『私の提言』連合論文募集


「私の提言 第7回連合論文募集」講評

「私の提言 第7回連合論文募集」運営委員会
委員長  岡部謙治

 「私の提言 連合論文募集」は故山田精吾・初代連合事務局長の意思を受けた「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を、2004年から連合が継承し、事務局は教育文化協会が担当し、今回7回目を迎えたものです。「山田顕彰会」から通算すると13回目に当たります。
  今回は応募論文が13編と過去2番目に少ない結果となりました。特に例年、応募のあった、連合と教育文化協会が展開している「連合寄付講座」の開催大学の学生からの応募が無く、また連合アカデミー・マスターコース受講生からも無かったことは少し残念なことと言えます。
  とは言え13名の方からは積極的な論文を出していただいたことに感謝申し上げたいと思います。
  経営状況の悪化から引き起こされるリストラへの対応・経営分析の必要性・組織強化と連帯の必要性、職場における日常的な組合活動・相談業務、メンタルヘルスの対応を重要性など、さらにワークライフバランス、連合のスケールメリットを生かした男女の横断的な取り組み、また連合構成組織外からも介護職場の改善、社会の意識改革と連合への期待など多岐に渡った提言をいただきました。
  今回は労働運動論と言うよりも、働いている現場の組合員の悩み相談などを組合のそれぞれの担当者が真剣に受け止め努力していると言うところからの問題提起に特徴があったように思います。
  審査の結果は優秀賞一編、佳作賞三編とし、奨励賞は無しとしました。
 
  優秀賞の井上由香さんの「組合活動の基本はコミュニケーション!」は書記局員という立場で組合員から相談を受ける立場で頑張っておられる姿勢とそれをコミュニケーション論として展開されていることが、いま現場で組合を支えている実態が良く伝わり他の組合にも参考にできる視点を評価され全員一致で優秀賞に推薦されました。

 「佳作賞」は三編としました。
  野口健幸さんの「パパこそがワークライフバランスを実践する」は副題に「子育て家族を応援する労働組合のマインドからの提言」とご本人も記されているように、これからの連合・労働組合として何が提言できるのかとの視点が評価されました。
  平本雅郁さんの「小さな命に希望の光を、今求められている意識革命」は連合構成組織外からの応募でした。今日の社会の現状を網羅的に整理されており、労働組合の御経験は無いようですが連合に対しても連合の認知度を高めるべき等、提言を述べられているところが評価されました。
  翠川達男さんの「私が考える労働組合活動を通した組織力の拡大と連帯の強化」は、委員からヒアリングしたいとの声が出たくらい現場の状況が良く書けていることと、論文提起から実行へとの力強さが評価されました。

 今回、優秀賞一編と佳作賞三編の計四編と例年に比べ少ない入選数となりました。応募数が少なかったことが少なからず影響したことが挙げられます。
  今後、連合・教育文化協会・構成組織などのHP、機関紙などでの広報のあり方や分かり易いテーマ設定などの検討が、多くの方々に応募していただくために必要であることも申し添えます。

 全体の評価や入賞作については別に橋元秀一先生、廣瀬真理子先生、大谷由里子先生、
吉川沙織先生に寸評をしていただきましたのでぜひご覧ください。
  忙しい組合活動のなかから、さらには構成組織外から連合にたいしての論文を応募していただきました皆さまに感謝申し上げますとともに、大変お忙しいなか審査を行って戴きました運営委員会の委員の皆様にお礼申し上げます。


