私の提言

佳作賞

「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けて・・・私の思い・・・

橋本 壽子(基幹労連 ダイクレ労働組合連合会 会計部長)

1.はじめに

 働くこととはどういうことか考えてみたいと思います。
 私たちは学校を卒業すると、いつかは働くようになります。誰もが漠然と思っていることでしょう。
 私たちの父母がそうしてきたように、大人になったら自分の生活の糧のため、あるいは家族を養うために働くようになります。

 「どんな職業でも、世の中に不必要な職業は無い。毎朝、スーツを着て会社に出かける父親だけが働いている人ではない。働くこと、働く者はどんな格好でも尊いことであり、尊敬するべき者でありうる。」と小学校の道徳の時間に習った記憶があります。
 私も働き始めた頃は、お金を稼ぎ、稼いだお金を使って生活をしていくことだけが働くということと思っていましたが、いろいろな人と出会い、いろいろな社会経験をさせてもらう中で、暮らしの中で育児や家事労働を担う専業主婦や、職場以外で文化的芸術的活動をしている人、地域問題に取り組んだり学ぶことも、年齢・性別に関係なく働くことなんだと思うようになりました

 では、ただ働けばいいかというと、それは違うと思います。
 そこで、私たちはどんな働き方を目指せばいいのでしょうか。
 誰もが、働くことにより経済的、社会的に自立し、人と人が繋がることのできる仕組みを作り出すことが必要だと思われます。
 そうなるために何が必要でしょうか。

 さて、今回の震災では未曾有の大惨事が起きました。
 また、原発の安全神話が問われたことは、基幹労連の組織の一人として考えさせられることとなりました。

 長年固着していた価値観や社会のシステムが崩れました。
 個人主義に傾きぎみだった社会は、震災以降は家族や身近な人たちとの絆の結び方や、自分が人の役に立つには?といった内容に変わり「助け合いたい」という意識が高まっているように感じます。
 一方、被災者の方は、働けないこと、それによる経済的、社会的不安を訴えていました

 働くことは、私たちが社会に繋がっていることを確認できるひとつの方法です。
 そして、これからの希望を持つことができる方法ではないでしょうか。
 また、私たちは働くことによって周りの人を喜ばすことができる、そうすることにより周囲の人に愛される、人と繋がることができるという素敵なサイクルを生むことができます。  それは自分の自信となります。
 生きていく中で「自分に自信がある」ことは大きな幸せとなり得ます。
 私は、働くものが安心できる幸せのサイクルを考えていきたいと思います。

2.労働組合の役割・・・女性組合役員として

 私の職場が製造業ということもあり、私たちの組合も上部組織の基幹労連においても女性役員は少数です。そんな状況の中で、私は10年以上にわたり組合役員として仕事をさせてもらっています。
 本題から少し離れますが、基幹労連が毎年主催するアクティブトゥギャザーラリーに参加させてもらうと、女性のパワーを感じます。この女子力の有効活用はこれからの働くことへの一大パワーとなってきます。もっと上手に使ってみてはどうでしょうか・・・。

一組合役員ではありますが、女性寄りの視点で考えてみます。

 近年、労働組合の活動のひとつである賃上げや、一時金交渉が厳しい状況下で行われるようになり、雇用不安にも晒されて組合員の期待に応じることが大変難しくなってきています。

 職場環境や労働条件を改善し、働くものがより働き易くするために労働組合はあり、組合員にとって身近に感じてもらえ、少数派の女性組合員にも頼りにされる、私はそういう組合役員でありたいと思うと同時にやりがいを感じています。
 現在、私たちの組合と経営者の関係は、協調性を重視することで良好な関係を保っています。労使共に、これまで先輩が築いてきた功績を、これからも継承していかないといけないという認識を持っています。
 こういった状況の中、私たちの組合は解決していかなくてはいけない数々の課題を抱えています。
 今、一番の課題は「60歳以降の雇用」を含む新賃金制度の構築です。
 私たちは1.賃金の抑制につながらないこと、2.公正で公平であること、3.頑張った者が報われること、4.将来に安心が担保できること、の条件のもと問題点を解消すべく検討会を重ねています。
 社員が活き活きとモチベーションを保ち働くことのできる賃金制度は、生活に対する不安軽減の大きな要因と考えるからです。
 平成16年に現在の賃金制度が導入され、それまでの年功序列の賃金カーブから成果主義・若者に手厚い賃金カーブへと変わりました。その後、平成20年には組合側から更なる改定の申し入れを行い今に至っています。
 私は、現在においても現賃金制度自体は、組合が望む条件に沿ったいいものであると思っていますが、運用の過程においては大いに問題があると思っています。
 その問題とは、会社の経営の厳しさからくる昇給・昇格の抑制、旧態依然とした慣習による考課者の査定方法にあると考えています。
 運用において、不公正・不公平は賃金の抑制につながり、その結果として(1)昇給・昇格の遅れによる同等級での滞留年数が増えること、(2)男性社員と女性社員の賃金格差が大きく広がる結果となり、ひいては「60歳以降の雇用」賃金につなげていくときに、埋めきれない格差が生まれる根源となっていると考えます。

