私の提言

優秀賞


労働組合の求心力向上のために
~組織の求心力の向上のために、組織の成果をあげるために~

佐藤 弘一

はじめに

 労働組合は、敗戦後GHQの指導により、労働組合の結成・活動を奨励する方針を明らかにし、それを受け日本政府は、1945年12月に労働組合法を成立させた。それにより多くの労働組合が組織された。当時は現在よりもはるかに生活水準が低かったため、労働条件や低賃金に対する対策は急務であった。その後、高度成長期に入り、賃上げ闘争など、労働組合が高まった時期もあったが、現在は生活水準も向上し、労働組合として取り組むべき課題が多様化しているように思える。
 最近では、会社側は目標管理制度、成果主義などを採用し、労働者個人の成果(売上)に応じた賃金体制に移行しようとしている風潮もあり、今までのような賃上げ闘争や労働条件の改善等に固執している場合ではなくなっている。(最近のコロナ禍では、在宅勤務が推奨されるようになり、ますます成果主義が問われるようになった。)
 このような風潮は組合員の組合活動に関する疑問に繋がり、それにより組合組織が、組合活動に参加するように半強制的に統制をかけ反感を持った組合員がますます組合活動から離れていくという負のスパイラルに陥っているように感じる。
組合員の「組合離れ」は結果であるが、組合員の組合離れの「原因」および「解決方法」について提言していきたいと思う。

現状

 私自身、組合員の世話役として日々感じていることは、組合員の組合活動に関する無関 心さである。つまり組合活動を「やらされている」と感じている組合員が多いということである。会社あっての組合活動を「やらされている」と感じていれば、当然日々の運転業務に関してもモチベーションは下がっている。特に感じるのは、次の3つである。

  • ■組合に対する信頼の低下
    賃金闘争でのベア、一時金の要求額と妥協額の乖離
  • ■仕事に対する責任感の低下 
    事故、苦情の増加
  • ■仕事に対する主体性の欠如
    運転士を守らない業界構造、最近ではコロナ禍による減便によるモチベーション低下、また自粛によるストレスもあると思われる。

 これらは、職場集会の参加率の低下や組合行事(懇親会等)の参加人数の低下にも表れている。

求心力のある組合組織になるために

地域ごと、会社規模ごと等各社の経営規模に応じた賃金要求
 我々のような地方の会社でも賃金闘争は、総連の統一要求に基づいて行われる。資本や運賃収入の大きい大都市圏の大手私鉄と補助金を貰って路線を維持している地方の会社と同じ要求をするのは到底無理である。地域ごと、あるいは会社規模ごと等、各社の経営規模に応じた賃金要求をするべきである。

人のせいにせず自分自身の問題として捉える

 会社側、組合役員、組合員に共通して言えることは、我々を取り巻く問題を自身の問題とせず、他に責任転嫁していることである。いろいろな人と話して必ず出てくるフレーズとして、「いくら言っても会社は聞いてくれない。」、「組合に言ってもなあ…。」、「補助金増額してくれたら…。」
自分自身の問題として捉えず責任転嫁している状態では絶対に解決しない。
 会社が聞いてくれないのであれば、同じことを粘り強く交渉することも大切であるが、アプローチの方法をかえるのも一つの手であると思われる。運転士視点だけでなく、顧客視点、あるいは経営的な視点から提案する必要もある。

【従来の交渉方法】

【理想とする交渉方法】

「顧客満足度」、「売上増」、「最適な車両配分(効率化)」等、会社側が興味を示すキーワ ードを用いることで、攻めるのでなく、提案という形で話を持っていくということも必要 と考える。

 また補助金の問題も大きいと考える。

 補助金に頼った路線では、「自治体からの依頼で運行している。(運行してやってる。)」というような意識を持っているようである。補助金が打ち切られたので、路線廃止もやむ負えない。というのではなく、「補助金が出るということは、自治体から運行のチャンスを与えられた!」、自分たちで路線を維持しよう。という考えを持つべきである。
 このような路線はローカル路線であり、利用者も多いとは言えない。当然利用も特定され、利用者の生の声を聞く絶好のチャンスでもある。またローカル色が強いため、気さくな利用者も多い。組合主導で運転士がどんどん利用者の声を聞き路線維持のためのヒントを貰うべきである。
 「補助金ありき」で収支の計画(運賃収入)を考えるのではなく、「補助金=臨時収入」的な考えが必要である。

