『私の提言』連合論文募集

第5回入賞論文集
奨励賞

非正規社員の仲間から教えられたもの

渕上 多鶴子
(日本貨物鉄道労働組合中央本部書記)

 私たちJR貨物労組では、契約・臨時社員連絡会が1年に3~4回、『るーじゅ通信』を発行しています。
 この契約・臨時社員とは何かといいますと、JR貨物会社に雇われた1年契約の社員で、その多くが女性です。私たちの組合には全体の半数弱の90名近くが加入しています。今は本人が希望すれば、誰でも1年の臨時社員を経験すると契約社員になることができます。(そういうことができるようになったのも、全国の契約社員のつながりによります。)
 ある時はその時々の取り組みを、あるときは勝ち取った制度の仕組みを、あるときは一地方で起きた問題を提起するなど、とても盛りだくさんの内容です。すでに発行号数は33号を数えています。
 昨年あたりからとても強く感じるのは、この『るーじゅ通信』が、契約社員の一つの希望の光、または駆け込み寺的存在になっているということです。
 昨年5月の年2回開催している幹事会の直前に一つの手紙が来ました。それは55歳を迎えた契約社員からでした。彼女は年一回の昇給が通常に比べて1,000円しか上がらないことにショックを受け、まわりの同じ組合の仲間にもそのことを訴えました。しかし、正社員の仲間たちは「自分たちだって55歳になると1,000円しか上がらないのだから当たり前」という反応にさらにショックを受け契約・臨時社員連絡会宛に手紙を書いたのでした。(正規のJR貨物の社員は55歳になると賃金は70%に下がり、昇給は1,000円しかなりません。しかし、下がった賃金は契約社員の賃金よりもはるかに多いです。) 少ない給料の中で、唯一の楽しみだった昇給がこれだけというのは、あまりにもがっかりで仕事をしていく意欲もなくなるとも綴られていました。
 幹事会ではこの手紙をもとに話し合い、本部ー本社間の確認に踏まえて、地方本部でもその是正のために動いてもらうことにしました。そのことで、結果的には、通常の昇給をえる事ができました。
 その後、この仲間は、今年の春の地方本部が行った支社との交渉にも参加してくれました。そして60歳以上の雇用について堂々と主張をしました。「契約・臨時社員の60歳以上の雇用は考えていない、それは女性が夫の補助的な役割というのがある」という会社側に対して「女性の働き方だって変わってきている、自分みたいに病気になった夫の面倒を見ているものだっているし、結婚しないことを選択している女性だっている、そういう言い方は間違っているのでは」と毅然と反論しました。また、彼女は、今年の地方本部の大会でも堂々と発言をしました。この過程の一端を見守って来た私はとてもとても感動しました。彼女は言いました。あのとき、そのままだったら私はやめていたかも知れないと。(会社か組合か、そこは聞かなかったのですが。)
 もうひとつは、昨年の秋、産前産後休職と育児休職のアンケートを取り組んだ時のことでした。非常にまじめにみんな答えてくれました。ただ、アンケートを行なった後の集まりの中では、子どものことよりも老人介護の方が切実という年代の人も多いということがわかりました。そういうことも取り組んで初めてわかることなんだと思いました。その中で自分が産前産後を取ったときの苦労をアンケートと一緒に同封してくれた仲間がいます。2005年度4月は非正規の仲間達にも、「育児・介護休職および看護休暇制度」がようやくできた年です。その年に彼女は妊娠が解ったようです。彼女も出産後、育児休職を取ろうと思っていたようです。しかし、制度ができてもそれへの理解度は低く、いろんな雑音が聞こえてきたそうです。加えて、出産後の仕事のことまでいろいろいわれたようです。それで、結局は産前・産後休職のみで育児休職は取らないで仕事に復帰しました。出産というとてもデリケートなときにいろんなことを言われることの思いは読んでいても、とてもとてもたいへんだったろうなと思わせる内容でした。でも、仕事復帰して2年経った今、「戻ってきて良かった!!」と心から思っていると。「言ったもん勝ち。せっかく、産休・育休制度のある会社に勤めているのだもん、使わなきゃ損」、「最初はいろんなこと言われるけど、そんなもの時間が解決してくれる」、「今から思えば、母は強し」と。それは後に続く仲間たちへのとっても暖かいエールを感じる内容でした。また、こういう女性の存在が後に続く女性達の環境をつくってくれているんだなと、しみじみ思わせる内容でした。たかがアンケート、されどアンケート、こういった取り組みにも自分の体験をどこかで伝えたいという思いを感じてくれているんだなということも実感しました。
 この契約・臨時社員連絡会の取り組みも、発足から周りの方達の協力でいろんな事を勝ち取ってきています。
 ①退職慰労金制度(今は、上限が60万円) ②契約回数の上限の廃止 ③臨時社員から契約社員への登用を一年後に行う ④契約更新時、社員の昇給率を基本に改訂④育児・介護休職および看護休暇制度の新設 ⑤職場環境の改善 ⑥被服関係の改善⑦互助会制度の改善
 全国ユニオンの鴨会長に幹事会の時においでいただき、お話しを伺う機会がありました。とりわけ、鴨会長には②について、たいへんお褒めの言葉をいただきました。こういう上限を取っ払っていくことの大変さを知っているが故の鴨会長の言葉に、勝ち取ったものの大きさを知る機会を得ることができました。
