)他社との交流

 また、マルイグループユニオンが行っている特徴的な取り組みとして、社外との交流が挙げられる。この取り組みは女性の活躍推進だけではなく、視野の広がりやマルイグループユニオンが目指す「良き社会人づくり」に繋がる活動と位置づけられている。丸井グループでは中途採用がほとんどないため、自社の常識が社会の常識であるという考えになりかねない。そこで、労働組合は自発的に他社との関係を持ち、話し合いの場を設けており、そこに組合員を呼ぶことで丸井グループの良さ、他社の良さにも気がつくことができている。社外との交流を持つことは働き方の変化や自社へのエンゲージメントの高まりへつながると考えている。また、話し合いの機会を創出するというだけではなく、社会活動についての知識構築へもつなげている。例えば、地球上の問題であるフードロスについて取り上げた際には、複数の企業と協力して、実際に問題が生じている現場と中継をつなぎ、フードロスについて肌で感じてもらうという活動があった。女性活躍を推進するための取り組みのみならず、社会問題に対しても興味関心を持ってもらうことで、持続可能な社会を実現するための活動を推進しているのだ。

4-3.丸井グループの取り組みの結果

 丸井グループの取り組みの結果は表3に示したとおりである。女性活躍浸透度とは、各年の社員アンケートの結果によるもので、アンケートの「私は多様性推進の目的・必要性を理解している」という質問において、「よく理解している」「ある程度理解している」と答えた人の割合を指す。目標の100%に到達はしていないものの、99%と高い水準である。男性社員の育休取得率は2019年3月期から100%を達成しており、それを維持している。女性管理職比率は、2017年の結果から4ポイントも上昇しており、令和3年度の日本企業の女性管理職割合12.3%と比較すると優位であることがわかる。また、日本企業の女性管理職割合は平成21年度の10.3%から2ポイントの上昇であるので、その上昇率と比較すると数年で着実に成果が表れていることも評価できる点である。5項目のうち、4項目は目標に達成できていない数値として捉えられているため、これからの取り組みについて注視していきたい。

表3 丸井グループホームページ女性の活躍推進指標

表3 丸井グループホームページ女性の活躍推進指標
(資料出所:丸井グループホームページ女性の活躍推進指標より筆者作成)

5.労働組合のさらなる発展に向けて

 日本企業で女性活躍を推進するためには、他社の労働組合・社内外での交流の促進が必要不可欠である。様々な会社の取り組みを知ることで、育休後の職場復帰に不安を抱える女性、育児または介護をしながら管理職を目指すことは難しいと考える女性に「安心」を提供するためのより良い環境が生まれる。固定化されてしまった常識にメスを入れ、意識の変化をもたらす。そして、その交流の場は、様々な状況におかれている女性の精神的安心の材料となり、風土づくりのきっかけとなる。また、制度を設けておきながら、実態の伴っていない企業も先進企業のアドバイスを受ける機会を得ることができる。さらにマルイグループユニオンの事例で見てきたように、社外との交流は社会活動への関心の高まりにも寄与する。国際連合の目指す誰一人取り残さない社会にするためには、社内のみ、ひいては日本のみに留まることなく世界に目を向け視野を広げる必要があるのだ。マルイグループユニオンが労使で開催する育児フォーラムにおいて「男性社員も参加可能となったがその参加率は依然として低い」、「他社の方と結婚した場合、男性側が休みを取ってまで参加するというのはハードルが高いと感じている」といった懸念点が挙げられた。一企業の意識だけではなく、社会全体の意識も変わっていかなければならないとマルイグループユニオンは考えている。そのためのきっかけが交流の場である。他産業であろうと競合する企業同士であろうと、持続可能な社会の実現に向けて考えを共有することで、変化しがたい風土を改良させられるかもしれない。女性活躍を推進するための基礎とは風土づくりである。その契機となる、人々の交流の場を労働組合が創出していくべきだ。

4.おわりに

 社会の動きとして、家事や育児、介護をしていた女性たちを突如として男性中心の社会に引っ張り出した以上、女性たちの意見に耳を傾け、支援を行うことは特別なことではなく、当然のことである。JPモルガン証券の分析によれば、2020年3月に株価急落後、女性役員比率の高い50社の「女性活躍銘柄」の株価の戻りは東証株価指数(TOPIX)500を大きく上回った。多様性に富んでいる企業の回復力がより強かったという事実は、女性活躍を推進できていない、しようとしない企業への大きな刺激となる。SDGsのNo.8「働きがいも 経済成長も」では働きがいのある人間らしい仕事、ディーセント・ワークがカギとなる。国際労働機関(ILO)はディーセント・ワーク実現の戦略目標の一つに社会対話を挙げた。社会対話において重要な役割を担うのが労働組合であり、労使間で話し合いを行い、職場での問題を平和的に解決できる機関である。女性版骨太の方針を達成するには会社だけではなく、労働組合の取り組みが必要不可欠だ。SDGsの達成や多様性の確保のための多岐にわたる取り組みにより、労働組合が今後も大きな注目を集めるのは間違いないであろう。
 労働組合が企業の発展に貢献し、誰もがディーセント・ワークを手にする社会になることを願っている。


参考文献

  • マルイグループユニオンインタビュー調査 2023年6月19日実施
  • 丸井グループホームページ(最終アクセス2023年7月16日)
  • カトリーン・マルサル 高橋璃子訳(2021)『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? これからの経済と女性の話』河出書房新社
  • 金井郁(近刊)「労働組合」駒川智子・金井郁編『ジェンダーから見る人事労務管理論』世界思想社
  • 羽生祥子(2022)『多様性って何ですか?-SDGs、ESG経営に必須! D&I、ジェンダー平等入門』日経BP

  1. 中央労働委員会(2023-06-20)『賃金事情』産労総合研究所、No.2872、p.12
  2. 日本経済新聞(2023)「「おじさん企業」投資家はNO」7月11日付朝刊、インサイドアウト面、p.25
  3. ⅱに同じ
  4. 外務省ホームページ-SDGsとは
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
  5. 国際連合広報センター『2023年の優先課題に関するアントニオ・グテーレス国連事務総長の総会発言(ニューヨーク、2023年2月6日)』
    https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/47764/
  6. 羽生祥子(2022)『多様性って何ですか?-SDGs、ESG経営に必須! D&I、ジェンダー平等入門』pp.151-167
  7. 厚生労働省令和3年度雇用均等基本調査
  8. ⅱに同じ
  9. 2008年採択「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」

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