『私の提言』

講評

第17回「私の提言」運営委員会
委員長 南雲 弘行

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合が目指す社会像実現のための提言を組合員のみならず幅広く募集を呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて23回目、連合の事業となってからは17回目となる今回は、連合30周年企画と位置づけ、テーマを「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて 連合・労働組合が今取り組むべきこと」としました。

 教育文化協会HP、連合HP、公募ガイドなどを通じて、今回は58編の応募をいただきました。「どなたでも応募できます」という呼びかけに賛同し、労働組合役職員、会社員、教職員、学生、OBなど、多くの方から自身の経験に基づく切実な提言を応募いただいたことは大変喜ばしい限りです。テーマも、今回はとりわけ新型コロナウィルス感染症の流行により社会が大きな変化を余儀なくされる中で、労働組合が今さらには将来にわたって取り組むべきこと、あるいは労働運動・組合活動のあり方を問うものなど足元の課題から今後を展望したものまで多岐にわたりました。その一方で、労働組合役職員からの応募は今回6編と、前回より若干減少しました。また、依然として、連合・労働組合に対する提言が多いとはいえないことや、単位組合(企業)で働く組合員・現役労働組合役職員(特に30代~40代)からの応募が少ないことは大きな課題として受け止めており、次回以降、さらに積極的な働きかけを行っていきたいと考えています。

 提言を評価する任務を与えられている運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言になっているか」「自身の経験を踏まえたオリジナリティある内容であるか」などを念頭に最終選考にあたり、委員の総意で「優秀賞」1点、「佳作賞」1点、「奨励賞」1点、「学生特別賞」1点を選出しました。特に、連合寄付講座を受講している大学生からの応募も続いており、労働教育の裾野が着実に広がっていることは回を重ねるごとに感じています。若い世代が自分たちの社会、未来に対して積極的に提言いただいたことを心強く感じました。
 「優秀賞」を受賞した佐藤弘一さんの提言は、組合員の組合離れが叫ばれて久しい中、自身の経験を交えながらその原因を探るとともに、解決方法を示しており、労働組合の活動の原点は職場であるということを改めて強く思い起こさせ、引き込まれる内容でした。

 最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の廣瀬真理子さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の58編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、より多くの皆様からの提言をお待ちいたしております。

 また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。


寸評

放送大学客員教授 廣瀬 真理子

 想像を超えた新型コロナウイルス感染症の蔓延は、世界中の人々の日常生活に大きな変化をもたらしました。本年夏に、国際労働機関(ILO)のガイ・ライダー事務局長は、ILO首脳会議において、このパンデミック(新型コロナウイルスの世界的流行)によって、労働の世界が「未曾有の危機」に突入したと述べました。
 連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」からも大きく離れてしまいそうな環境に直面して、本年の「私の提言」への応募も減ってしまうのではないかと心配しましたが、昨年の応募数を上回る54本の提言が審査対象となりました。
 受賞提言の選考過程において、評者の着目点の違いなどから審査員の間で評価が分かれたため、その決定は容易ではありませんでしたが、議論を重ねた結果、本年は、優秀賞、佳作賞、奨励賞、学生特別賞が1本ずつ選ばれました。以下に受賞提言を紹介します。
 まず、優秀賞に選ばれたのは、佐藤弘一さんの「労働組合の求心力向上のために~組織の求心力の向上のために、組織の成果をあげるために~」と題する提言でした。佐藤さんは、バス労組の世話役の視点から、労働組合員の「組合離れ」の原因と解決方法について提言を行っています。組合員が、自主性や多角的な視点を持って積極的に行動することを促すとともに、組合のリーダーに対しては、向上心などの資質や組合員への配慮が必要であると述べています。結論で、労働組合の役割を「会社側と労働者側の潤滑油」としていますが、常にそうであればよいのか、そこに矛盾は生じないのか、もう少し詳しく検討する必要があるように思いました。
 佳作賞は、小野正昭さんの「今こそ若年無業者及び失業者と和解し、社会への再合流を果たさせるべき時」が選ばれました。小野さんは、いわゆる「就職氷河期」に不本意に非正規雇用者として生活した経験をとおして、「コロナ禍」により再び予想される若年失業者の増加と、それに対する労働市場復帰の方法とセーフティ・ネット給付のあり方について提言を行っています。若年失業者が「適職」にマッチングできないことが課題とされていますが、題目にある「和解」とは誰が和解するのか、「社会への再合流を果たさせる」のは誰なのかという点について議論を深めていただけましたら、より明確な提言になったと思います。
 奨励賞は、大学生の荒川友里佳さんの「パート・アルバイトのための新たな労働組合の形―連合に向けて、属性別個人加盟ユニオン設立の提言―」に決まりました。荒川さんは、大学生も対象に含めた非正規労働者のための個人加盟ユニオンの設立を提言しました。
 学生特別賞は、廣野風跳さんの「副業・兼業における労働時間管理の困難性―逆転的提言と連合・労働組合の役割」が選ばれました。廣野さんは、多様で柔軟な働き方として副業・兼業制度を構築すべきという提案を行っています。
 そのほかにも、賞には結びつきませんでしたが、「コロナ危機」の時期だからこそ、目先にとらわれず、将来を見据えて社会の枠組み自体を問い直そうとする、視野を広げた提言が印象に残りました。また、医療、教育、社会福祉の現場の課題について、それぞれの専門職の視点から検討した提言も心に留めておくべき貴重な内容でした。
 「未曾有の危機」といわれる労働世界において、そこから立ち直るためのさまざまな発想が必要な時期でもあります。今後も皆様からの提言をたくさんお寄せください。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 コロナ禍のこともあって、自宅で時間があったのか、10代から80代までの応募があっただけでなく、10代から30代の若手の応募が半数を占めたのが今回の特徴でした。
 また、コロナ禍の中で、中田敦彦さんや 名嘉眞要さんなどYouTuberの影響もあり、政治に関心を持つ若者が増えたのか、20代の応募も10人以上ありました。彼らの提言もよく調べていたり、熱意のある提言でした。