 しかし、こうして勝ち取ってきたことも早くから組合員になった人は、自分たちや組合全体の関わりがわかっても、すでに改善されてから会社に入ってきた人にとっては、組合へ入る必要性を感じない人もあります。とても残念です。しかし、あとは関わりもあると思います。組合に入る入らないは、この人は何かあったら守ってくれるかなということだと思います。効率化で一番立場の弱い契約・臨時社員の雇用が危ないときもありました。その時は、『るーじゅ通信』の号外を作り、それを一つの手段にして雇用を守るために多くの役員が動いてくれました。そしてまた、その時に多くの方が組合に加入しました。
 『るーじゅ通信』が駆け込み寺的存在になっていることを可能にしているのは何かというと、ひとつには代表であるKさんの『るーじゅ通信』の作り方があると思います。組合の役員などの経験があったり、普段に組合に関わりのある人にとっては当たり前のこと、例えば全国大会とか、春闘とか、普段に使っていることば、そのことを説明しつつ書き進んでいます。そのことは、同じ仲間と常に交流しつつ、彼女たちの立場に立って書いていることです。彼女たちが分かるかな、読んでもらおうという情熱のもとに書いています。そして、彼女自身が非正規であり、このことを何とかしたいと思う仲間たちとの交流をとてもとても大事にしているからです。まわりの多くの協力はもちろんありつつも、今幹事会に集まる仲間は、いろんな仕事の交流などのつてを通じて全国に散らばる幹事の仲間たちが培ってきて初めて可能となった人達です。
 あと、とても感心するのは、「会議は雑談でいいの」という姿勢です。本音を語って物事を進めていきたい、本音の言えない会にはしたくないという強い姿勢がKさんを中心にまとまっていることかなと思います。
 あと、この『るーじゅ通信』は何が大事かということを明確にいっています。育休・産休のアンケートを採ってそれを載せた号に「それって脅しだからね」 という所には、笑ってしまいした。1年契約の契約・臨時社員が育休・産休を取った場合、アンケート結果の中に「次年度の契約がどうなるか解らないと言われ、先行きがどうなるか不安だった」と言うことに対して『るーじゅ通信』では、「何回も言うけど、コレって『脅し』だからね。こんな言葉は許されないでしょ」と展開されています。そういうことが、まだまだ当たり前ではない世界がある中で明確に言い切ってくれるものがあるというのはなんと幸せなことでしょう。また、一番最新号にはあとがきで、自己責任と映画『相棒』が語られていました。このあとがきがなかったら決して見に行くことがおそらくなかったであろう映画を見て、とてもこのあとがきが分かりました。そう、私も3人の人がイラクで捕まったときの日本中のあの集団ヒステリーのような「自己責任」が大嫌いでした。自己責任とはそれを行使できる人が取るべきであって、決して彼らが言われるべきではないと思いました。あのとき、政府の責任は日本人の3人をなんとしても助けることが日本政府の責任だったと思います。労働組合は、それぞれの役割において責任を果たすべき事が私はあると思います。それぞれの場でそれぞれの役割のもと、その役割を最大限発揮すべきと思います。映画『相棒』はその時の「自己責任」を痛烈に批判していると思います。この映画がたいへんヒットしていることと、その時に 「自己責任」をそうだと思った人達はどうつながるのか、映画をみていてとても疑問に思いました。こういう事も貫かれている『るーじゅ通信』なんです。
 この契約社員の集まりも徐々にまわりの役員の方たちに支えられて活発になってきています。全国で6地方本部ある私たちの組合で各地本の集まりも作られ、また、各地方本部の大会で堂々と発言する仲間も増えています。
 今後は全地本で契約社員の仲間の集まりを継続的に行なっていくことと、種々の労働条件の向上と、そして最大の目標が正社員化です。こういうとても貴重な財産である彼女たちを、正社員にしないということは企業の損失でもあります。身分は非正規でも仕事に対する責任感や、働くことに誇りを持って仕事をしていることがいろんな取り組みでとても感じます。
 そうだからこそ、自分が辛く悔しい思いを経験したことを訴えようとするし、そしてその思いをお互いのものにしようとします。その一端をそしてその一助を『るーじゅ通信』が果たしていることを私は確信しています。 かの、「秋葉原事件」でも、契約社員という存在が注目されました。非正規社員が年々増え続ける中で、いろんなしわ寄せが弱い立場の人にきます。そういう中で、『るーじゅ通信』を通じて、ともに頑張っている仲間の存在を感じ取れるのはとても心強いと思います。一人で、またはなかなか理解が得られない中で、ああこんな思いをしているのは私だけではないというのは明日を生きていく自信になると思います。かつての私がとても辛いときに私の手に手を添えて、「あなたの気持ち解るからね」と共に泣いてくれた女友達の手のぬくもりと厚いエールを忘れることができません。私自身もこうした思いがあるからこそ、どんなときもがんばっていける確固としたものを持つことができました。
 こうした思いをいっぱい感じさせる活動をこつこつと展開している仲間がいることをぜひ紹介したくてこの文章を書きました。


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