私の提言

奨励賞

連合主導による議会改革

和田 祐哉

はじめに

 労働者が能力を最大限に活用し、実績に対して正当な評価を受け、かつ自分の権利を守り、理想の生活を創造すること。これが、私の考える「働くことを軸とする安心社会」である。労働環境については、すでに先人たちの尊い努力と長期間の労働争議によって結成された労働組合とその組合員がその力を集結し、会社組織や労働環境を変革してきた。
 だが、もう一段階、「働くことを軸とする安心社会」の実現のためには、自分の理想の生活を創造することも大切である。私たちは、働くために生きているのではなく、理想の生活を創造するために働いているのである。
 今日、社会を見渡すと安心して働くことを容易にさせない社会のさまざまな要因が目につく。そのたびに、労働者の力を結集させ希望と安心の持てる社会の実現を図れないかと考えてきた。その一つの回答として、議会改革が必要であるという考えに至った。

1.「働くことを軸とする安心社会」と議会

 私は入庁をして7年目の地方公務員である。これまで、ごみ問題や国民健康保険・後期高齢者医療制度、福祉医療制度を担当してきた。市民の方々からはクレームもままいただき、大変ではあるが市民生活に密着した仕事に携われたことについて、誇りを感じている。
 さて、労働者の視点から必要となる自治体の部署はなにが考えられるだろうか。建設会社や土木会社にとっては、公共事業を発注する土木系や水道事業もある。さらに見渡すと工業団地誘致や地元企業への助成金を交付する産業振興部門もある。しかし、生活に密着した部署となると介護、保育、学校教育などがあると想定される。
 連合の提言の中に「働くこととは雇用労働だけを意味するものではない。」という文言がある。雇用労働を軸として、暮らしの中で子どもを育てること、家事労働を担うこと、文化的な活動に参加すること、あるいは地域の問題解決や生活環境改善に取り組むことも、働くということなのである。日々の暮らしの中で、労働者はどんな声を上げているだろうか。「介護施設が充実していれば、親の介護の時間を仕事に専念できる。」「保育所が開設してあれば、土日もやっていれば、キャリアを断念することがなかった。」「学童保育が充実していれば、正規の仕事に復帰することができた。」という声を聞きとることができる。
 そうした労働者が困っている声の中で、民間にはできなく行政にしかできない分野を迅速かつ正確にくみ取り、限られた予算で適法に運用することが自治体の役割である。しかし、そうした声を自治体の事業として実施をしたり、改善をしていくには、多くの合意形成を必要とするし、他の事業との兼ね合いもある。すなわち、時間がとてつもなくかかる。
 働く環境を是正するために、職員として入庁しキャリアを積み事業に関して決定権のあるポストにつくという方法があるが、それはまた難しいだろう。そのため、私はこうした自治体をとりまく環境を変えるためには、議会に労働者の視点を持った議員を一人でも多く送ることが有効であると考える(自ら立候補するという方法もあるが)。
 そのためには、いまの議会の運用方法を変える必要があると考える。労働者の意見を代弁する議員が自治体の運営方針を変えていくのである。議会が変われば、自治体が変わり、社会が変わる、と提言する。