寸評

國學院大學経済学部教授 橋元秀一

 応募論文は、自らの生活や労働組合活動に根ざした視点から、あるいは近年に問題となってきている論点について自分なりの視点から書いており、現代的な課題について多彩な見解が寄せられた。それぞれ、我々が受け止めるべき問題を提起せんとする意欲作であった。
  会社倒産・経営危機を経験した組合活動や組合役員としての活動などを振り返りながら点検し、同時に組合の役割や組合活動の改善すべき課題を整理し提起した論文が半分近くを占めた。それらには、組合活動において、それぞれの場で向き合うことが必要であろう多くの示唆に富む問題提起が含まれていた。経営状態のチェックや先を見通した対応、組織力強化と組織外連帯の大切さ、「組合活動は自分達で創る」認識を持てるような組織作り、組合の役割を実感できる組合員とのコミュニケーションの促進の重要性など、経験に裏打ちされた提起だけに実感のこもった指摘であった。「育メン育成の環境整備」の提起、「子育て家族を応援する」文化行事を手がかりに「パパこそがワークライフバランスを実践する」方途の提唱、職場・企業・産業を越えている連合だからこそ「若い男女の出会い」応援にスケールメリットを生かそうという提言、さらにはますます深刻になりつつあるメンタルヘルスをめぐる対策への提案など、今後、組合が積極的に進めていくべき重要問題を取り上げ、自らの目線で提起している論文が半分を占めた。また、経済格差の拡大や貧困が見られる中で、弱者救済なども含め公正な社会実現へ向けて連合へ期待する組合員以外からの論文も寄せられた。
  審査結果に示された入賞の可否は、自らの経験や考察対象を丁寧に分析し、提言の裏付けとなる根拠をきちんと明示しつつ、その意義を提起し得ているかどうか、という点にあったと言えるだろう。優秀賞となった井上論文は、そうした点で優れていた。自らの書記業務の経験を具体的に記述しながら、自分の成長や苦労したことを明快に分析している。コミュニケーションの大切さや学んで身につけてきたその手法について具体的かつ丁寧に描いており、「相談員」としての書記業務が有する組合活性化の意義が示されていると言えよう。また、こうした現場での組合活動の意義と重要性を、改めて教えてくれている。組合員のいる現場に真摯に向き合えば、コミュニケーションの工夫も生まれ、組合活性化への手がかりもあることを示唆してくれた好例でもあろう。


寸評

東海大学教養学部教授 廣瀬真理子

 今回の「私の提言」への応募論文を読ませていただき、応募者おひとりお一人が、日々の仕事に追われながらも安易にその環境に流されることなく、立ち止まって働くことの意味を考えていらっしゃる真摯な姿が目に浮かびました。そして、よりよい労働・生活環境を築くための主張や提言には、多くのエネルギーを感じました。
  論文としての完成度を重視すべきか、たとえ素朴であってもキラリと光り、心に伝わる意見・提言を重視すべきか迷いましたが、提言であれば、少なくともその根拠を明確にすべきだと思います。
  優秀賞となった井上さんの論文は、「コミュニケーション」という現代的な課題を通して、それを組合活動の改善につなげるための具体的な取り組みについて、ご自分の経験などをもとにして積極的な提言を行った点がよかったと思います。そのいっぽうで、「コミュニケーションの促進」は組合活動の活性化をめざすものなのか、それを通して何を実現しようとするのかが、はっきり示されておらず、テーマに対してやや視野が狭いような印象も残りました。
  佳作賞の3本の論文についても、それぞれ興味深いテーマですが、野口さんが提言する男性への子育て支援策の充実は、まさに重要な課題だと思います。そのために「ワークライフバランス」の実践を提言されていますが、子育て支援策だけが「ワークライフバランスの実践」なのでしょうか。まず「ワークライフバランス」とは何か、という点から議論を出発されたらより興味深い論文になったと思います。
  翠川さんの論文は、組合員として会社の危機に直面した経験をもとに、組織内・外の組合活動について具体的な提言を行っており、事例として興味深く読みました。もう少し客観的な議論が展開できたらさらに考察が深まると思われます。たとえば、「組織力の拡大と連帯の強化」の視点をより広く社会に向けた場合の議論も必要ではないでしょうか。
  この点で、ともすれば労働組合にさえ見過ごされがちであった「貧困」問題に焦点を当てて、連合が社会にどう貢献すべきかについて提言を行っている平本さんの論文には、社会の枠組みを問い直す視点がみられました。やや論理が飛躍している部分もあり、また外国の事例の分析についても少々議論が雑であるように思われましたが、グローバル化が生み出した矛盾に対して、これから労働組合がどのように取り組むべきか、さらに考察を深めるためのステップになると思います。
  その他の論文にも興味深い視点がいろいろ見いだせましたので、どうぞこれで終わりにせずに次の機会にまた多くの提言を行っていただきたいと思っています。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回は、論文、提言というよりは、現場を綴ったものが多かった。また、文字数もそんなに多くないものが多く、「これは論文としてどうか」などという議論が運営委員の中で交わされた。中には、「優秀作はいらないんじゃないか」という声も上がった。けれど、「現場の声が届くことが大切」ということで、例年通り、優秀作、佳作を選ばせていただくことになった。
論文としての価値は少なくても、現場が一生懸命に組合員のことを思い、組合活動に意識を持ってくれていることが伝わるものはたくさんあった。そして、近年の傾向として、政治や政策について述べているものよりも、現場のコミュニケーション、ワーク・ライフ・バランスについて書かれているものが多かった。
優秀作の井上由香さんの論文もコミュニケーションに触れたものだった。「組合活動の基本はコミュニケーション」ということで、現状分析から始まってコミュニケーションを取るために必要な個人のこころがけから労働組合としてできることが述べられている。決して、特別な提言でもなければ大それたことが書かれているわけじゃない。けれど、基本中の基本として書かれていることはとても大切なことである。
また、本当にこれを単組だけでなく本部も含めて本気で意識して実行すれば、良くなるような気がする。非常に基本だけれど、非常に大切な提言だとわたしは思ったし、わたし自身もこの論文を推薦させていただいた。
論文を上部団体の人が書いたか、単組のメンバーが書いたかによって評価が分かれる。単組のメンバーにとっては活動であることでも、上部団体のメンバーにとっては、業務であったりする。そこが、毎年、運営委員の中でも意見が分かれるところであるが、上部団体のメンバーには、やはり論文の質が問われてしまう。
今年寂しかったのは、学生の応募が無かったこと。ここ数年は大学の寄付講座の影響もあって、学生の応募が数点あったけれど、今年は無かった。やはり、組合活動を裾野のメンバーにも知ってもらうためにも、学生たちに興味を持ってもらえるような授業を行って行くことも大切じゃないかと感じさせられた。
これらの論文、提言がこれからの組合活動に少しでも活かされて行くことが大切じゃないかと、わたし自身は、とても考えさせられた。


