岡 昭彦
2020年(令和2年)年初頭、日本においても新型コロナウイルス感染症が拡大したことで、経済活動をはじめあらゆるものへ影響が及んだが、現時点においてもコロナ禍収束の先行きは未だ見通すことができない状況となっている。
この感染症の蔓延は、経済活動にとどまらず人々の私生活にも及び、これまでなんの障害もなく行ってきた対面でのコミュニケーションに直接大きな影響を及ぼしている。
筆者はこのような状況下で、パンデミック当初、組合活動を中止せざるを得ない状況が継続するなどの影響があらわれていることに着目した。これまで対話を活動の原点としてコミュニケーションを深め、組合員の切実な声を聞き、活動の礎としてきた労働組合は、対面による活動が抑制され、再開も見通せない状況となったことは、これまでの歴史においても前例のない状況であり、今後の労働運動のあり方が問われるとともに、大きな課題が突き付けられることとなった。一方、コロナ禍をきっかけにオンラインが台頭してきたことによって、対面の代わりとの認知が進む可能性が大いにある。今後コロナ過が収束したとしても、それ以前には戻らないことが予想され、対面でのコミュニケーションが減っていくことへの影響の把握や、対面の有効性の検証が必要で、かつ急速に普及が進むオンラインを活用し、労働運動を補完することができるのか可能性を見出すことが急務である。
その折、筆者は2020年度Rengoアカデミー第20回マスターコースへ派遣されたことで、これまでしたためていた思いを具現化し研究を深めることで、労働運動に突き付けられたこの課題の解決に近づけるのではないかと考察を深め、2021年9月論文を執筆[1]した。この研究成果やその後の情勢を踏まえ、労働運動のあり方等について提言する。
本節では、コロナ下で労働組合がどのような変遷を辿ってきたかという経過とコミュニケーションを取り巻く課題を考察する。実態調査の対象は筆者の出身母体である北陸電力労働組合とした。
2021年初頭からの新型コロナウイルス感染拡大に伴い、北陸地域においても感染者の増加が確認され、当初、東京をはじめとした関東圏の感染者増加が注目されがちだが、その後、北陸地域でも感染が拡大していった。
筆者の出身母体である北陸電力労働組合は会社とユニオンショップ協定を結び、会社の事業として、北陸電力株式会社、北陸電力送配電株式会社が北陸エリアに対して電力供給事業を主力に展開している。
社内の感染防止対策については、地域の感染状況や自治体の感染予防対策などによって随時引き締めや緩和が流動的に行われるとともに、在宅勤務制度の対象範囲の拡大等の措置が取られた。事業活動としては、地域への電力の安定供給と感染症対策を両立していかなければならないという責務のもと、職場組合員はエッセンシャルワーカー[2]として、職務を担っている。
感染拡大の影響は、労働組合の活動の中止、規模縮小などで、交替勤務などクラスターが発生した場合の代替要員が用意できない職場では特に感染予防の意識が高いため組合活動への影響が特に大きい。また、活動には飲食をともなうのがこれまでの通例であったが、特に注意し飲食は控える開催形態をとっている。
これまで対面で行ってきたコミュニケーションの機会が減少する一方、オンラインでつながる機会が増えていることから、改めて組合活動でのコミュニケーションを考え直すため、コミュニケーションを類型化し、コミュニケーションの特質について考察する。
組合員から様々な意見を吸い上げ、それらを収斂し、組合員は総じてどのような思いを抱いているのか、職場にはどのような課題があるのか、何より、組合に何が求められているのか、意見を収斂することで労働運動の針路を見出すことが出来る。その針路をもとに組織としての意思決定、各種執行手続きが行われ、実際の活動に反映していく。これが労働組合の活動の基本的なプロセスと整理する。
量的調査としては、職場組合員がどのような思いを抱き、このコロナ禍を耐えてきたのか、組合員の意識を調査した。対象は、2021年6月時点の北陸電力労働組合の全組合員4,460名とし、オンライン形式で75%の方が回答した。
