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寸評東京大学 社会科学研究所 教授 中村 圭介 非正規労働者の組織化。耳たこのフレーズである。組織化のスピードは想像以上に速いのだけれど(年率10%で増加)、なにせ、絶対数が少ない。もちろん、現場で頑張っている人はいる。その苦労は大変なものだろう。高井論文がその一端を私たちに示してくれる。自分たちにできることはなんだろうか? どうやったら、第一線で頑張っている人を支えていけるのだろうか。この論文を読んで、みんながそう考えるようになってくれればよいと私は思う。 組合の活性化。この言葉によっても、耳のたこは大きく育ってしまった。大出論文の提言は極めて具体的である。まるで、QC活動推進マニュアルのようだ。よくできていると思う。問題は、このマニュアルにそって、自分たちの組織を活性化しなければと単組の執行部が考えるかどうかだ。また、産業別組織がそう促せるかどうかだ。やや文脈はずれるけれども、早見論文(惜しくも入選とはならなかったが)は個人的には気にいっている。単組の委員長にたまたま「なっちゃった」だけなのに、徐々に、仲間のこと、組合のことが気になってしまって、組合活動にのめりこんでしまう。本人は、きわめて、冷静な、もっと言ってしまえばシニカルな態度を装っているけれど、結局、好きなんだなあと私なんかには見えてしまう。これもまた、ある意味の組合活性化である。 単組からの連合への熱いラブコールをつづったのが森論文である。こうした声が広がっていって、もし、動かないとしたら、それは執行部の責任だろう。けっこう、期待されているじゃん、などと不遜にも思ってしまった。 障害者の組織化、あるいは障害のある子どものいる組合員への対応の必要性をうったえた山口論文には、いろいろ教わることが多かった。 私が個人的に最も感銘を受けたのは柴田論文である。雇用形態の多様化を、普通の言葉で描写した論文である。文章は短い。びっくりするほどの提言が盛り込まれているわけではない。だが、地方で黙々と働く一人の組合員が文章を寄せてくれたのだ。たとえ会社が違っても、雇用形態や職種が違っても、労働者としてはみな同じなのだというメッセージを届けてくれた。それだけで十分ではないか。こういうメッセージが全国から届けばと私は願っている。寸評日本女子大学 人間社会学部 教授 大沢 真知子 今回は22編の応募があり、前回に比べてさらに多彩なテーマが扱われており、また、個性あふれるものが多かった。そのような理由から、審査もひとつの基準に基づいて審査する方式をとらず、読み手に訴えかけてくるものがある論文を選ぶという方法で審査をおこなった。今回奨励賞が設けられたのもそのような理由が大きい。 組合の役割が時代とともに大きく変わっている。第1に受けた印象は、このことだった。雇用保障が低下し、雇用され生活できる力を身につけることがますます重要になってくるなかで、組合はキャリアサポートをすべきだという提言を興味深く読んだ。デンマークでは、組合員が失業なき労働移動をするための技能訓練に大きな力を注いでいた。 経済のグローバル化が進展するなかで、非正規労働者の増加の問題がクローズアップされている。今回の応募論文のなかでも、この問題を扱ったものが数編あった。かれらを組織化し、労働条件を上げることができなければ、労働力の非正規化はさらに進み、組合は急速に求心力を失ってしまう。これは組合の死活問題なのだと改めておもった。 今回奨励賞を受賞した柴田論文では、そのことが、派遣社員の目線から指摘されていた。正規労働者と非正規労働者のあいだの処遇差が職場での労働者の団結を阻む要因になっているのである。 日本でももっと父親が育児に参加すべきだといわれて久しいが、今回は2編このテーマを扱った論文があった。一編は、自身の育児体験が書かれており、もう一編は、労働組合がなぜ労働者の子育ての権利をその運動方針のひとつに入れないのか、いれるべきだという提言がなされていた。代替要員の配置など、組合がなかに入ることによってうまく機能することがあるのだとあらためておもった。 いま、男性もふくめて働き方を見直そうという動きが出て来ている。イギリスでは、この仕事と私生活との調和の取れた働き方を職場に導入するにあたって、組合が果たした役割が大きい。組合の今後の取り組みに、大いに期待したいところである。寸評志縁塾 代表 大谷 由里子 今回で3回目となって、論文の内容も質の高いものになってきました。 ただ、質は高いのですが、目新しい視点というものが意外に無かったのが寂しく感じました。提言なので、もっと、自由な発想があると、もっと良かった気がします。もっと、パワフルに斬新な論文があってもいいと感じました。 毎年、応募してくださる人もいました。しかも、毎回新しい内容です。こんな人がいると、審査する側としては、「今年は、どんな内容で応募してくれるんだろう?」と、楽しみになります。 また、労働運動に携わっておられる方の論文がたくさんありました。自分たちの運動の棚卸しのためにも、このような論文でアウトプットしてくださること、とってもいいです。文字になることによって、「こういうことだったんだ」と、納得してもらえることもたくさんあります。 今回の選考でおもしろかったのは、労働運動をされてきた運営委員と、わたしのように単組を見てきた者や、運動にまで入り込んでいない先生たちと、同じ論文を読んでも、感じ方が全く違うということに気づかされたことです。特に高井さんの論文は、「おもしろいし、よくできている」という意見と、「もっと、いい論文が書けたはず」という意見の二つに分かれました。 柴田さんの論文は、どちらかといえば論文というよりも現場の声に近いものがあったのですが、率直な現場の意見が反映されていて、みんなが心を打たれたこともあって、「奨励賞」となりました。そこで気づかされたこと。UIゼンセン同盟は、派遣の彼女たちまで情報が行き届いていて、今回もUIゼンセン同盟だけで7通も応募があるのに、他は、どうなっているのだろう?ということ。ひょっとして、この論文のこと、誰も知らないのでは? できれば、せっかくの機会なので、もっといろんな産別のいろんな立場の人からの提言もあるといいですね。 せっかくの提言の機会です。もっと、もっと、たくさんの人が提言してくれて、その提言が、労働運動の現場に生かされることが理想です。来年の応募も「今度は、どんな人がどんな提言をしてくれるのだろうか?」と、楽しみです。できれば、多方面からのパワーのある斬新な提言の論文が届くことを期待しています。 |