2.現在の議会

 現行の制度では、サラリーマンといわれる普通の労働者が、議員として議会に行くにはいくつかの障害が待っている。平日に開催される本会議と委員会への出席のためには、自営業の方を除き、会社を辞める必要が出てくる。
 地方議員の方々には、崇高な理念を持たれた方が多くいるのだが、自分の選挙区または在住地区の要望を聞き、それを行政へ伝えることに終始している方もしばしおられる。本来であれば、県議会議員は県全域の、市議会議員は市全域の底上げを図るべきが、いわゆる選挙区の御用聞きとなっているのである。平成21年においては、地方議会会期の平均日数は年間90日間である。残りの日数を政策研究や有意義な視察、住民との意見交換に費やしている方々は多くいるが、選挙区の運動会、お祭り、イベントへの顔出しに終始しているという現状もまま聞く。
 高度経済成長期には、国や都道府県から事業を引っ張ってくることに関心を持ち、また地域企業からも期待がされ、議員は議長や土木・建設関係の委員長のポスト争いに力を注いできた事実があった。今では、国土全体で道路、水道、公共施設等のインフラが整備をされ、建設よりもむしろ保守・点検の傾向となったため、そのようなことは役割を果たすことができなくなった。また、地域企業も期待することができなくなった。
 地元の有力者から依頼された自治体への職員採用介入、自治体から発注される公共事業の土木請負や物品購入等の契約関与(そもそも法律違反ではあるが。)も、市民監視の目が鋭くなって現実的には不可能となってきている。これに加え、最近では行政改革の一つとして増加傾向にある一部事務組合や広域連合等の広域行政、地方公社や第三セクター、民間への事務委託等もあり、行政や首長の判断・決定権が増しているため、ますます従来型のスタイルでは住民の声など届かなくなっている現状がある。
 (たとえば、A広域連合に、その自治体の代表としてB地区選出議員が派遣されても、残りのC・D・E地区の住民の意見が反映されない、というもの。)
 多くの労働者は給与から税金が天引きをされる仕組みとなっているが、この税金の使い道がどうなっているかということに関心がある人は、少ないのではないであろうか。もちろん、新聞やテレビでニュースをチェックしている方々は多くおられ、「無駄が多い国立施設」「夕張市の財政破たん」「職員による横領」等のインパクトのある記事を記憶にとどめている方も多くいる。しかし、自分が住んでいる自治体については、予算規模や決算額のおおよその数値を見たことのある方は少ないであろう。議会の機能のひとつに「財政権」がある。労働者の皆様は給与明細で「住民税」という項目を確認したことがあるだろうが、毎月の給与から税金が天引きをされている。地方公務員の私も当然ながら対象である。
 自治体の財政は、我々労働者の税金によって構成がされる。そのため、予算と決算を労働者の観点でチェックすることは当然のことと思われる。通常、予算金額と決算金額は、その中間に補正が組まれるため、かい離をすることがほとんどである。自治体財政の姿は決算に現れる。厳しい目で、税金がどのような使い方をされているかを審議するべきであろう。
 また、市民による議会見学について、私はとても大切であると考える。自分と全く同じ意見や思想を持った人間など存在しない。そのため、民主主義においては、選挙で自分の意見と同じ候補者に投票をして、信任を受けた議員が議会において議論をして多数決で議案を決定していくが、この場面において自分の信任した議員がどういった意図で発言をして、賛否の票を投じたかを見極めている方は少ないであろう。住民にも投票をした自分たちの代表者として議員を議会に送り込んだ責任がある。会派に所属している議員は自分の意見を会派の決定案と調整させるため、困難な議案にこそ支持者の意見が割れるであろう。
 最近では、議会の模様は、会議録として紙ベースで残すだけではなく、インターネット上で閲覧ができるようになっており、実際の内容を地元ケーブルテレビやホームページで配信する取り組みも行っている。
 しかしながら、議会は平日に開催がされているため労働者が時間休を活用して見学に来てもらうということは、なかなか厳しい要求であろう。また、休日や夜間の自分が票を投じた議員の報告会だけを聞いているのではなく、別の議員の話を聞けることのできる仕組みも作るとよいだろう。同じ自治体の議員と住民であるため、さまざまな議論ができれば、その議案も熟成がされ、よい選択肢を作ることや強固な合意形成が図れると思える。

3.具体的な議会改革

 普通の労働者が議会で、議員として労働者の視点で政策提言を可能とさせるには、議会を平日夜間または土日開催とすることが重要であると考える。文中では、これを「アフターファイブ議会」と呼ばせていただく。
 「アフターファイブ議会」では、これまで議会の見学に来ることができなかった労働者を中心とする多くの住民を呼ぶことができ、公開の議論をすることができる。自治体の重要決定に携わる当事者を増やすことで、労働者を中心とする多様な視点を取り入れることは、もはや特権階級と化している議会を住民と対等な関係にすることができるのである。また、積極的にツイッターやニコニコ動画とも連動をさせていけば、自治体の内外から議案に対する議論や決定について多くの意見や評価をもらうことができる。
 また、議会の開催場所も議会議事堂にこだわらず、議事内容によっては学校の体育館や公民館にも開催をさせていく。合併によって広大となった行政区域においては、この取り組みは足が不便な高齢者に配慮した取り組みと考えるし、議論の焦点となる地区や施設で開催すれば、多くの利害関係者を討論の場へ呼び出すことができると思う。
 議員報酬は日数に応じて日当制とし、あくまで自治体の首長とは対等な関係という観点で首長の給与を日換算した数値を基礎とすればよいと考える。
 議員数についてだが、私は安易な議員数削減には疑問を感じる。
人口減少や歳出削減を目的とした議員削減が進んでいるが、議員数の削減は自分たちの代表者が減ることにつながるのである。この点は地方の特色に合わせて、慎重に議論を進めるべきである。
 候補者を増やすことで、議員が固定しオール与党となりがちな議会の新陳代謝を促し、多様な人材を議会に送ることができるだろう。
 欧米各国の地方議会は、土日や夜間に開催がされており、普通の人が仕事をしながら議員になることが当たり前である。しかも報酬は低額か無償であり、あくまでボランティア活動のような感覚であり、選挙運動にすらお金がかかっていないのである。