質的調査としても同じ時期に実施。組合活動を先導していく立場である執行部側はこれまでの経験や、日頃どのような思いを抱いて労働運動にあたっているのか、内に秘めた思いを引き出した。組合活動の基本プロセスをインタビューの補助資料としながら、コロナ禍により対面の機会が減少していることや、オンラインを活動に取り入れることなどを調査。対象として、執行部全体を網羅できるよう本部執行委員長を含む組合専従役員全員に加え、職場側代表として分会代表者全員、計34名に対し実施した。
総じてコロナ禍での不安や不便の意識が高く、感染した場合の周囲からハラスメントを受ける懸念が根強い。また、職場での会話が減っていると感じている方が7割にも及び、対照的にオンライン媒体や電子メール・電話などの通信機器などの非対面コミュニケーションが増加している傾向が明らかとなった。
組合活動の基本プロセスは、意見の収斂から始まり、意思決定、執行・伝達、組合員への展開という流れである。この基本プロセスを用いた役員へのインタビューの結果、総括的に「対面」が重要。議論を深めたり信頼関係の構築が目的の活動では重要な視点であり、一方オンラインの活用は、デメリットもあるため慎重に行うべきとの結果となった。また、対面が望ましいと最も多く回答されたプロセスが、「意見の収斂」であった。口裏を合わせたわけではないが、指導部・分会(現場)とも意見の収斂が最も重要と答えたのは賞賛すべきことであり、同時に脈々と受け継いだ運動の根幹がここにある。
意見の収斂プロセスに求められるものとは、単に組合員より意見を集めることではなく、常に組織全体を俯瞰し、日常業務の繁忙や休息なども含め、日頃のコミュニケーションによって掌握すること。加えて、各職場のトラブルやハラスメントなどにも目を配ることが必要で、組合員の現状を常に把握することを基本に、それぞれの職場でどのような切実な「思い」があるのか、アンテナを高くして情報収集に努め、声なき声をも掬い上げられるように指導部と分会(現場)の密接な情報連携が必然である。そこには分会との信頼関係が根底にあることを忘れてはならない。それが活動の原動力となる切実な「思い」の把握につながり、ようやく必要な活動への示唆となるのである。
労働組合はこれまで、組合員や執行部内外との信頼関係の構築について、対面で集い「対話」に拘ってきた。相談対応であっても、組合役員は職場組合員と面と向かって対応する。あらゆる労働組合の中でも対面は定着し、労働組合の原点は対面で欠かすことのできない重要なものといえる。また、この認識は労働界の中でも産業を問わず広く認知されている。ではなぜ対面を重視し、わざわざ集い、対話、そして会合を繰り返してきたのか。その説明は難しい。コロナ禍がなければこれまで通り、この文化を踏襲し、粛々と対面による交流が各地で行われていたのではないだろうか。
「感染症の蔓延によって人が対面する機会は大きく減った。一方でチャットやビデオ会議によるコミュニケーションが増えている。こうした状態は、人間関係に大きな影響を及ぼすのではないか。」[3]これは京都大学第26代総長の山極寿一氏の発言だ。山極氏はゴリラやサルの研究に長年取り組み、国際霊長類学会会長も務めた日本を代表する霊長類学者で、ゴリラやサルを知ることはヒトを知ることにつながると考え、長年の研究から、現代社会におけるコミュニケーションにも発展させた考えを提言し、コロナ禍を取り巻く環境に対しても多くの考えを発信している。
山極氏は、「信頼関係を構築するために重要なのは、『時間』と『空間』の2つを相手に委ねること。顔を突き合わせ、時間をかけて話をすることで、信頼が形成されていく。便利だからと何もかもオンライン化してはダメ。人間は社会を形成するうえで、移動して、集まるということを繰り返してきた。集まって一緒に食事をし、将来を語り合い、ゴシップを話すことで関係性を確かめ合い、絆をつくってきた。感染症が蔓延しているときは、ソーシャルディスタンスを取る。でも、できるだけ会うという行為そのものをやめてはいけないと思う。」[3]と述べている。
さらには、医学博士であり脳科学者の加藤俊徳氏はこれまで、コミュニケーションや意思伝達に関する内容の研究も手掛け、発行書籍はベストセラーを記録する。加藤氏によれば、「コミュケーションにおいてもっとも大事なのは『同じ時間を過ごすこと』であって、情報のやり取りではなく『同じ時間を共有した』という実感が親密さにつながる。くわえて、大切なことは聞くこと。脳科学の知識を人に教える際に、コミュニケーションの本質としては、知識の共有は重要ではないと感じるようになった。いまではあまり見られない口数の少ない職人的な師弟関係が、ときに親子以上に親密になる理由は、言葉によるコミュニケーションの量ではなく、継承された技術や知識に加えて、達成した喜びなどの感情が共有されているから。つまり、思考と感情が一緒に動かないと本当のコミュニケーションとはならない。」[4]との考えを述べている。