 賃金制度は、一度制度化すれば半永久的にあるものではなく、政治や世論、組合員のライフサイクルによって変化があってしかるべきだと思っています。
 私たち執行部は、役員としての責任を果たすため、組合員との約束を守るため、是が非でもこの問題を解決し、「60歳以降の雇用」を含む新たな賃金制度を構築していかなければいけません。

 さて、私は毎年新入社員へ「労働組合の役割とは」という講師を担当し新入社員教育を行っています。
 私には、高校3年生の息子と中学1年生の娘がいます。同じ年代の子供を持つ者として、ついつい先輩社員というより母親のような気持ちで新入社員を見てしまいます。
 特に高卒の新入社員に対しては、大学進学をすればまだまだ親のすねをかじり、甘えられる時が過ごせるのに・・・あえて働くことを選択したんだなあと愛しい気持ちにかられます。
 この新入社員達が、会社を辞めることなく幸せに働き続けられるように、組合役員として出来ること、責任は何なんだろうという思いを強く感じる時期でもあります。
 高卒の就職難は私たちの働いている市でも例外ではありません。市内高校の就職担当者の話によれば、正社員として働くことができること、4月に入社式があり研修もある会社に入社できる生徒は限られているとのことでした。
 そうでない生徒は、非正規社員、期間労働者となるとのことでした。
 幸いにもわが社は正社員として、労使が出席する入社式と数週間から数ヶ月におよぶ研修期間をへて各部署へ配属されます。

 しかしながら、入社1年以内で辞めていく社員は毎年続きます。
 私が心を痛めている問題のひとつです。
 働くことが続かない。何が問題なのでしょうか・・・?

3.「教育格差」と「所得格差」の現実

 問題の一つとして、高卒・大卒に関係なく本人の自己確信の弱さ、未熟さを感じます。
 現実に働くことに直面したとき、学生の時には感じなかったであろう、いろいろな理不尽さ、格差を感じることがあると思われます。
 働くことは容易なことではないのです。

 では、自己確信はどのように形成されるのでしょうか?

 資源の乏しい日本唯一の財産は「人」です。
 既に働く者となっている私たちからは、「ものづくり」への魅力を伝えたい。
 私たちは、日本の財産になり得る「人」なんだという自覚です。
 これから働く者になるであろう子供たちに、初等教育からの勤労観、職業観の育成により、具体的な将来像を持って欲しいと思います。
 小学校教育では地元企業の工場見学、中学時には職場体験、大学時にインターンシップが行われています。私たちの会社においても毎年受け入れをしていますが、それだけでは不十分だと思います。
 今の教育現場の教師たちには子供たちに伝える「ものづくりの魅力」についての意識が低いように思えるのもその一つです。
 基本的な学力はもちもん必要です。教育のステージから社会人へのステージへのなめらかで、積極的な推進・連携が必要ではないかと思います。
 この辺の課題は、上部組織や政治にもっと上申するところです。

 本人の将来展望や個々のモチベーションは、社会に出てからの格差問題に大いに関係してくると思います。
 こうした問題は、子供のころからの積み重ねだと思います。
 そういった意味で初等教育からできることがもっとあるのではないでしょうか。これは、働くものとしてのジレンマです。
 子供のころから培われる就労観、ボランティア意識
 家庭での体験、学校での教育環境
 昔ながらの慣習やジェンダー
 インターンシップや職場体験やボランティア体験
 地域との関わり・・・
 いろいろなことが思い浮かびます。

 そこで、私が気になっていることのひとつについて考えてみます。
 格差社会と言われて久しいですが・・・「教育格差」と「所得格差」の厳しい現実についてです。
 ある調査によると、所得の高い家庭の方が子供の成績(学力)が良いという傾向にある。
 高所得の親(家庭)は子供の将来のキャリアに対する確かな見通しを持っている点が大きいという傾向です。

 悪いサイクルによる危機!
 高卒者について考えてみると、長期不況の影響で高卒者の安定した就職口は激減しました。さらに、今後急速に問題化されるであろう新興国への製造業の生産工場が移転することです。その結果として、高卒者の就職先が無くなり、正規社員の道はますます狭くなっていくことが考えられます。
 ニートやフリーターになってしまいやすく、仮に、正規社員として就職しても続かずに辞めてしまう。という悪いサイクルです。