寸評

民主党 参議院議員 吉川 沙織

 「私の提言」連合論文の運営委員として、初めてその選考に携わる機会を頂いた。よって、前回までとの比較は困難であるものの、今回の応募論文を概観する限り、以下の2つのアプローチに大別出来るのではないかと、個人的に捉えている。
(1)著者自身の活動から得られた提言(新たな活動領域への提言を含む)
(2)第三者としての客観的な情勢分析と提言

 今回、運営委員多数の推薦を得て優秀賞に選出された井上由香氏の論文は、井上氏自身のこれまでの現場第一線での活動から得られた提言そのものであるからこそ、運営委員の共感を呼んだのではないかと考えている。論題にもある通り、コミュニケーションが基本であるとしているが、これは組合活動に限らず、社会生活を送るうえで全ての基本になる行為であることは誰もが認識するところであろう。しかし、現在の社会においては雇用情勢の悪化や成果主義の導入など、人と人とのつながりが希薄となり、コミュニケーションそのものが危うくなっている現状に鑑み、原点に立ち戻る姿勢が今こそ求められるものと考える。

 他には佳作に選出された翠川氏、平本氏、野口氏が上記(1)、(2)の観点から印象に残る論文となっているが、一般からの応募となった平本氏の論文は現代の社会が抱える問題点が列挙されているのみならず、評者自身の体験とも重なることから共感するところが多い作である。評者自身、就職活動を行ったのが1998年であり、今またその再来と言われる就職氷河期真っ只中の世代であることから、学校を卒業して社会に出ようとした時の経済状況でその若者の人生が左右されるような状況は、非正規雇用の問題、格差拡大防止の観点からも是正されなければならない課題であると強く認識している。

 全体的には組合活動への提言として、労働者の中の弱者を守ること、次代を創ること、次世代育成の観点から男性の意識改革を促進すること、それぞれの思いが込められた論文を拝読するにつれ、組合活動のあり方、その存在意義を改めて考えさせられる機会となったが、連合にはこれら論文を契機とし、提言を行動として活かして欲しいと切に願うところである。


戻る