この二人の知見は酷似している部分があり、特に一致している部分は「対面で同じ時間を共有すること」が信頼関係の構築や本当のコミュニケーションにとって重要であるということである。
コロナ禍の影響で、対面の減少が課題となっている例として、大学での学びの場に着目する。文部科学省は、2021年3月、学生の学習機会の確保と新型コロナウイルス感染症対策の徹底の両立のもと、「大学等の教育において、豊かな人間性を涵養するためには、直接の対面による学生同士や学生と教職員の間の人的な交流が行われること等も重要な要素」であるとし、地域の感染状況等も踏まえて十分な感染対策を講じた上で、面接授業の実施について適切に取り組むとした通知を各大学へ発出[5]した。この後、主な大学において対面授業に戻す動きが見られている。
コロナ禍当初は、運営効率化やデジタル活用も含めオンライン化の流れを強くしてきた学びの場であったが、時間の経過とともに「豊かな人間性の涵養」や「学生同士や学生と教職員の間の人的な交流」などの価値が改めて見直され、人間性を養うことや、人間関係構築などには、直接対面による交流が必要で欠かすことはできないものとの見方がされている。従い、これは学びの場だけでなく、人と人との交流が行われる労働界でも言えることではないか。
コロナ禍による社会変容により、企業においても柔軟な働き方という認識が広がってきた。テレワークを重視する企業が見られ、人手不足のなか企業を選ぶ者の立場でもテレワークが出来るかどうかで企業を判断することも多々あるようで、この様な働く者の意識の変化の兆しに目が行く。収束の見通せないコロナ禍を背景に、今後も事業活動へオンラインが進展するだろう。そのため、これまで当たり前に行ってきた対面でのちょっとした雑談や情報交換などのリアルの交流が減少し、人とのつながりが途切れてしまう懸念がある。集まらないことが当たり前になると、労働組合の活動のように集まることが特殊になってくる。
次第に対面の価値が忘れ去られ、その時、はじめて対面の価値に気づいても遅い。事業活動を行い経済を回していく企業は、社会変容や感染症対策などに沿ってこれからも進んでいくだろう。労働組合は企業の方向性に寄せるのか、あるいは運動論という信念を内に秘め組織力を高めていくのか労働組合もまた選択を迫られる時期となってきたのではないか。オンラインが進展している職場では組合活動によって集うこと自体が違和感を持たれたり、会食・会合自体が辞めても良いものと認識されているケースに直面する。組合の役員がこのような考えを持っている場合もあり、非常に残念でならない。
連合は従来より顔の見える活動を訴えてきている。これは即ち対面の重要性を十分に認識している証拠である。国・企業はテレワークを称賛し、経済活動を優先する。連合はオンラインの課題を認知しつつ、減少する対面の機会の有効活用に向けて取り組むことが急務である。オンラインを利用した活動は、対面と比べ開催する側の手間が省略でき安易に多用されやすいため、議論を深めたり信頼関係の構築が目的であれば出来るだけ参集する活動となるよう努力するとともに対面の重要性について認知が進むよう、連合・労働組合は今こそ広く発信するべきである。加えて、コロナ禍を経験し対面の重要性が再認識されていること。連合ビジョンは羅針盤であり、取り巻く環境の変化に応じて内容の点検を行うとしていることからも次回点検の際には本主張を盛り込むべきであると考える。
新型コロナウイルスの感染拡大は、急速かつ強制的な社会全体のデジタル化の進展をもたらした。会社への出社がテレワークとなったり、あらゆる分野でオンラインが進展した。