そんな中で、特に審査員の注目を集めたのが、「副業や兼業における時間管理の困難性」を扱った千葉大学法政経学部の廣野風跳(ひろのかざと)さんの提言でした。
 兼業・副業を推進・容認している企業が30.9%、実際、している人やしたことがある人が38.8%、未経験だけれど興味がある人が72.9%の時代に「連合や労働組合の役割は何か」を提言した内容です。海外の事例なども書かれていて、時代に合ったテーマでもあるので、ぜひ、労組の執行部には読んでもらいたい内容です。ただ、よく調べているもののもう少し踏み込んで提言して欲しかったため、学生特別賞とさせていただきました。
 優秀賞は、「労働組合の求心力向上のために」を提言された佐藤弘一さんに決まりました。佐藤さんは、現在大分バス労働組合南支部の中央委員であるだけに労組の現状もよく理解されていて、共感できる内容です。組合活動を「やらされている」と感じる組合員が多い中、どうすれば、「自分の問題として解決してもらえるか」を真剣に考えられての提言で、好感の持てる提言です。ただし、個人的には、もう少し具体案が行動レベルまで落とし込めた提言にしてもらえたら、もっと素晴らしいものになると感じました。
 佳作に選ばれたのは、就職氷河期世代で非正規として約20年のキャリアを積み、現在うつ病を治療しつつ就労A型事業所で社会復帰のリハビリ・トレーニングを行っておられる小野正昭さんでした。「ベーシックインカム」「モチベーション」などにも触れられていて、かなり現状をつきつけられる内容でした。が、提言力がもう少し欲しかったために佳作となりました。これからに期待したいと感じます。
 奨励賞は、一橋大学の荒川友里佳さんでした。提言は、「パート・アルバイトのための新たな労働組合の形」で、パート・アルバイトの現状にも触れていて、読みやすい提言です。もう少し、政策や制度にも踏み込んで学んでもらえるとより良い提言になると感じ、奨励賞にさせていただきました。

 WEBサイト「登竜門」や「公募ガイド」などの媒体を利用することにより、提言を幅広く知ってもらうようになったけれど、寂しいのは、組合員からの提言が少ないことです。やはり、組合に関わっているみなさんからの真剣な提言をわたしは読ませていただきたいと感じています。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 連合「私の提言」募集の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会をいただき、評者にとって11回目を迎えた。今回の選考で特筆すべき点は、優秀賞の選出に関する議論において前年以上に委員間で意見が噴出し、難しい選考を強いられたことである。そんな中、優秀賞1編、佳作賞1編、奨励賞1編、学生特別賞1編を選出できたことには安堵の思いもある。

 まず、全体を概観する点から今回の特徴を挙げたいと思う。相対的に学生の提言に完成度の高いものが多かったこと、10~30歳代の応募が多くなったこと、他方、高齢者層の提言にはコロナ禍において示唆に富むものもあり、評者としては大いに刺激を受けた点である。

 しかしながら、優秀賞の選出に関しては難航した。前回は優秀賞「該当なし」との結論に至ったが、今回は委員間で激論の末、2年連続の「該当なし」は避けるべきであるとの結論に至り、最終的に佐藤氏の提言を優秀賞とした。組合員の組合離れの中、組合員の意見を徹底的に聴いて改善すること。具体例を示しながら、会社あっての組合、会社の繁栄なくして組合員の繁栄はあり得ないこと等の基本的なことを平易な表現と文章で分かりやすくまとめている点が評価された。ただ、経験を活かして踏み込んだ提言があればとの意見が各委員から出されていたことは付記しておきたいと思う。

 佳作賞の小野氏に関しては、評者と同じ就職氷河期世代であり、その視点から現在の制度の課題を的確に捉えており選に入った。奨励賞の荒川氏は学生だが、連合等が非正規の方の声を汲み取り、行政に反映させるプロセスが十分に機能していない点を指摘したうえで、新しい形を提言している点が評価された。学生特別賞に選出された廣野氏に関しては優秀賞を選出するなら優秀賞でも良いのではないかとの議論がなされたが、今後に期待する意味で学生特別賞となった。現在の課題でもある副業と兼業における労働時間管理の在り方について論じており、諸外国との比較と問題の解決案、連合の役割、日本の労働時間管理の問題意識についても言及と提言があり、評者は高く評価している。

 今回は優秀賞の選出有無で大きな議論にはなったものの、コロナ禍において多くの貴重な提言をいただいたことに心から感謝するとともに、今、この時代に社会が抱える課題に連合がいかに対応していくのか、どう具体性を持たせていくのかが問われていると考える。今回の選考プロセスにおいては、社会の在り方が問い直されている今、連合が向き合うべき課題について改めて考えさせられた次第である。


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