私の提言

優秀賞

働くことを軸とする安心社会
全ての従業員(働く仲間)と一体となる組織活動を目指して

石田 英樹
(フード連合 明治乳業労働組合 専従中央執行委員)

1.はじめに

 日本の経済成長と共に雇用者数は増加の一途を辿り、その増加と共に非正規従業員も増加してきた。これまで日本は年功序列と終身雇用というシステムの下、比較的労働時間の自由度が利く非正規従業員は正規従業員の補完的な役割を担ってきた。しかし近年、非正規従業員が果たす役割は正規従業員の補完に留まらず、非正規従業員自身が職場の中心的な役割を担う状況が多く見られるようになっている。
 非正規雇用は、多様化する労働者のニーズに応じた働き方を可能にしたことや、就業機会の増大に寄与するなど労働市場に多くのメリットを生んだ反面、求められる役割が正規従業員と大きく変わらない中で、正規従業員との賃金格差や、期間満了による雇い止めなどの待遇格差が生じており、賃金格差の是正、雇用の確保などの処遇改善が喫緊の課題となっている。
 これらを考えると、国に対する提言や業界団体等との協議を組織的に行える労働組合への期待や重要性はこれまで以上に増している状況と言える。そうした中で連合は、「社会の安心・安定のためには労働組合は不可欠なインフラとの認識に立ち組織拡大を進める。」としている。
 しかし、非正規従業員の組織化に取り組むことは非常に重要なことであるが、既存組織における課題を克服しなければ組織の規模が大きくなるだけで、非正規従業員の組織化後にも現在と同じような状況を繰り返すことになる。「労働組合とは何か」と感じていた頃の私自身の気持ちや考えを思い返した上で、中央執行委員を務める現在までの間に、自分が感じたことや経験したことを踏まえて、真に、全ての組合員と一体となった活動を展開するにはどうするべきか、何をどう行うべきか、本論文で述べたいと思う。

2.労働組合を取り巻く環境

(1)非正規労働者の増加と減少する組織化率

 日本の経済成長とともに雇用者数は増加の一途を辿ってきた。1984年の3,937万人から2010年には5,111万人となり1,174万人増加した。その増加と共に、非正規従業員数も1984年の604万人から2010年には1,756万人と1,152万人増加した。少子高齢化が進み、労働力人口が減少する日本にとって非正規従業員は重要な役割を担うまでになっている。非正規従業員が増加した背景には、グローバル化の進展により海外企業との競争が激化し、海外企業と比較すると割高な人件費をコントロールしやすくしたいという企業側の思惑により非正規従業員を活用する企業が増加したことや、労働力人口の減少を睨んで、60歳以降の人材を非正規従業員として活用する動きが企業に見られたこともが要因として考えられる。(図-1参照)

 一方、何らからの形で労働組合に加盟している労働組合員数をみてみると、1994年の約1,270万人をピークにその後減少し、2009年には約1,008万人まで減少した。また、労働組合の組織率も2009年には18.5%まで低下している。(図-2、図-3参照)

(2)労組が取り組む課題

 非正規従業員が増加するにつれ、正社員との賃金格差など様々な問題がクローズアップされるようになった。加えて、景気減速による先行きの不透明さから「期間満了による雇い止め」が多くの企業で見られるようになったことで、正規従業員と非正規従業員の待遇格差の是正が世間で騒がれるようになった。こうした問題を解消し、非正規従業員の雇用環境を整備し、意欲や能力を十分に発揮し、その働きや貢献に応じて所得を得ることができる「公正な待遇の実現」を目指すために、2008年に改正パートタイム労働法が施行されるに至った。
 一方、組織率が低下する中で連合は、「パート労働者等を組織化し、全体の労働条件の底上げを図ることが正社員の雇用や労働条件を守ることにつながる」とし、非正規従業員を組織化することで、すべての人に働く機会と公正な労働条件が保障される「労働を中心とする福祉型社会」を実現するとして、「組織拡大」を最重要課題として組織拡大に取り組んでいる。

