立場を超えて柴田 信子(UIゼンセン同盟・ニチイ学館労働組合・組合員)
私が勤めているのは、株式会社ニチイ学館という会社です。最近テレビでコマーシャルも流れるようになり「見たことがある」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 (株)ニチイ学館とは、病院様より委託を受けて、その病院の業務量にあわせた人員をそれぞれの病院に派遣する派遣会社です。 私はニチイ学館より山形県にある病床数50床、職員43名の病院に派遣されております。その中でニチイ学館より派遣されているのは私を含めて2名です。全国にニチイ学館の派遣社員は何千人もおりますが、本当の意味で同僚と呼び、協力しあえるのは、一緒に働いているもう一人の人しかいないのです。 そのような現状の中でニチイ学館労働組合より送られてくる「もんじゅのちえ」や「UIゼンセン新聞」は唯一、私たちに様々な情報を知らせてくれるものです。その「UIゼンセン新聞」の6月25日号に「私の提言」と題した論文募集の記事を見つけ、こんな地方の、しかも同僚が一人という私でも何か発信できないか、こんなちっぽけな私だからこそ感じたり、考えたりすることもあるのではないだろうか、と思い応募することにしました。 現代社会の中で、企業と個人の雇用関係は大きく変わり、同じフロアで働いていてもそれぞれの雇用形態は様々です。正社員もいれば臨時、パート、そして私たちのような派遣社員もいる中で仕事が進められます。きちんとした区切りがあればまだよいのですが、私がいるところはどこからどこまでが誰の仕事、といった区切りがなく、会計入力以外はそこにいる全員がカバーしあいながら、仕事を進めなければならないのです。同じような仕事内容なのに立場がそれぞれである為に、お互い牽制しあい「○○さんは正社員だから、私たちよりも待遇がいい。」とか「○○さんはパートだから責任がなくていいわね。」などといったように、皆の心がバラバラになっているような言葉を耳にします。そういったことが原因で仲間意識が希薄になり、その結果協力したり、団結したりする力が弱まり、意思の疎通が絶え、様々な連絡ミスや連携ミスが起こるような気がします。 先日このようなことがありました。全員が周知しなければならない事柄があり、職員の方が私たちや、パートの方全員に、説明をしていた時のことです。患者様に説明する為に、内容を理解し、さらにコンピューター操作をしなければならないという内容でした。その時あるパート職員のAさんが 「私には関係ないし、することがあっても他の人にしてもらうから、私は覚えない。」 と言うのです。私は 『みんなが知っていないと困ることなのに…。』 と思いましたが、Aさんは背を向けて聞こうとはしませんでした。正職員の方はその時何も言わず、他の方に説明を続けました。内容も聞かずに「私は関係ない」とは……。私はその時、なんて無責任な人だろうと驚きました。 家に帰ってから私は、なぜAさんがそんなことを言うのか、あの時どんな気持ちでそんな事を言ったのか考えてみました。Aさんは最近病院の都合で、臨時職員からパートに変わったばかりでした。しかし仕事の内容は変わらず、今までしてきた同じ事を短い時間でしなくてはならなくなったのでした。Aさんの「覚えない」は「これ以上できない」の意味だったのです。 臨時職員も、パート社員も、派遣社員も、正職員と同じくらいの仕事をさせ、責任を持たせ、業績が悪化すればすぐに人員整理をする。真っ先に整理される人員は、まさにAさんや私たちのような者なのです。そういった会社の態度や姿勢がAさんに一生懸命やろうとする気持ちや、協力し合う気持ちを薄れさせていったのではないでしょうか。仕事に対して、一生懸命に努力し、工夫してもそれを認めてくれる事もないし、すればするほど職員はどんどん仕事を任せてくる。「一生懸命やってもやらなくてもお給料は同じ、ならばしないほうがまし」と、Aさんはなげやりになっていたのです。Aさんのそんな気持ちをその時まで私は考えたことがありませんでした。パートになってお給料が下がってしまって大変だろうなぐらいにしか思っていなかったのです。 労働運動の中でもそんなことがおきているのではないでしょうか。私たち組合員は、立場が違う人の事は、大変さや不利なことはあまり見えず、いいところだけが見え、協力する気持ちや団結する気持ち、仲間意識が薄れていっているように思います。核家族が増え子供を育てながら仕事をするのは大変です。フルタイムで働ける人、パートの方が都合のいいと考える人、勤務形態はバラバラになっても気持ちはバラバラになってはいけないのだと思います。顔が見えなくても、会ったことがなくても、会社が違っても、職種が違っても、同じ労働者として皆同僚だということを忘れずに、自分の事のように考えてみることが大切なのだと思います。 皆がよりよく働けるように、よりよく暮らせるように、その為には立場を超えて、一人ひとりがお互いを理解し、協力し合い、よりよい会社に、よりよい社会になるように一致団結しなければいけないのではないでしょうか。 小さな団結が、だんだん大きな団結の輪になっていくことを願って。 |