私の提言

奨励賞

オンラインコミュニケーションの可能性
~労働組合の輪を広げていくために~

三橋 沙織

1.はじめに

 労働組合の運動にとって、一番大切なことは何だろうか。先行き不透明なこの時代に、対話から生まれる未来を数々作り出していくことではないだろうか。対話を通じて、社会の問題と自分が関わっている実感を持つことではないかと考える。
 現在、さまざまな社会問題に対して、労働組合が活動をしている。しかし、その活動の大きな阻害要因となっていることが一つある。働き方の多様化や個々の忙しさ及び働く人の関心の多様化である。少子高齢化が叫ばれて久しいがその傾向は加速するばかりか、労働組合にも当てはまる。その結果、社会問題を改善していくどころか、役員一人ひとりの負担も増え、育児・介護・体調不良のため続けられない、など企業の人手不足と同じく続けられない方がいる。
 このような状況は今後もさらに増えていくことが予想される。そこで、この提言書では、そうしたさまざまな制約のある組合員が関われる機会の増大のためにオンラインを活用した対話の機会を積極的に創出することについて私から提言したいと考えている。

2.現状と問題点

 私が組合に関わりを持ち始めた2008年はスマートフォンが普及し始めた頃である。その当時、流通業界で働いておりパートタイマーが組織化されてすぐのころであった。<パートタイマー交流会>や<ほんね会(職場集会)>(組合員同士が集まってほんねで語る会)、など支部の役員が声をかけあって集まり語り、意見を出し合い、お互いに共通する課題を労使協議会のテーマとして取り上げるというサイクルがあった。このときも今も、組合が対話を重視していることには変わりはない。
 現在、UAゼンセンの組合構成は8割が流通・サービス業で働く組合員であり、全体の6割がパートタイマーで構成されている。そもそも働く時間が1日3時間という組合員、深夜に働いている、早朝のみ働いている組合員など、日中に集って活動するには限界があり、組合の活動には参加できていないという現実がある。
 このさまざまな時間の制約のある組合員が組合員どうしの対話の総量を増やすために有効なのが、スマートフォンアプリを使用したオンラインコミュニケーションである。その1つに「Zoom」がある。
 まず、Zoomはアメリカの会社Zoom Video Communications Incが開発したWeb会議システムだ。スマートフォンやタブレットやPCを使ってテレビ電話のようにオンライン会議ができるアプリである。「Zoom」は、組織、地域、国境を越えて、100名以上の人々を同時に繋ぎ、繋がった人々の間で共創を起こすことを可能にした。
 オンラインコミュニケーションと言うと、多くの皆さんが思い浮かべるのは、スカイプもしくは会社独自のテレビ会議システムではないかと思う。スカイプ英会話などを経験して、カクカクする映像と、時々途切れる音声に、一方通行のコミュニケーションには利用できても、「深いコミュニケーションはオンラインでは無理だな」と思った方も多いと思う。しかし、技術は日進月歩だ。私の実感では、Web会議室が「対話」に使えるレベルになったのは、Zoomからだと思う。Zoomは、多数の参加者を想定したオンライン会議システムで参加者がわざわざIDを取得しなくても簡単に接続できるように設計されている。実際、Zoomによって可能になったオンラインコミュニケーションにより、さまざまな繋がりが起こっている。つまり、Zoomが登場した2016年以降、連合が目指す「働くことを軸とする安心社会」の実現は、オンラインによる対話コミュニケーションのテクノロジーを使って進化できる可能性を手に入れた。

3.オンラインコミュニケーションの可能性

 この技術革新によって、オンラインのつながりはさまざまな可能性を持った。日程を決める、会議室を借りる、参加不参加の出欠をとる、交通費を準備する・・・など手間がかかる、コストがかかることによって誰でもが企画したいけれど企画できない組合活動を、語りたいテーマを持つ、話したいテーマを持つ人自身が企画することが可能となった。必要なときに必要な人が声をかけて顔を合わせて話すことができる。呼びかけも自由、集まるのも自由。場所の制約を超えるのである。また、リアルの会議に比べて、心理的安全性が高い。席順などがなく、全員がフラットな状態での集まりが実現する。男性であろうと女性であろうと、年配者・若年層であろうと、健常者と障がい者の区別もなく、顔だけが映し出されるシステムの中で格好や不便な点に気を遣う必要がない。誰もがこのオンライン会議を活用することができる。
 オンラインコミュニケーションは、家事や仕事時間の合間や休業中に活用できる。例えば、産休や介護などで仕事を休んでいる女性なども何か参加をしたいと思った時、このオンライン会議を活用することで、日ごろの悩みを話す場ができ、全国の同じ悩みを抱える人とあっという間につながることができる。
 それでは、オンライン会議システムをいかに労働組合で活用するかについて記載したいと思う。まず、オンライン会議システムを活用するため個人にOSが必要になる。スマホの普及が進んでいるので、個々人が持つスマホやタブレットを活用し、参加が可能となる。しかしスカイプやLINEなどと比べて通信量は大幅に少ないものの、会議等で利用する場合は、交通費に変わって、通信料のサポートは必要になるかもしれない。

