私の提言

佳作賞


今こそ若年無業者及び失業者と和解し、
社会への再合流を果たさせるべき時

小野 正昭

 今年世界中を襲ったコロナ禍により、我が国も未曾有の失業者を生み出した。完全失業者は本稿執筆時(2020年6月)、集計できている時点(2020年4月)で178万人に達した。リーマンショック時のおおよそ350万人を超える勢いだと見る筋もある。

 私は現在41歳であり、就職氷河期世代(ロスト・ジェネレーション世代)に当たり、非正規雇用者が莫大に増加した社会情勢を、20代、30代と駆け抜けてきた。自身もいわゆる不本意非正規雇用者として、幾度となく転職を余儀なくされた経験を持つ。労働環境がブラックな職場を転々と渡り歩き、月の残業時間が100時間を超える労働を数年に渡り継続した結果、うつ病を発症し、現在は治療と並行し、就労継続支援A型事業所に通所しながら社会復帰を目指しているという境遇だ。そんな私から、来たる新たな氷河期時代の到来を前に、今我々が取り組むべき施策を“提言”したい。

 2020年5月中旬、共同通信社によるアンケート(※1)により、バブル崩壊後に就職難だった就職氷河期世代を採用する予定がないとした企業は、約9割にのぼっていることが判明した。政府が要請した氷河期世代の救済に対し、大半の企業はそれに応じられないという回答だったのである。我々ロスト・ジェネレーション世代の救済も絶望的に進まない中、このコロナ禍により、新たな大量の失業者をこの社会は抱えることになる。

 総務省の『労働力調査』(※2)では、2019年時点で若年無業者は74万人とされている。ここに、コロナ禍による失業者が合流するのだから、政令指定都市の人口に匹敵する(あるいはそれを超える)働き手を、我が国は燻ぶらせることになる。ただでさえ、少子高齢化に伴う人手不足が深刻化する一方で、社会情勢による不条理な要因でさらに労働人口が消失してしまった。この問題に求められるアプローチは様々山積していることは火を見るより明らかであるが、この場では、若年無業者及び、新たに生み出された失業者の中に含まれる「働く意欲はあるが、働く場所がない」人に対する施策について論じてみたい。身体・精神障害者など、健康上の問題などの理由により稼働能力を有さない人達は、ここでは取り扱わないこととする。

 内閣府の『令和元年版子供・若者白書』(※3)によると、若年無業者が求職活動をしない理由は、約半数が「病気・けがのため」であったが、次いで多かった回答が「その他」である。「知識・能力に自信がない」「探したが見つからなかった」「希望する仕事がありそうにない」といった、昨今の社会情勢を鑑みればある程度想像がつきそうな理由を抑えて、「その他」と回答した人が、15歳から39歳の調査対象全年齢において約40%に及んだのである。「その他」をどう解釈すれば良いか判断に苦しむところではあるが、働かなければいけない“気分”ではあるが、なぜそうしないのかの理由は“判然としない”という心境が「その他」を選ばせているのかもしれないと、私は推察している。

内閣府 令和元年版 子供・若者白書 若年無業者が求職活動をしない理由

 またこちらも総務省の『労働力調査』における結果(2019年度)であるが、最も多い失業者が仕事につけない理由は「希望する職種・内容の仕事がない」というものであった(47万人)。そして、最も少ない理由は「条件にこだわらないが仕事がない」であった(9万人)。ここから見て取れるのは、働く意欲のある失業者においても、仕事ができれば何でも良いと考える人は少数派であり、就業においては何らかの自己実現を求めているという心情である。

総務省 労働力調査(詳細集計) 2019年(令和元年)平均結果

 まとめると、稼働能力を有しているが就職に結びつかない層というものは、仕事ができれば何でも良いということではなく、それなりに仕事を選んでいるということだ。また若年無業者に至ってはその傾向が顕著であろうが、両親などがいまだ健在で、仕事をしなくても生活がそれほど困窮しないという状況が、彼らが自室に引き篭もり続ける後ろ盾として機能しているだろう。再就職を拒む失業者にしても、失業保険などのセーフティネットが機能している間は、無理をしてでも働く必要がないという状況を作り出していることは想像に難くない。