これらの変化に対しての社会の受け止めは前向きで、むしろオンライン化が称賛される風潮になっている。労働界でもその流れは同じで使い慣れてくれば便利であるし、時間や距離に関係なく各地を一斉につなげてオンラインでの集いが出来ることは新たな活動を創作するモチベーションともなる。また、従来から集まって開催していたイベントでもオンラインでつなぐことが出来るのであれば、なぜわざわざ集まるのかという声は出てくるのは自然なことであるが、対面の重要性がきちんと理解されれば、活動の趣旨内容によって参集かオンラインか判断が出来る。判断の材料として、労働運動の視点で見れば、オンライン特有の不都合さもあり、例えばインフォーマルコミュニケーション[6]は、職場の人間関係構築に重要な役割を果たしていることから、廊下や喫煙エリア等で自然に生じていたような世間話や雑談などこれまで当たり前だったことが、できない状況にあることは認識しなければならない。オンラインの活用に向けて、特に広く多くの地点とつなぎ伝達することなどに向いていることなど新たな活用が期待できるなど特性を理解することで活動の幅が広がる。また、育児・介護など在宅勤務が好ましい方などを考慮すればオンラインで参加する機会が得られる。対面は減少の傾向でその効果を高めていく方向とすれば、オンラインは新たな活動への架け橋となる可能性を秘める。
厚生労働省が実施したテレワークの実態調査結果[7]によると、テレワークで感じた課題の上位に「コミュニケーションが取りづらい」とあり、約半数の方が感じていることがわかる。
企業は事業活動を継続することが最優先課題で、あらゆる産業においてゲームチェンジが起きつつあり、企業においてのデジタル化の進展はいわば当たり前の事である。では、労働組合はどうか。デジタル化の進展によって失われつつある大切なものを守っていくことが連合・労働組合に課せられた使命ではないか。組合員目線でサポートできる取り組みが必要。テレワークが浸透し、オンとオフが曖昧な時代となってくる今、人はどのようにリフレッシュするのか、連合・労働組合に課せられる役割もまた変化が求められる。
連合ビジョンの策定のもととなった検討委員会最終報告[8]によると、労働組合の取るべき進路として、特に運動論について次の記述がある。「労働運動の起点と基点は、常に職場・単組の組合員にある。単組は、組合員のニーズや思いをくみ取り、組合員の関与動機と仕事や働き方のあり方の観点から、問題・課題の発見と解決の取り組みを積み重ねた多様な機会(活動)を創出し、実践することが重要である。そのため単組は、自らの運動目標の実現に向けて組合員の関与総量[9]を増大していく必要がある。」
この部分がいわゆる労働運動の根底であると捉え、筆者の所属する労働組合でも、古来より受け継がれてきた運動の重要な部分と酷似していると確信した。また、この運動論から、連合の枠をこえ、志をともにする仲間と未来を変えていく決意のようなものを感じる。しかし残念ながら、これらは大変重要ではあるものの難解であり、最終報告を読み込み解説してもらわなければ、たとえ組合役員であっても響かない。ビジョンの周知の方法に工夫が必要ではないか。
近年、私たちを取り巻く環境は変化を強いられたことで、その都度、労働組合は困難を乗り越えるため、試行錯誤し藻掻いてきたと感じるが、これからの時代でも全ての運動の根底には最終報告[8]に明記しているような運動論が大切な視点であることに変わりはない。だからと言って、闇雲に運動量を増やすだけでは、組織力の如何によっては組合員からの反発を受けることは必至で、逆効果になると容易に想像がつく。
筆者の所属する電力総連は、産業別労働組合として、組合員数は決して多くないが、これまでの歴史のなかで積み上げてきた「組合員との関与総量」は多い。例えば筆者の出身母体である北陸電力労働組合を一つとってみても、数値を大切にする精神を持ち、対連合、対地協の枠組みでも、各種動員などの運動という視点でも誠実に熱意をもって対応をしてきたと体感してきた。その長年の積み重ねが周囲からの信頼を集め、着々と組織力を高めることに貢献してきたのだと推察する。さらには政治活動も然り、これまで培ってきた運動精神の根底を大切にし、例えば、選挙で組織人員を超える獲得票数が得られてきたのも一朝一夕でできることでは決してない。先人の叡智を結集し、地道な積み重ねの上に、情熱を持った指導部の覚悟と血の滲むような活動が加わり結果につながってきたものと考えている。
