私の提言 連合論文募集


第3回応募論文 講評

第3回論文募集運営委員会
委員長 草野 忠義

 「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を連合が継承して実施した、第1回「連合運動への提言」には16編、第2回には12編、そして名称を「私の提言」と改めた今回の第3回には22編もの応募をいただいた。数が増えただけではなく、力作が揃った。そのため、個別審査を経て実施した最終選考会は、静かながらも侃々諤々の議論となった。結果として、入賞作と紙一重という、惜しくも選にもれた論文も数編あった。

 応募論文の内容は、巻末の一覧表の論題に示す通りである。いずれも労働運動にかかわるもので、課題別に、「教育活動」「幸福論」「キャリアサポート」「運動の活性化」「多重債務対策」「障害者対策」「企業年金制度」「少子化対策」「非正規労働問題」「男女共同参画」「労働安全衛生活動」「労働時間問題」など多岐にわたっている。

 少し厳しくいうと、総じて、格別目新しい視点からの論文はなかった。「“耳たこ”のフレーズ」(中村委員)も多かったかも知れない。しかし中身は、立場は違っても働く仲間同士が強く団結することの意義、そしてその活動はあくまで楽しく、を改めて思い起こさせてくれたという意味で、視点云々を補って余りあるものがあった。この点を見事に評された、組織外の委員である中村・大沢・大谷各先生の寸評をぜひお読みいただきたい。

 優秀賞の大出さんの「労働組合活性化への提言」は、労働組合の組織と活動を点検するための極めて具体的で実践的な提言である。そしてその活性化のためには、“ホンネ主義”と“現場主義”で行こうとすすめる。

 優秀賞の高井さんの「情けは人のためならず・あなたの隣の労働者に声をかけよう」は、
非正規雇用労働者の組織化に絞った内容で、論文としての評価点はもっとも高かった。しかし、読者に与えるインパクトの点では、十分という意見と若干不足という意見とに分かれた。

 優秀賞の森さんの「単組執行委員と一体の活動を」は、「日本を良くするためには温かみを持った人間で構成する影響力のある集団が必要。それが連合の役割であり責任」とした上で、その連合と単組執行委員とで一緒にやろうと呼びかけている。組織運営上、従来、連合は単組に出来るだけ直接関与しないという不文律があった。そこに一石を投じた論文といえる。
 
 佳作賞の原さんの「労働組合が取り組むキャリアサポートへの考察」は、論旨明快で、優秀賞に推す声もあり、総じて評価が高かった。

 佳作賞の前角さんの「少子化社会における労働組合への期待」は、「労働組合は少子化を自らの問題として捉えていないのではないか」「子育て権の行使を望む労働者の労働実態を把握しようとしていないのではないか」と厳しく指摘した上で、少子化を乗り越え、よりよい社会を実現するためにも、労働組合が交渉力を高めるよう訴えている。

 佳作賞の山口さんの「福祉としての障がい者対策から働く仲間としての障がい者対策へ」は、論文としては量的にもやや力不足な点もあるが、障害者の組織化や障害のある子どものいる組合員への対応の必要性を訴えており、実践者ならではの視点と問題提起は素晴らしい。

 今回、特別に設けた奨励賞の柴田さんの「立場を超えて」は、論文というよりは、正規・非正規の雇用形態の多様化した実態を描写した、現場の声である。雇用形態が違っても労働者としてはみな同じ、のメッセージに多くの委員が心を打たれた。

 論文集の発行にあたっては、優秀、佳作と奨励に入賞した論文を掲載した。ぜひ多くの皆さんにご一読いただきたい。今回も22編の応募論文中、大学院生を含む一般の方々から数編の応募があったことに感謝申し上げたい。

 惜しくも入賞されなかった方についても、論文は入賞作と僅差であり、今後のますますのご研鑽を期待したい。そしてこれらの提言は、今後の連合運動、労働組合活動にぜひ活かしていきたいと考えている。


寸評

東京大学 社会科学研究所 教授 中村 圭介

 非正規労働者の組織化。耳たこのフレーズである。組織化のスピードは想像以上に速いのだけれど(年率10%で増加)、なにせ、絶対数が少ない。もちろん、現場で頑張っている人はいる。その苦労は大変なものだろう。高井論文がその一端を私たちに示してくれる。自分たちにできることはなんだろうか? どうやったら、第一線で頑張っている人を支えていけるのだろうか。この論文を読んで、みんながそう考えるようになってくれればよいと私は思う。

 組合の活性化。この言葉によっても、耳のたこは大きく育ってしまった。大出論文の提言は極めて具体的である。まるで、QC活動推進マニュアルのようだ。よくできていると思う。問題は、このマニュアルにそって、自分たちの組織を活性化しなければと単組の執行部が考えるかどうかだ。また、産業別組織がそう促せるかどうかだ。やや文脈はずれるけれども、早見論文(惜しくも入選とはならなかったが)は個人的には気にいっている。単組の委員長にたまたま「なっちゃった」だけなのに、徐々に、仲間のこと、組合のことが気になってしまって、組合活動にのめりこんでしまう。本人は、きわめて、冷静な、もっと言ってしまえばシニカルな態度を装っているけれど、結局、好きなんだなあと私なんかには見えてしまう。これもまた、ある意味の組合活性化である。