 しかしながら、たった今生活が困窮しないからといって、彼らが再就職に対して積極的なアクションを起こさないことは結果として、我が国の破綻を招く。親の高齢化などで経済的な後ろ盾を失った若年無業者や、失業保険の切れた失業者は、生活保護になだれ込む。「厚生労働省非保護者調査(令和2年3月分概数)」(※4)によれば、生活保護受給者は近年210万人程度で横ばいとなっているが、このコロナ禍により急増することは想像に難くない。

厚生労働省 被保護者調査(令和2年3月分概数)

 市井では、ベーシックインカムなど社会保障の抜本的な改革が論じられている昨今ではあるが、現状それらが実現するかどうかというのは全く不透明であり、生活保護が我が国における最終的なセーフティネットであるという現実は変わらない。そして、このセーフティネットに、稼働能力を有するのに漠然と社会における自己実現に疑問を感じる者達が、一斉に飛び込もうとしている。8050問題が示すように、若年無業者を支える親たちの経済力は限界に近い。

 この場においては、将来的に生活保護がどこまで彼らを支えきれるのかを論じることは主題としない。若年無業者及び、稼働能力を有するものの「希望する職種・内容の仕事がない」として再就職を拒む失業者に対する施策を考えてみたい。いわば、どこまで生活保護というセーフティネットにかかる負荷を軽減できるのか、あるいは、どこまでその資源を現実に即した形で有意義に活用できるのか、という考察が本稿における「私の提言」の主題となる。

 再就職に至らない理由が漠然としている若年無業者と、「希望する職種・内容の仕事がない」失業者における共通のキーワードとして、「就業を通しての自己実現への欲求」が透けて見えてくることは、先にも述べた。ここでさらに、現状の就労支援の構造と実態についての問題点を堀り下げてみたい。

 我が国の就労支援には2本の柱がある。身体及び精神障害者を対象にした就労継続支援事業(A型、B型)と、生活困窮者自立支援法に基づく認定就労訓練事業である。まず就労継続支援事業(A型、B型)においては、こちらもこちらで様々な課題が積み上がっている領域であり、この問題へ労働組合の立場からの課題解決を試みる意義もないわけではないが、本稿においては「働く意欲はあるが、働く場所がない」人に対する施策について論じるに留めたい意図があるため、あえてこの問題については触れない。

 就労支援のもう1本の柱である生活困窮者自立支援法に基づく認定就労訓練事業についてはどうか。そもそも生活困窮者自立支援法は、生活保護に至る前段階で生活困窮者を支援する目的で2015年に制定された法律である。住居の確保、貧困家庭の子供の救済、家計相談といった統括的に困窮者の自立支援を促す事業に並び設けられた中核として、就労訓練事業がある。さらに中身を見てみると、「日常生活に関する支援」「社会自立に関する支援」「就労自立に関する支援」と3つに区分し、一般就労へ段階的に進められるように設計されている。この制度設計は一見すると、理に適ったもののように見受けられるが、これも「社会には働く場所が十分に用意されている」という前提に立っている点において、問題の中核を捉えているとは言い難い。

 先に述べた通り、現在の稼働能力を有する若年無業者と失業者において、再就職への動きを妨げる統計上最も大きな理由は、漠然とした社会全体に漂う倦怠感(理由「その他」)と、「希望する職種・内容の仕事がない」という働く場所、つまりは受け皿に魅力がないという悲痛な叫びである。いくら自治体や支援団体から、就労に向けてスキルアップをしましょうと呼びかけられても、そうまでして働きたい職場がないのであるから、そもそもの出発点においてすれ違いが起きている。

 余談ではあるが、本稿執筆において、現場の生の声を取材するためインターネット上の文献や動画資料などを適時探していたわけだが、就労訓練事業においては求職者自身の情報発信が皆無であった。就労継続支援事業(A型、B型)については、サービス提供者(事業者)側も利用者(障害者)側の発信も、それぞれ盛んに行われており、どちらの立場とも生の声の収集に苦労はなかったが、生活困窮者自立支援法に基づく就労訓練事業はこれとは正反対の状況だ。検索結果として表示されるのは自治体や厚労省の報告書ばかりでうんざりさせられたものだ。いかにこの事業が一般市民にとって存在感のない空転している施策であるかを、如実に物語っているようだった。