3.当労組の現状と課題

(1)当労組の人員と年齢構成

 当労組は、2001年度から2005年度まで毎年200名前後が定年を迎え組合員の減少が進んだ。また、2010年度4月には、組合員の81.8%が30歳代以下の組合員で占め、組合員の若年化が進んでいる。こうした人員構成と年齢構成の変化により、組合員の組合活動への意識やニーズに変化が生じている。また、当社においても非正規従業員の比率が増加しており、今後の組合活動に影響を及ぼすことを視野に入れておく必要がある。

(2)非正規従業員の組織化に向けた課題

 当労組では2007年10月から11月にかけて非正規従業員を対象に「組合活動に関するアンケート」を実施した。(対象者2,103名のうち1,861名から回答あり。回答率88.5%)そのアンケートの結果の一部をみると、「労働組合がどのような活動を行っているかご存知ですか」という質問に対しては、元々組合員であった再雇用者、比較的勤続年数が長いと思われる嘱託者については「良く知っている」「何となく知っている」と回答した者が多かった反面、臨時従業員についてはフルタイムでもパートでも「知らない」と回答した者が多かった。(表-1参照)また、「労働組合に加入できるのであれば加入しますか」という質問に対しては、「活動内容を確認してから考える」という回答が50.2%を超えた。この2点の質問から、労働組合の活動がどのようなものなのかわからないということを窺い知ることができる。非正規従業員の組織化にあたっては、どのような活動を行っているのかの説明が十分にできる役員を配置すること、支部で組織一丸となって活動を行っている体制を作り上げ、非正規従業員にそれが目に見える体制を作ることが重要であると考える。

(3)私が思う労組における課題

 企業の発展に向けて労使で取り組んでいく為には、非正規従業員も含めた働く仲間が一丸となって取り組んでいくことが必要であり、組織化にあたっては様々な課題や問題が発生すると考えられるが、それを乗り越えて取り組んでいくべきものであると考えている。
 一方で、既存組織内にも大きな問題や改善しなければならない課題が山積している。例えば、組合員が労働組合の活動に参加しない、オルグや集会を開催しても組合員からの発言がない為、組合役員だけががんばっている「組合役員中心の労働組合」になっているということである。このような状況に陥っている労働組合は多いのではないだろうか。当労組においても活動への動員や、オルグや集会で組合員の発言を増やすということは大きな課題となっており、「組合役員中心の労働組合」となっている感があることは否めない。
 支部を訪ねると、現場の組合員が私のことを「組合の人」と呼ぶことが多くある。そのたびに、組合員の当事者意識が低い、組合役員中心の労働組合になってしまっていると強く感じ、「君もあなたも組合員で組合の人だよ。私は組合員を代表しているだけであってみんなで活動しているのだよ。」といつも語る。一方で、活動に参加しない組合員の立場に立って考えてみると、「業務後も遅くまで残る上に、土日まで拘束されるのはイヤだ」「参加しても何を言っているのかわからない。」「意見してもそれは違うと組合の人から返答されるから発言しようとは思わないし参加しようとも思わない。」といった思いがあるのだと思う。これは労働組合とはどのようなものなのかの認識が浅かった、労働組合の役員を経験する以前に私自身が思っていたことである。結局、昔の私も当事者意識が低く、組合役員のことを「組合の人」と呼んでいたのである。次にあげる2つの課題は、私がオルグに出掛ける時にいつも感じること、どうにかして解決を図りたいと感じることである。

[1]労働組合の一員であるという意識が低い

 オルグ時に行う集会では、会社からの提案に関しての説明や意見集約、労働組合の活動の紹介やその他質疑応答など、その時々でテーマや内容は異なるが、どの場合でも発言が少ないことである。労働組合の一員であるという意識が低いのである。また、これにより、集会やレクリエーション、セミナーなどへの出席率が低下しているという状況も見られる。
 このような状況となったのは、自分達の意見や発言が労働組合の活動を形作っているということや、春闘や秋闘を始めとする労働組合と会社の交渉で得られた結果やその他様々な取り組みが自分達にどう関わるのかが伝わっていない、伝えられていないということが原因であると考えられ、組合員への情宣活動に工夫が必要だと考える。