目指すべき労働運動の境地とは、指導者たるもの組合員に想いを馳せ、自らの考えを如何に深化させるか、「人」の心を動かせるのかにかかっている。心が動いた者は行動に移し、また他の者へ伝播してゆく。このような熱意が人の輪を広げていく。それが指導部に対する求心力の向上、ひいては組織力の強靭化に寄与するものと考える。そして、できうるならば、連合・労働組合の活動によって多くの方が心を動かされ、共感を集め、それが伝播し、大きな力となり連合ビジョンの実現につながっていけばと願うばかりである。
近年、「組合離れ」という言葉をよく耳にする。この言葉の使われ方や指し示すものとしては、外的な要因によって組合員の方から次第に活動に関心がなくなり、関与することを辞めてしまったというようなニュアンスを感じる。
先に述べた信頼関係の構築について、山極寿一(2017.9)[10]は、「チームワークを強める、つまり共感を向ける相手をつくるには、視覚や聴覚ではなく、嗅覚や味覚、触覚をつかって信頼をかたちづくる必要がある。合宿をして一緒に食事をして、一緒にお風呂に入って、身体感覚を共有することはチームワークを非常に高めてくれる。つまり我々は、いまだに身体でつながることが一番だと思っている。人間は言葉や文字をつくり、現代では電子メールやインターネット、スマートフォンなど身体は離れていても脳でつながる装置をたくさん作ってしまった。安易に『つながった』と錯覚するが実際には信頼関係は担保できているわけではないという状況が生まれている。」との知見を述べ、組合離れとはむしろ組合側の変化による要素も無視できないものではないかと考える。組合員の声を聴くのが生業である労働組合は、きちんと役割を果たしてきたのか。
この考えを補完する材料として、藤村博之(2007)[11]を参照。本稿は組合離れについて論じており、産業別労働組合を対象に組合員1万人に対して行った意識調査の結果をもとにした記述がある。特に若年層の労組に対する認識不足に着目した内容であるが、調査結果によると、「組合離れがよく問題になりますが、あなたはその原因は何だと思いますか」という質問に対して、「建前的な話が多く、ホンネを避けている」が最も多く選ばれ、実に半数を占めているという点に注目した。組合員との意思疎通に課題があることが伺え、近年便利で活用されている電子メールやインターネットなど安易に「つながる」ことができる「対面」以外の手法によってコミュニケーションをとってきたことや、対面で声を聴く活動自体が減少してきた弊害もあるのではないかと考える。
世の中は次第に便利になり、労働運動にもその便利なものが使われていく。失われつつある「対面」という重要な概念を、昨今の「コロナ」が思い出させてくれたと受け取ってもいいのではないか。連合・労働組合と職場組合員の距離感は、知らず知らずのうちに離れてはいないか。これは特定の単組の課題というよりも大なり小なり多くの組合で言えることであると感じており、これが現在の連合・労働組合の組織力と言うこともできる。労働界での組織力とは如何なるものか。労働運動は数が力。組織拡大は重要な視点であるが、先の見通せない昨今、環境変化を乗り切ろうとする力もまた求められる重要な概念であるため、組織力の維持・向上に向けた取組みにも着手する必要がある。
連合が誕生して30周年を経過し、直近の加盟組合員はおよそ700万人にもなる。厚生労働省の労働組合基礎調査[12]によると日本全体の推定組織率は16.9%で年々低下の一途を辿っている。さらに、今般のコロナという災害が、大きな転換点となると感じている。更なる飛躍の起点とするか、積み上げてきたものを瓦解させるのか。
先の参議院議員通常選挙の結果に注目したい。連合加盟産別の組織内候補の獲得票数は軒並み減らしているのが現状である。これをどう見るべきだろうか。コロナによって経済界は打撃を受けたことは周知の事実。では、労働界はどうか。今回の選挙はコロナの影響で従来の活動が出来ない状況があったと聞く。まさにコロナ禍の影響をまともに受けた結果ではないだろうか。
連合は700万の加盟組合員だけ幸せになればよいとは考えていない。すべての働く人たちのために日々の運動に取り組むことで切実な思いを掌握し、働くもの全体のオピニオンリーダーとなることで働くことを軸とする安心社会の実現に近づけていく。このような理念として針路をとっているものと感じた。
これから待ち受ける未来の労働運動が、新たな発展を遂げるとともに、連合の枠をこえた仲間の幸せ実現を祈念し、本稿の結びとする。