 そして今回のコロナ禍により、2020年度内のセミナーや訓練は軒並み中止になっている。就労支援に限らず、法律や家計などの相談会も同様の状況である。期待されている生活保護に至る前段階としてのセーフティー機能は完全に失われ、失業者を始めとした生活困窮者は、一直線に生活保護の網の目に飛び込んでくる状況だ。つまり、身体や精神に障害を有する者以外の健常者に対しての再就職支援は、現在のところ全く機能していないといっても差し支えのない、由々しき事態に陥っているのである。

 健常者の失業者を、「スキル不足」と評価し、指導・育成していくという視点で出発した生活困窮者自立支援法に基づく認定就労訓練事業は、そもそもの前提が空転している。一般就労そのものがゴールとなり得る前提であれば、いわゆる福祉的就労・中間的就労に意義も生まれるが、今大量に生み出されている失業者は、その「一般就労」から振り落とされた者達であることを忘れてはならない。その中には不本意非正規雇用と呼ばれる立場に甘んじつつ、明日の希望を信じて苦境に耐えていたにも関わらず、今回のコロナ禍で企業から一方的に雇い止めにより雇用が打ち切られた者も多くいるはずだ。その絶望たるや、である。失業者に本質的に足りていないのは、“スキル”ではなく“モチベーション”なのだ。

 私はここに提言したい。コロナ禍により、新しい生活様式への適応が求められるのであれば、社会生活における基本行動である“勤労”にも、新しい価値観の創出が求められるはずだと。そしてそれは、常に社会の移り変わりに最前線で敏感に反応しながら労働問題と戦ってきた労働組合こそが主導していくべきだと。新しい価値観とは具体的に何か。私は、「非営利活動(ボランティア)の再評価と実践」を挙げておきたい。

 現在の「働く場所がない」と訴える失業者、そして“漠然”とした理由で働かない若年無業者は、資本主義経済の限界を体現している存在だと私は考える。JAGフィールド株式会社が2020年1月配信したプレスリリース(※5)によると、20代~30代の男女を対象にした調査で、3人に1人が何らかのボランティア活動に参加し、ボランティア活動に参加後、社会貢献への意識が変わったと答えた人は74.9%にも上った。要因としては、東日本大震災から続く相次ぐ自然災害により少しずつ若者世代の意識が変化していったことが挙げられている。また昨年、2020年開催予定だった東京オリンピックへのスポーツボランティアへの応募が、定員8万人に対して20万人もの応募があったというニュースも記憶に新しい。

 バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍。これらが引き起こした大不況は、資本主義経済の限界と歪みを、広く一般市民へわかりやすく示してきた。これにより、働くことへの絶望と諦念により自室へ引きこもる国民を、300万人、400万人(あるいはそれ以上の数)生み出した。彼らを再び社会に呼び戻すためには、育成や指導が必要なのではない。新しい価値観の元に創出された社会的タスクへの参加要請なのである。

 連合ビジョンとして掲げられている「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」。私は連合に、若年無業者や失業者たちの尊厳と生きがいを「まもり」、彼らを非営利活動を主体とした社会的タスクへと「つなぎ」、新しい勤労の価値を「創り出す」ことを期待したい。

 特に連合の新たな「社会のセーフティネット」の提案に着目している。その中でも「積極的雇用政策と連携したセーフティネットの再構築」として「就労・生活支援給付」(※6)は、現役の就職氷河期世代(ロスト・ジェネレーション世代)として、大いに共感、賛同できる。これは、現在の雇用保険と生活保護の中間に第2のセーフティネットとして機能させることを目論んでおり、生活保護ほど所得・資産要件を厳しくしない代わりに、就労をゴールとした明確な目標設定を条件とし、受給期間も最長5年に制限するというものだ。既存の生活困窮者自立支援法よりも、現金給付が前面に打ち出されている分わかりやすく、“即効性”も期待できよう。しかし、繰り返しの主張となるが、一般企業への就労のみを目標とするならば、ブラック企業で疲弊しきった失業者や、漠然と社会に参加することに不安を感じている若年無業者の心は掴みきれない。就労先という受け皿も増やさなければならない。そしてそれは、量的な問題ではなく、バリエーションの問題なのだ。いくらブラック企業や不本意非正規雇用の就労先が量的に増えたとしても、それは1度心が折れてしまった者には響かないのである。