[2]組合役員自身にやらされている感がある

 支部役員を務めることになった経緯を考えると、「先輩から頼まれた」「職場内で順番が回ってきた」というのが大方の理由で、自らの意思で組合役員を務めているという者はごく限られた人数であると考える。
 組合役員は忙しい会社業務をこなしながら、時には土曜日や日曜日も使いながら、中心的な立場で様々な取り組みを行っており、自らの意思で組合役員を務めているわけではない者の立場で考えるとやらされている感を持つことは理解できるものである。
 これらを考えると、労組役員を務めた理由が、「頼まれたから」、「順番で回ってきた」というレベルに留まってしまい、労組役員が必要な理由やその役割、労組役員を依頼した理由などの説明や指導が十分でないこと、就任時の役員教育が十分でないことが理由であろうと考える。
 会社業務をしっかり取り組んでこその労働組合の活動であるのは当然のことであるし、土日の時間が潰れることに拒否反応を感じることも理解は出来る。しかし、活動を司り、活動の中心にいるのは役員である。その役員が自ら活動を展開していくという意識を持たないと組合員を巻き込んだ活動の展開は難しいと考える。

4.私が感じる労組における課題を解決するために必要なこと

(1)組合員に向けた帰属意識高揚を目的とした体系的な教育活動が必要である

 発言が少ないという理由を紐解いていくと、その根底には何を聞いて良いのかがわからないということがあるのだと考えている。また、新入組合員となってから中堅組合員となるまで労組役員を務めない限りは、労組の活動に直接携わる機会は限られてくる。そのような理由から労組の活動がどのように展開され、それがどのように形作られていくのかのイメージが沸いていないこともあげられると考える。
 また、労働組合の活動は上司や職場の理解も必要である。そのような機会がなかった者は、部下や後輩を数多く持ちマネジメントしていく立場にありながら、労働組合の役員をやったことがないという状況が生まれるわけである。
 こうしたことから、帰属意識を高めることを目的に、労組の活動がどのように展開されているのか、会社との交渉がどのように行なわれているのか、その根幹にあるのは組合員の意見や声であること、取締役に就任している労組役員OBから労組役員をやったことで役立ったことや、会社が期待する労組への役割などの講話など、それを見聞きした組合員が労組の活動に参加しよう、やってみようという教育機会を継続的に持てる環境を体系的に持つことが必要であると考える。

(2)組合役員に責任を持たせるために体系的な役員教育が必要である

 労働組合の役員はボランティアであり、一度役員を務めたからには責任を持って取り組むべきものだと考えるが、一方で労組役員も企業人であり家庭人である。
 労組の活動を行っていくことで、生活にリズムが生まれ、そのことでワークライフバランスの実現が図れ、結果生活を豊かにするという点について認識してもらう必要があると考える。
 また、責任を全うしようという意識を形成するために、支部役員を務める者に対して何を求めるのか、何を期待するのか、どのような視点や取り組みが必要なのかといったことを学べる機会が必要であると考える。また、教育機会は必要に応じて行うというものではなく、新任役員研修では役員として必要な視点や取り組みなど役員としての基礎的な事項、2年目教育では更なるステップアップを目指した内容、3年目では次世代役員育成のためのポイントなど、継続的に体系的に学べる機会とするべきである。

5.おわりに

 本論文で述べた課題に対する解決策は、「全ての組合員と一体となった活動を展開するにはどうあるべきか」に対しての抜本的な解決策ではなく、組合員と組合役員の意識改革へ向けた必要な取り組みの一つであり、現時点で取り得る方向性を示したものである。
 「組織の若年化が組合離れの進行の一因」とも世間で言われるところもあるが、果たしてその言葉で簡単に整理して良いのだろうかと疑問に感じる。組織としても、経済成長が著しく、労働運動が盛んであった頃と変わらず、旧態依然として時代の変化に対応して十分な教育活動や組織の立て直しが足りなかったこと、現場での技能伝承に委ねすぎていたことが、このような状況を生んでいる要因であろうと考えている。
 既存組織における課題を克服していけば、非正規従業員の組織拡大をはかりながら、労働組合の発展につなげていくことができるであろうと考えている。
 私は、労働組合は会社人生や家庭生活を送るにあたって最良の学び場であると考えている。そのことを一人でも多くの組合員が経験し、それを通して労働組合を発展させていきたいと考えている。このことをいつまでも忘れずに、日々の業務にあたり、組合員と接し、組合活動の発展に今後も努めていきたいと思う。

以上


戻る