4.オンライン会議システムを使った実際の取り組み

 4月から6月にかけて、私が取り組んだ組合活動のうちオンラインコミュニケーションを積極的に活用した事例が2つある。
 1つは、海外ボランティア活動のチームづくりである。UAゼンセンでは、全国からボランティア活動の参加者を募集する。今回私はその事務局を務めた。4月中旬に参加者全員の初顔合わせがあり、5月末に、海外ボランティアに向けて出発するというものである。
 自分たちのテーマ設定や、ボランティアプログラムについていくつか検討しなければならない事項があった。この決め事に、オンライン会議を利用した。
 ボランティア活動は「〇〇しなければならない」という明確なものがない中で、重要視したのは自分たちで決めるプロセスに関わるということである。全国から参加する組合員が、集って決めるには相当な費用が嵩む上に、時間的な制約で集まれない。これを可能にするのがオンラインコミュニケーション。毎週1回、集まれる人が多い曜日にだいたい夜21時~という、仕事から帰宅後、食事を終えたり、子どもの寝かしつけが終わった時間帯に設定することで、全体参加者16名のうち、6~7名が毎回参加していた。
 結果として、事務局はほぼ作業に関わることなく、ボランティア活動の準備が進められた。参加者からは、「ただ参加するだけでなく、企画から関われたことにより、組合への参画意識が高まった」と評価を得た。
 組合活動と他のボランティアに違いがあるとすれば、その活動自体が組合費から捻出されていることであり、参加者は、参加していない方への報告、また次に先頭にたって活動を進めることをいつも担ってほしいと考える。そのためには組合員の主体的な活動・自律を促すしかけが必要である。今回オンラインコミュニケーションの機会がうまく機能し、参画意識は確実に高まった。オンラインコミュニケーションは、プロジェクトをサポートするツールとして有効である。
 2つ目は、2019年の参議院議員選挙の活動である。今回UAゼンセンは1名の組織内候補者を国政に届けた。最後の1ヶ月の活動期間に9回、候補者と全国の組合員をつなぐオンラインコミュニケーションが実現した。UAゼンセン本部にいると、政治活動は当たり前の活動になりつつあるが、投票率の低さを見ると、UAゼンセン組合員の意識も例外ではない。これからの活動にSNSなど、若年層の関心を引き付ける“何か”は我々が知恵をしぼらないといけない。本活動は組合員の「候補者に会いたい」という声と候補者本人の「できるだけ多くの場所に足を運び交流したいが、移動時間が多く一日に会える人数に限界がある」という声と双方の想いを重ねあわせて、活用したのが、オンラインコミュニケーションである。企画は1時間という限られた時間の中で、全国の組合員が自己紹介し、テーマに基づいた課題について双方向で語り、候補者に質問し、なぜ政治活動が必要か、意識づけ、投票行為につなげるというプログラムである。ほとんどの企画は、候補者の予定に合わせて、1週間前に案内し、実施するというタイトなスケジュールではあったものの、参加者が普段なかなか会えない候補者と直接話せるとあって、毎回、40人~50人の参加があった。つまりは1ヶ月の間に、通算で360人が参加したのである。この広がりには驚いた。
 そもそもは、候補者と組合員をつなげる活動からスタートしたものの、地方の中小企業の組合役員から「自分1人でがんばっているのではなかった、全国に仲間がいた」、「普段話したことのない方と知り合えた」、「何より、参加するのが楽しい企画でうれしい」などなど、たくさんの意見が寄せられ、これからの組合活動を補完するツールとして認知された。
 また、比例代表の投票結果がわかる7月21日開票結果については本部も地域も待機していたため、このオンライン中継の呼びかけに夜中3時にかかわらず、全員で当選確実を喜びあえたことにも、地方からは「オンラインコミュニケーションがあってよかった、一体感を感じられた」との声があがった。
 このように、日ごろの活動を補完するツールとしての活用は非常に有効であった。また普段は集まれるはずのない地方・海外在住者も含めて思いもよらないつながりができていくプロセスには普段の組合活動と比べても飛躍的な広がり方であった。また、実際には会ったことのない方とも対話を重ねていくプロセスの中で信頼関係が生まれている実感がある。