 ではどうするか。既存のNPO法人との連携強化を提案したい。個々のNPO法人が抱える問題を十把一絡げに語れるものではないが、数多くのNPO法人が慢性的な人手不足に陥っている。2019年に内閣府がまとめた『平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査』(※7)では、約6割の法人が「人材の確保や教育」を課題として抱えているというデータがある。またそれに次ぐ課題は「収入源の多様化」(約5割)である。この2つの問題を解決すべく「就労・生活支援給付」に連動した助成金を新たに創設してはどうか。

内閣府 平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査

 求職者にはNPO法人が目指す「社会利益の追求」という新しい働き方の魅力をプレゼンする一方で、NPO法人にも「就労・生活支援給付」に連動した助成金で、採用に係るリスクやコストを低減させる。求職者と受け皿は両輪と捉え、それぞれに手厚いサポートを行い強化、支援していく。

 『平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査』では、「後継者の不足」も第3の課題として挙げられている。NPO法は1998年より施行され、当時20代・30代の若い起業家も多く参入したわけだが、今や彼らも40代・50代と高年齢化が進んでいる。一方で、その後継者に成り得る現在の20代・30代は、様々な労働問題に絶望し、社会への参加を拒否する者が増加している。この両者を新たに連合が提案する「就労・生活支援給付」の仕組みによって「つなぎ」なおすことが、新しい勤労価値を「創り出す」ことにならないだろうか。

 何も新たに取り込むのは20代・30代などの若年層に留まらないだろう。就職氷河期世代である40代、バブル世代のリストラ組である50代の中にも、既存のNPO法人が求める人材が数多く眠っていることだろう。豊富な業界で、多彩な社会人経験を持つこの年代は、とかく福祉業界出身者で固定化しやすいNPO法人に、新たな風を吹き込む即戦力と成り得るだろう。この潮流は、国際的に意識が高まっているディーセント・ワークの実現にも通ずるはずだ。

 年齢、健康状態等の稼働条件をクリアしつつも仕事に就くことを拒否している者達。彼らを「怠け者」と断ずるのは易しい。しかし、それではこの国はゆっくりと確実に沈んでいく。彼らの声なき声にどこまで真摯に向き合えるだろうか。超高齢化社会において、稼働能力を有する若者世代の声は、選挙という多数決の原理に拠った民主主義の現場からは、その構造上かき消される運命にある。であるからこそ、“数の力”ではなく“ビジョン”によって政治力を発揮する労働組合の立ち振舞いが鍵となるのである。若年無業者や、再就職へ消極的な態度を取る就職氷河期世代達は、社会に対してストライキを断行していると言える。今こそ彼らに歩み寄り、和解し、社会への再合流を果たさせるべき時なのだ。彼らに不条理で不平等な劣悪な就業環境を提示するばかりでは、事態は動かない。本質的に人は自らが属する共同体、社会への貢献を求める生き物だ。NPO法人が各々に掲げる社会貢献への理念。それらを連合が提唱するところの「就労・生活支援給付」と繋ぎ合わせ、新たな就労価値を生み出すこと。それは、社会へのストライキを断行する彼らに対する、1つの大きな魅力に溢れる選択肢の提示となろう。これを仕組み化し、社会に新しいうねりを作り出せるのは、労働組合だけである。

 以上が私からの提言である。連合のこれからの30年に、1人の労働者として大いに期待し、目指すビジョン実現の一助となれるよう、自分自身も1歩1歩着実に歩んでいきたい。

参考資料

  1. ※1 共同通信社アンケート 氷河期採用、9割弱予定なし 政府要請に協力広がらず
    https://news.yahoo.co.jp/articles/85739c2e0ae65035e75e3aba0d8d4510b4105efe
  2. ※2 総務省 労働力調査
    https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
  3. ※3 内閣府 令和元年版 子供・若者白書 若年無業者が求職活動をしない理由
    https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s3_2.html#z3_04
  4. ※4 厚生労働省 被保護者調査(令和2年3月分概数)
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hihogosya/m2020/03.html
  5. 5 JAGフィールド株式会社 2020年1月配信 プレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000048195.html
  6. ※6 連合 第2層ネットの「就労・生活支援給付」の考え方
    https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/kurashi/data/saftynet_1-3.pdf?8093
  7. ※7 内閣府 平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査
    https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/npojittai-chousa/2017npojittai-chousa
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