明確なビジョンを持つ

 組合活動は、賃上げ交渉に重点を置きがちであるが、昨今のバス事業の収支状況では、大幅な賃上げは見込めない。賃上げは収入が増えて、初めて実現するものであり、「無い袖は振れない」状態では、所詮は無理というものである。冒頭の「はじめに」のところでも述べたが、労働組合として取り組むべき課題が多様化している。
 大幅な賃上げが見込めないのであれば、本来の主旨である働きやすい職場環境の構築に舵を取るべきである。社会の多様化で組合員は、賃金の不満以外に、長時間労働、職場環境、育児・介護と仕事の両立など、さまざまな不安や悩みを持って働いている。働いているお父さんは、ちょっと昔までは「仕事」と言えばすべてが許される風潮があったが、共働きの家庭も増え、現在では、育児や介護等、家庭環境が重視されてきている。また「仕事」故、誰にも悩みを相談できず一人でなやみ、鬱病や自決する方々も多い。組合員に寄り添うというビジョンを明確にして、①組合員に寄り添い、働きやすい職場環境を作り、②組合員一人ひとりのモチベーションが上がれば、③必然的に会社の収益が改善し、結果的に賃金が上がる。というステップを踏んだビジョンを提唱していく必要があると考える。

 これらの話をフロー化すると、次のようになる。

ビジョンを基に組合員を動かしていく

 「ビジョン」とは、「将来のあるべき姿を描いたもの。将来の見通し。構想。未来図。未来像。」である。(出典:大辞林(第3版)。
 「組合のビジョン」とは、「組合員、会社の将来の理想像や未来の光景」である。組合のビジョンを実現していくには、組合役員の主導が必要になるが、まずは、ビジョンを明確にし、ビジョンがブレることのないように、確固たるゴールを定めることが必要である。
 ビジョンを定めたら、次のことを実践する。

もっと組合員の意見を聞く

組合の専従役員以外は、日ごろ他の組合員と同じ仕事をしている。忙しい時、気分が乗らない等、いつでも意見を聞く準備ができているとは限らない。いくら意見を述べても場合によっては論破されてしまうことも多い。
⇒組合員一人ひとりの意見を集約し、一覧等にまとめ定期的に解決に向けての進捗報告等を行うべきである。

本音と建前を腹を割って話す

 春闘や秋闘で要求が通らなかった場合、組合役員は「言い訳」をする。言い訳の内容は「建前」である。一方要求においては「本音」で組合員を煽る。
 組合活動は組織活動であるため、どうしても本音と建前というものが存在すると思うが、あえて本音と建前を話すべきである。組合員は分別のある大人である。
⇒あえて本音と建前を話すことで、信頼関係を得ることができる。(腹を割って話すと言うこと。)

組合役員が組合員に対し官僚的(高圧的)にならないように接する

 組合役員は、一般的に「怖い」というイメージがある。「組合に逆らうと会社に居られなくなる。」、「きついダイヤが配車される。」、「意地悪される」等が都市伝説にように言われている。これは、組合役員が管理職より年功や年齢が上になっていることが原因であるとも思われるが、結果的に組合員は会社の管理職よりも組合役員を恐れるようになっている。これは人事権や配車、班編成等本来会社側が行わなければならないものにも影響を与えている。組合員の統制という面もあるかもしれないが、
⇒会社の仕事、組合の仕事の分別を持って行動するべきである。

意見や批判があっても、自分でやれ!と言うな!

 私が以前の職場で経験した話であるが、会議の場で発言したり、提案したりすると、間髪を入れず、「自分でやれ!」、「誰がお金出すんだ?」などその場で論破、否定されてしまうことが多々あった。無能なリーダーや管理職と呼ばれる人は、人を否定することで自分の立場を有利に見せようとする行動を取ることがあると言われているが、まさに典型である。このような問題は組合員と組合役員の間でも起こっている。リーダー(組合)の最大の仕事は組合員に心地よい労働の場(職場)を与えることが最大の命題である。
 職場づくりには、「お金」、「時間(人)」、「モチベーション」という3つの要素が必要と言われているが、「お金」の問題はこの場ではとりあえず取り敢えず置いておき、特に「時間(人)」、「モチベーション」の注入に全力を尽くすべきである。
 組合員の組合に対する意見(提案)は、しばしクレームとも受け取れ、耳の痛い話でもあるが、クレームというのは、対応次第では「最大の営業」とも言われていることから、組合員からの意見は組合組織に対する最大の絶賛ととらえるべきである。

強さだけでなく、時には弱さも見せる

 弱さを見せるということは、上に立つ人間ほどできないことである。「弱さを見せること=弱みを握られる、あるいは舐められる。」という感覚を持っていると思うが、実は弱さを見せることによって信頼関係が深くなる。闘争での妥協や間違った判断もすることもあるだろうが、その場合組合員に対し、謝罪し「力をかしてください。」とお願いするべきである。それにより交渉が成功した時には、組合員と課題を一緒に乗り越えた体験が共有でき、運命共同体としての絆はますます深くなる。  間違いや弱点を一切隠さず、言い訳もせずに認めることができるように、まずは人間力を磨くことが大切である。