5.オンライン会議のメリット・デメリット

 それでは組合員にとってこのオンライン会議システムを活用するメリット・デメリットを記載したいと思う。まずメリットについて、前述のとおり時間・場所の制約なく集まれることである。集まることでつながりが生まれる。つながりがうまれることで未来への可能性が開ける。さらに、組合員にとっても、地域を離れることなく様々な出会いが可能になる。
 続いてデメリットについて記載する。デメリットとして挙げられるのが、どこで誰がどんな風に活動がされているか、管理ができにくくなる点である。また通信料など、現在の活動のルールにはとどまらない適宜制度を更新する必要があり、組合員の現実とニーズにあわせた、新しいルールづくりが必要である。
 私自身これまでさまざまなオンラインコミュニケーションやオンライン勉強会に参加してきたためその広がりの可能性は非常によく理解している。組合活動に参画しながら同じ課題意識を持つ人々とあっという間につながることができ、そこで様々なスキルや経験、人脈を得ることができた。
 ここまで記載した通り、オンラインコミュニケーションというのは組合活動において、非常に有効な手段であると考えられる。

6.まとめ

 具体的に橋ⅠからⅤまでに掲げている各観点に当てはめてみた場合、どの範囲で合うかについても記載したいと思う。
 まず、橋Ⅰに掲げている「教育と働くことをつなぐ」という観点からいうと、新しいスキルや経験を学ぼうと思った時、わざわざ出かけていく必要がなくなる。学びたいときに学びたい場所で、学ぶことができる。
 橋Ⅱに掲げている「家族と働くことをつなぐ」の観点からいうと、自宅での家事や育児・介護に携わりながらも社会と分断することなく、活動に参画することができる。
 橋Ⅲに掲げている「働くかたちを変える」の観点からいうと、オンラインコミュニケーションによって、仕事への取組み方も変化させられるかもしれない。オンラインによって自分のスキルを活用する場面も多様化する。健常者だけでなく障がいを持つ方の組合への参画ももっと可能になる。
 橋Ⅳに掲げている「生涯現役社会をつくる」という観点では、オンラインで出会いの幅を広げることができる。年齢に関係なく何か始めたいしたいときに自ら始めることへのハードルも下がる。
 橋Ⅴに掲げている「失業から就労へつなぐ」という観点では、オンラインからの出会いにより、仕事の可能性を探るということも可能である。
 オンラインコミュニケーションの利用によって、これまで組合活動に携わりたくても携われなかった人だけでなく、仕事の合間や隙間時間を使って協力してくれる方の発掘、自分のスキルや経験を磨きたいと考えている人の学びの場を十分に育てていくことができる。
 ここまでオンライン会議システムを使った組合活動の可能性について、書いてきたが、私はこのオンラインコミュニケーションはもっと、個人のスキルを活かすような仕事にも活かしていけると思う。
 つながりが薄れた社会はますます孤独の方向へ向かいつつあり、つながりを失ったことにより、助け合い意識は薄れ、様々な社会問題につながっている。こうしたときに、できるときにできる方が、できる方法でだれかを助けるということの重要性は増す。
 「働くことを軸とする安心社会」を支えるにあたり、オンラインコミュニケーションを活用し、「新しい活動」「新しいつながり」の促進につながる。女性・障がい者・外国人など、これまで活動に参画し難かった人々が自分のワークライフバランスを軸に参加できる活動を創出できる可能性がある。その運用のためには多くの人々がまずは知ることが必要 で、併せてルールづくりをしなければならない。
 正解がわからない時代に生きているなら、自分にとっての正解をともに探せばいい。そのためには対話できる仲間の存在が不可欠である。自ら場づくりをし、つながった人とともにまた新しい未来について語りたい。
 まずは第一歩として、オンラインを活用した組合活動に多くの組合が取り組んでほしい。まずは気軽に参加できる場を増やしていくことが重要である。併せて各地域・世界の連合の組合員が何かのきっかけをつかむことで、ともによりよい社会を創る仲間になっていく。そんなきっかけを増やしたい。私の提言が様々な組織で読まれることによって、活動を活発化させることができると考えている。この提言が幅広く活用させることを期待したい。


参考文献

「Zoomオンライン革命!」 田原真人


戻る