「土日・夜間議会改革!」(http://www.donichiyakan.jp/)より抜粋

 これを日本国内の地方議会に波及させていけば、多くの労働者が議員となり、労働者が求める「働くことを軸とする安心社会」の実現につながることになると考える。
 政治以外の専門分野の知識と経験を持つ労働者が地方議会で活躍することこそ、地域の問題について知恵を出して解決し働きやすい地域社会をつくる、真の地域自治が可能になるのではと思う。

4.先進自治体の事例紹介

 そもそも議会は、設置については憲法によって義務付けられているが、どのような役割を果たすかは地方自治法によって定められている。そのため、一定の制限があるものの、自治体やそこに住む住民のために、必要な機能を選択することが可能である。具体的には、議員定数の増減や、議員報酬の設定がある。もしも、選抜された職業議員のみで構成をしたいのであれば、定数をかなり減らし報酬を高額に設定する。広く住民の声を反映させたいのであれば、定数を多くし報酬を低めに設定する。ということが可能である。規模こそ町であるが先進的な議会改革の事例を、以下のとおり紹介する。

 矢祭町(福島県)では、平成20年3月31日から議員報酬を1日3万円、期末手当なしという改革をし、全国に衝撃を与えた。議会開催が年間30日程度であるため、年額90万円というものである。なお、平成23年の議員報酬最高額は、東京都議会議員である。(月額103万円、年収1,800万円)
 「我々は財政改革の一環で日当制にしたわけではありません。結果的に財政改革につながっただけです。そもそも非常勤特別職である議員の報酬は、生活給ではありません。議会活動への対価であって、家族らを養うための報酬ではないはずです。(矢祭町 菊池清文町議会議長)」矢祭町の改革の目的として、お金と時間に余裕がある住民しか出馬ができない選挙のあり方を変えることと、これまで立候補をすることがなかった社会理念の高い議員が増えることによる住民意識変革の2点がある。

 栗山町(北海道)では、平成18年に全国に先駆けて「議会基本条例」を制定した。この条例では、どの議会にもある本会議と委員会とは別に一般会議を設置している。これは、議会に町民がやってきて、議員と特定のテーマについてとことん議論をするというものである。場合によっては、傍聴席で町長や町長以下執行部も聞いている。これは、町民としては自分が支持をしていない議員と、議員としては自分の支持者ではない層の町民と議論をすることであるため、町民と議員の民主主義の力を上げることのできる仕組みと言える。また、全国初の議会による町民報告会を開いている。これは、議案を決議した議会が町民に対して責任をもって説明をするものであり、毎年12会場で実施している。これは、自分の選挙地区や在住地に関係なく、「年齢・期別」を基準に班編成が行われ、町の執行部は随行をしない。そのため、議員は熱心に勉強をして議会に臨まなくてはならないし、議案の討論の背景も理解をしなくてはならない。自分の主張ではなく、「なぜ可決・否決されたか。」「どんな意見があり、こういう議論になり、どう決定したか。」という内容を説明しなくてはならないのである。ただ、会議に参加して自分の所属する会派の決定に従うだけでは、筋道の通った報告をすることができない。そのため、議会での討論は緊張感のあるものになり、報告会での町民からの質問回答のために丁寧な質問資料を作らなければならず、町民に対して説明責任を果たす議会の姿を構築している。