具体的な活動内容

 単組における組合の委員長はしばし、社長と同等であると言われる。ということは組合の委員長レベルの立場に居る人は、企業の社長並みの資質を持つ必要がある。では社長の資質とは何か

立ち位置を再確認

 組合役員は、組合員の上司ではない。でも現場の苦労を会社側の誰よりも熟知している人である。また組合役員は選挙にて選ばれた人たちである。組合員の良きパートナーとして相談に耳を傾け、経験をもとにしたアドバイスをするような、頼もしい兄貴としての振る舞いが大切である。

財務・経理に関する知識をつける

 企業経営の3要素は、「ヒト」、「モノ」、「カネ」と言われている。これは組合組織を管理することにもあてはまる。「人」に関しては、今までいろいろ述べてきたため割愛するが、「モノ」と「カネ」を最適に管理することによって、賃金要求がどれほど無謀であるか、会社の設備投資に関し反対意見を述べることが、どれだけ会社経営の足を引っ張る結果になるのか自ずとわかるようになる。損益計算書や貸借対照表、キャッシュフローなど、経理が担当するようなお金に関する知識を持ち、経営コンサルタントになれるくらいのスキルを身に着けることが大切である。日ごろからセミナーに参加したり通信教育を受けるなど常に学び、経営パートナーとしてのスキルが必要である。

コミュニケーション能力をつける

 社会人なら一般的に必須とされるコミュニケーション能力であるが、組合員を動かす組合役員にとっても当然必要である。コミュニケーション能力とは簡単にいうと情報伝達能力である。組合員が集会に参加しなかったり、組合活動に非協力的であったりすると、感情的(統制という言葉で脅す)になりがちである。会社の経営状態や日々の収支状況など、組合員に対していかに正確、かつオープンな情報伝達を行えれば組合員の士気も変わる。

将来を読む先見性を持つ

 組合役員は、長い間現場を経験した方々である。また非専従の組合役員は日々の業務において会社の状況等を肌に感じる部分も多いと思われる。
 現在行っている業務は将来的にどうなるかなど将来の状況を考え適切な意見を会社に述べていく必要がある。何十年も先の事を読む必要はないが、常に1年先、数年先を見通す必要がある。

判断力を養う

 組合は、会社の方向性や取組など常に気を配っておく必要がある。会社側の判断(新たな事業への参入、設備投資等)に対し迅速に意見を述べていかなければならない。人は一度決断したことは、簡単にはあきらめることはしない。失敗したとしても、もがき苦しみながら事業を継続させようとする。
 最近ではコロナ禍の問題にも代表されるように、予期できない変化も起きている。組合として、傷口が大きく広がらないように会社方針に対し素早く意見を述べていかなければならない。

向上心(プラス思考)

 リーダーに必要な資質の一つとして、高い向上心がある。当然ながら、組合役員にも必要な資質であると言える。現場を経験し、組合役員に選ばれた方々は組合員の働きやすい職場環境の構築をはじめ今後の会社のあり方など、会社全体の事(会社あっての組合、会社の繁栄なくして組合員の繁栄はあり得ない)に向上心をもって取り組まなければならない。日々向上心を持ちマネジメント能力や自身のスキルを磨く事はすべて組合員の求心力に反映される。
 このような精神論的な思考は、自己啓発のビジネス書にも多く記述されており、向上心を持ち続ける事は成功する条件の一つでもある。

終わりに

 労働組合とは、労働者と会社側が対等な立場に立って話し合うための組織である。当然組合員と組合組織も対等な立場にならないといけない。組合は会社側と折衝する場合、「戦う」、「勝ち取る」という言葉を使う。「戦う」ということは当然「勝ち」、「負け」が発生する。対等な立場であれば、「勝者」、「敗者」は存在しない。では、組合の役割は何だろうと自分自身で考えたときに出た答えは、組合は会社側と労働者の潤滑油でなくてはならないということである。会社あっての組合、会社の繁栄なくして組合員の繁栄はあり得ない。お互いに意見をぶつけ合うことにより切磋琢磨して同じベクトルを目指して進むことである。
 私も中央委員を拝命し2年が過ぎたが、組合員の組合活動への無関心さをどうフォローするかが最大の課題と考えている。組合活動は強制するものではない。今後も自然と人が集まり、各個人が目的意識を持って自主的に行動できるように取り組んでいきたいと思う。


参考文献

  • 黄色いバスの奇跡 十勝バスの再生物語
    吉田 理宏 (著)
  • 新鉄客商売 本気になって何が悪い
    唐池 恒二 (著)
  • 日産自動車 極秘ファイル 2300枚―「絶対的権力者」と戦ったある課長の死闘7年間
    川勝 宣昭 (著)
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