 単組からの連合への熱いラブコールをつづったのが森論文である。こうした声が広がっていって、もし、動かないとしたら、それは執行部の責任だろう。けっこう、期待されているじゃん、などと不遜にも思ってしまった。

 障害者の組織化、あるいは障害のある子どものいる組合員への対応の必要性をうったえた山口論文には、いろいろ教わることが多かった。

   私が個人的に最も感銘を受けたのは柴田論文である。雇用形態の多様化を、普通の言葉で描写した論文である。文章は短い。びっくりするほどの提言が盛り込まれているわけではない。だが、地方で黙々と働く一人の組合員が文章を寄せてくれたのだ。たとえ会社が違っても、雇用形態や職種が違っても、労働者としてはみな同じなのだというメッセージを届けてくれた。それだけで十分ではないか。こういうメッセージが全国から届けばと私は願っている。

寸評

日本女子大学 人間社会学部 教授 大沢 真知子

 今回は22編の応募があり、前回に比べてさらに多彩なテーマが扱われており、また、個性あふれるものが多かった。そのような理由から、審査もひとつの基準に基づいて審査する方式をとらず、読み手に訴えかけてくるものがある論文を選ぶという方法で審査をおこなった。今回奨励賞が設けられたのもそのような理由が大きい。

 組合の役割が時代とともに大きく変わっている。第1に受けた印象は、このことだった。雇用保障が低下し、雇用され生活できる力を身につけることがますます重要になってくるなかで、組合はキャリアサポートをすべきだという提言を興味深く読んだ。デンマークでは、組合員が失業なき労働移動をするための技能訓練に大きな力を注いでいた。

 経済のグローバル化が進展するなかで、非正規労働者の増加の問題がクローズアップされている。今回の応募論文のなかでも、この問題を扱ったものが数編あった。かれらを組織化し、労働条件を上げることができなければ、労働力の非正規化はさらに進み、組合は急速に求心力を失ってしまう。これは組合の死活問題なのだと改めておもった。

 今回奨励賞を受賞した柴田論文では、そのことが、派遣社員の目線から指摘されていた。正規労働者と非正規労働者のあいだの処遇差が職場での労働者の団結を阻む要因になっているのである。

 日本でももっと父親が育児に参加すべきだといわれて久しいが、今回は2編このテーマを扱った論文があった。一編は、自身の育児体験が書かれており、もう一編は、労働組合がなぜ労働者の子育ての権利をその運動方針のひとつに入れないのか、いれるべきだという提言がなされていた。代替要員の配置など、組合がなかに入ることによってうまく機能することがあるのだとあらためておもった。

   いま、男性もふくめて働き方を見直そうという動きが出て来ている。イギリスでは、この仕事と私生活との調和の取れた働き方を職場に導入するにあたって、組合が果たした役割が大きい。組合の今後の取り組みに、大いに期待したいところである。

寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回で3回目となって、論文の内容も質の高いものになってきました。

 ただ、質は高いのですが、目新しい視点というものが意外に無かったのが寂しく感じました。提言なので、もっと、自由な発想があると、もっと良かった気がします。もっと、パワフルに斬新な論文があってもいいと感じました。

 毎年、応募してくださる人もいました。しかも、毎回新しい内容です。こんな人がいると、審査する側としては、「今年は、どんな内容で応募してくれるんだろう?」と、楽しみになります。

 また、労働運動に携わっておられる方の論文がたくさんありました。自分たちの運動の棚卸しのためにも、このような論文でアウトプットしてくださること、とってもいいです。文字になることによって、「こういうことだったんだ」と、納得してもらえることもたくさんあります。

 今回の選考でおもしろかったのは、労働運動をされてきた運営委員と、わたしのように単組を見てきた者や、運動にまで入り込んでいない先生たちと、同じ論文を読んでも、感じ方が全く違うということに気づかされたことです。特に高井さんの論文は、「おもしろいし、よくできている」という意見と、「もっと、いい論文が書けたはず」という意見の二つに分かれました。

 柴田さんの論文は、どちらかといえば論文というよりも現場の声に近いものがあったのですが、率直な現場の意見が反映されていて、みんなが心を打たれたこともあって、「奨励賞」となりました。そこで気づかされたこと。UIゼンセン同盟は、派遣の彼女たちまで情報が行き届いていて、今回もUIゼンセン同盟だけで7通も応募があるのに、他は、どうなっているのだろう?ということ。ひょっとして、この論文のこと、誰も知らないのでは? できれば、せっかくの機会なので、もっといろんな産別のいろんな立場の人からの提言もあるといいですね。

 せっかくの提言の機会です。もっと、もっと、たくさんの人が提言してくれて、その提言が、労働運動の現場に生かされることが理想です。来年の応募も「今度は、どんな人がどんな提言をしてくれるのだろうか?」と、楽しみです。できれば、多方面からのパワーのある斬新な提言の論文が届くことを期待しています。


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