 先日、厚生労働省から平成21年の「貧困率」が発表されました。
 私は、「貧困率」という言葉にも公開されたデータにも大いにショックを受けました。

【貧困率の年次推移】

注《厚生労働省:平成22年度国民生活基礎調査の概要から引用》

 最近の離婚率の上昇やリストラによる失業、非正規社員はもとより正社員の賃金抑制の結果として低所得家庭という低ポイントに位置されます。
 進学を目指しての奨学金制度もありますが、結局のところ「ローン」であり返済義務があるため、所得の低い人は借りたがらないのが現状です。
 最近は、大学を卒業しさえすれば就職ができ、奨学金を返済するのに十分な収入が得られる保証がなくなったことが大きいといえます。

 低所得の家庭は子供に学習のためのモチベーションを与えられなくなってきています。
 子供は将来に向けた努力をやめ、自ら学ぶことを放棄しているように思えるのです。

 これでは悪いサイクルの中でのどうどう巡りです。「自己確信」や、「ものづくりへの魅力」以前の問題です。
 悪いサイクルから幸せなサイクルへなんとしてもチェンジすることが必要です。
 そのためには、何が必要なのでしょうか。

4.ディーセントな喜び「あなたの夢はなんですか?」

 「あなたの夢はなんですか?」
 子供のころの夢=職業(働くこと)=ディーセント・ワークに繋がっている・・・そんな答えではないでしょうか。
 夢は男性、女性、年齢も関係なく抱くことができます。まさしく、人間らしい働き甲斐のある仕事に繋がります。
 子供の頃なら夢も希望もあったのに・・・夢だけでは現実的ではないし、職業を変えることもできないと思われるかもしれません。
 そこでもう一度「ディーセント・ワーク」です。自分にとっての人間らしさって何なのか、働き甲斐を自ら持つために出来ることは何なのか考えて欲しいと思います。
 身の回りを整理整頓する。笑顔で挨拶をする。組合活動に参加する。政治に関心を持つ。ボランティア活動に参加してみる。地域の活動に参加してみる・・・などなど自分から変わる運動をしてみてはどうでしょうか。(探してみると案外近いところで見つけることができるものです。)
 「運動」という言葉があります。「運は動から生じる」ということです。自らが変わる運動を起こし、夢をみつけてみてはどうでしょうか。 
   今、夢を持っている人。今持っている夢をあきらめないで持ち続けて欲しいと思います。こうなりたいというイメージを具体的に持ち続けること。そして努力です。
 肯定的なイメージは人を積極的に行動させる要因となります。現実にはイメージだけでは生活はなりたちません。実際は失敗したり、困難な状況に直面するでしょう。その経験を通してさらに自己イメージを確立していくべきです。
 自分は何をやりたいのか。
 何をやっている自分にディーセントな喜びを感じたいのか。
 そんなことです。

5.表現することの喜び

 「はじめに」の項目で触れた、暮らしの中で育児や家事労働を担うことや、職場以外で文化的活動や地域問題に取り組んだり学ぶことも働くことでありえるということについて触れたいと思います。

 先の項目で「所得格差」と「教育格差」について厳しい現実を述べました。
 子供の問題について記述しましたが、どんなに教育がなされても暮らしの中で与えられる躾やモチベーションの力は絶大です。そういった意味で育児や家事労働は働くことにおおいに繋がっています。

 ここでは文化的活動で表現することの喜びについて述べたいと思います。

 私は、連合・ILEC主催の「幸せさがし文化展」に毎回書道の部門で出品をさせてもらっています。毎回、出品作を創る喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。
 社内には書道同好会があり、数人のメンバーと勉強の日々です。

 自己表現は格差無く、無限に自由!
 表現することには、性別も年齢も国籍も容姿も関係ありませんから、「所得格差」や「教育格差」なんてもちろんありません。

 自分の表現したものが、「素敵よね」「感動した」と、周りの人に喜んでもらえれば、周りのひとから愛されれば、繋がることができます。これは自信となり、ひいては働くことへの活力となり、幸せなサイクルを生むことができるのです。
 まだ、自己表現の術を持ち得ない人は是非見つけて欲しいと思います。

6.おわりに

 今回の論文の応募にあたり、いろいろな課題を身近に感じたと同時に、私の力で何かが変わるとか問題が解決できるなんてことは無いなぁと、ひしひしと感じました。
 自分の無力さにへこんでしまうことしきりでした。
 ただ、問題や課題を知ること、周知すること、それについて考えることが大切だとの思いで書き上げました。
 「働くことによる安心社会」を実現していく力は、きっと働く私たちの中にあるはずです。それを引き出す助けとなる組合役員でありたいと思います。

 働くすべての人が幸せで楽しい人生を過ごせますように祈ってやみません。

以上


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