5.連合の強み

 連合の強みは、地域に根差した全国規模の組織展開である。人口減少社会に即し、地域を何とか良い方向にシフトさせなければならないと危機感を抱き、その糸口としての議会改革に関心がある自治体が存在するはずである。
 地方連合会や地域協議会を通じて、「アフターファイブ議会」に賛同をしてくれる首長・議会を見つけることができるはずである。その自治体で住民投票や条例改正を経て、「アフターファイブ議会」の実現を図っていただきたい。最初は試行錯誤や混乱も多いことだろうが、多様な労働者の声がダイレクトに届き、それに即した立法・財政・行政監督機能が補完できるのではないかと確信する。この議会改革は、国や都道府県という大きな単位ではなく、市区町村という基礎自治体からこそ実施をするべきである。
 もしかすると、人口数千人規模の町村に期待が持てるのかもしれない。町村といえば、農業・漁業等の第一次産業を連想させるが、大都市圏のベッドタウンとして機能している自治体も多く存在する。こうした自治体に住む労働者の大半は日中を大都市圏で働き、アフターファイブになると家へ戻ってくるのである。会社で身に付けた知識や能力をアフターファイブに自治体運営で発揮するという優れたモデルケースを作れるかもしれない。
 その反面、高齢化が進展した限界集落を多く抱え、既存の自治体運営をするために増税かサービス削減という岐路に立たされている自治体も多くいる。
 話が脱線して恐縮であるが、町村については地方自治法94条により「町村総会」の設置が認められている。これは、議会による決議ではなく、有権者全員による議論により決定をするというものである。実際に人口61名程度の八丈島宇津木村で昭和26年から昭和30年までの間に設置がされており、議会の機能を果たしていた。人口の少ない自治体のための有権者全員参加型の制度ではあるが、現在においても有効であることは事実である。議員のなり手を見つけることすら困難な自治体はこの制度を活用してもよいだろう。
 だが、「町村総会」は、比較的財政に余裕のある町村においても、いわば議決権の行使ができる大きなタウンミーティングに代替することが可能である。有権者全員による自治体の将来を見据えた条例の制定・改廃、予算編成が可能となれば、新しい地域づくりの息吹が芽生えるかもしれない。有権者数に対して既存施設の改築や設備が必要では、という懸念はあるが、将来的に発生する議員報酬費や議会運営費と比較をすると、数年で損益分岐ができるように思える。また、インターネットやSNSの普及によって、これまで投票をしなかった若者を自治体議会の議論の場へ連れてくるかもしれない。
 連合の二つ目の強みは、多くの世代のニーズを補完している面にもある。年齢ごとで社会に必要なニーズは分かれるものである。10代以下には文化・スポーツ施設、働く世代には子育て・教育予算、親世代の高齢者支援、現役労働者としては自分の会社組織の底上げを図る産業振興がある。職場レベルの課題から社会レベルの課題解決までを実際に行動を伴いながら図る団体は、日本で連合だけだと断言できる。この全国の何百万人ともいえる組合員とその家族から知恵を集結すれば、世界最高峰の政策シンクタンクとしての機能を発揮することが可能である。
 連合三つ目の強みとして、地域公共サービスの担い手である地方公務員や公共交通、自治福祉や医療に関わる公社・事業団に所属する労働者で構成される自治労を傘下に持っていることである。これは、自治体そのものに働いている労働者の現場の声、地方自治の問題点、いま起こっている住民の声なき声をダイレクトに反映できることが強みである。あまり知られていないが、介護保険制度の創出、看護職員の夜間労働制限は、働く公務員の声によって実現したものである。労働環境が地方自治体であるため、専門分野に関する情報収集力、研究分析能力、政策提言力は地域社会におきている問題解決に相当な力を発揮できると断言できる。しかも日本全国の自治体の事例やノウハウが結集されているのである。

6.おわりに

 住民には労働者には当たらない方々が多くおられるのも事実である。子ども、高齢者、障がい者等であるが、彼らの声をすくいあげ、地方自治の議論の場へ参加してもらうことは必須である。若年層を中心とした雇用不安、働く女性の子育てに対する不安も解決をしていかなくてはならないし、組合に未加入で孤立しがちな外国人労働者の声もすくいあげなくてはならない。連合という存在は、すでに社会の公器であると思う。これまで、国や地方自治体に対して、労働者目線の幅の広い、「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた政策提言をしてきた。労働環境の是正のみならず、保育、介護、地域福祉への提言やセクハラ・パワハラ・マタハラ防止など多岐にわたる。各国の福祉政策のスローガンでもある「ゆりかごから墓場まで」よりも高次元の取り組みであると断言できる。
 連合の力をもってすれば、労働者発信型の新しい日本の自治体経営が実現することと思う。労働者が自らの労働力と納税で自治体を支えているのである。ならば、その自治体に対して他の労働者と議論を積み重ねて、行政や首長を動かしながら重要な決定をしていく権利を行使していくべきである。「アフターファイブ議会」ならば、それができる。


【参考資料】
  • 総務省 http://www.soumu.go.jp/
  • 連合 http://www.jtuc-rengo.or.jp/index.html
  • 福嶋浩彦「市民自治 みんなの意志で行政を動かし自らの手で地域をつくる」(2014年 (株)ディスカヴァー・トゥエンティワン)
  • 佐藤竺(監修)、今川晃・馬場健(編者)「市民のための地方自治入門【改訂版】」(2002年 (株)実務教育出版)
  • 山口道昭「【入門】地方自治」(2009年 学陽書房)
  • 平谷英明「一番やさしい地方自治の本 第1次改訂版」(2012年 学陽書房)
  • 週刊ダイヤモンド『カリスマリーダーなき後の崇高な理想と現実 全国で唯一議員報酬を日当制にした矢祭町の「今」』(http://diamond.jp/articles/-/61510

戻る