私の提言 連合論文募集

第3回入賞論文集
佳作賞

福祉としての障がい者対策から働く仲間としての
障がい者対策へ

山口 正人(JAM・元ゼクセル労働組合・元執行委員)

はじめに

 今春、障害者雇用促進法が改定され、障害者自立支援法が施行される等、障がい者の雇用に対する環境が大きく変わりつつある。

 行政側も厚生労働大臣名で各団体へ障がい者雇用の促進を要請し、また前述の両法令に対する国会審議の中で出された付帯決議に対する委員会をいくつも立ち上げるなど、本腰を入れ始めている。

 このような環境の中で、障害者雇用を進める上で連合(労働組合)にぜひ果たしてほしいと感じていることを、以前単組の専従執行委員として福祉対策に携わり、現在は労働組合のない企業で企業内の障がい者雇用を推進する業務に携わる実務者の立場で述べてみたい。

障がい者雇用の実態

 企業は、障がい者雇用については法定の障害者雇用率(現行1.8%)を一つのめどとしてところが多い。雇用方法としては、通常の企業内での雇用と、障害者雇用を前提とした特例子会社を設立してその特例子会社の社員として雇用する2通りがある。特例子会社に関しては賛否両論様々な議論があるがここではその是非については論じない。ここ数年の間に、特例子会社の数は確実に増えており、障害者雇用のトレンドであり、今後も増えていくことは間違いない。

 ところが、多くの企業が障がい者雇用の推進に苦労している。昨年の障害者雇用率の全国平均は1.49%であり、前年より増加したとはいえ、まだ法定の障害者雇用率には達していない。

 特例子会社設立にあたっては、給与面を含め、就業規則を独自に策定していることがほとんどであり、親会社を含めたグループ内の企業とは異なる経営をしていることが多い。親会社は労働組合を組織していても特例子会社の社員は加入していない場合がほとんどであり、労働条件は特例子会社の経営者の判断で決められていると言っていい。

 経団連の中には特例子会社連絡会があり、そこで情報交換がおこなわれているようであるが、あくまでも経営者の立場での情報であり、従業員である障がい者が労働条件の向上について検討する機会はないのではないか。

 特例子会社で働く障がい者は、私の知る限り、他の特例子会社の労働条件を知る機会もなく、働く場所があるだけで感謝し、与えられた条件で与えられた仕事をおこなうだけで労働条件を向上させ、生活を向上させることなどあきらめているようである。仮に労働条件を向上させたいと思っていてもそれを実現させる方法も分からないのではないか。

 果たして彼らはそれで本当に満足しているのだろうか。

 確かに彼らは障害者年金を受け取っているが、それとても生計を立てるのに十分な額ではないし、特例子会社の給与を加えても一家の主として家族を養うには厳しいという声も聞いている。残念ながら特例子会社の条件をまとめた資料がないため、データとして示すことができず、聞くことができる限られた範囲での判断になるが、決してこれが例外ではないと思っている。

連合(労働組合)でなければできないこと

[1] 特例子会社の組織化

 特例子会社の経営者側は、財団法人日本経済団体連合会(経団連)を中心に、特例子会社連絡協議会を組織化し、特例子会社の経営や障がい者の雇用に関する法律等について研究をしている。

 経営者側から見た障がい者雇用の問題点に関しては、このような協議会で議論し、必要があれば行政へも問題提起ができるようになっている。

 しかしながら、特例子会社で働いている障がい者にはそのような組織はない。障がい者の主張というのは障がいの部位別の団体が中心であり、それぞれの団体も福祉の立場に立ち、個々の事情を主張することがほとんどである。働く者の立場で問題点を指摘し、それを解決するための機能はほとんどなく、働く障がい者が直接、就業の実態を主張することは皆無と言っていい。これでは、いつまで経っても働く障がい者の地位の向上は望めない。現在の働く女性の地位向上の取り組みも、組合員である女性が直接声を挙げて本人たちが動いているから現実的な内容で実現可能であったと思う。

 そこで、社会的に弱い立場にある働く障がい者自らが声を挙げられる環境を作り出すためにまず、特例子会社で働く障がい者の組織化をおこなうことである。特例子会社の経営者の中には労働組合の存在意義を認め、社員が何度か契約を更新した場合、親会社の労働組合に加入することを勧めているケースもある。これは特例子会社ではないが、「パート社員の労組入りを歓迎する経営側も過半数にのぼっている(2006年4月17日付日本経済新聞記事より)」という報告もあるように、労働組合の意義を認めている特例子会社の経営者も少なからずいるように接していて感じられる。

 特例子会社は社員50名前後の規模がほとんどであり、連合が格差是正に取り組んでいる中小企業そのものである。ただし、特例子会社のほとんどが、親会社(含むグループ企業)からのアウトソーシング的な業務が中心で経営も単独では赤字であることから賃金闘争は現実的ではないと思われる。

 組織的には現行の産業別では、今述べたとおり、アウトソーシング的な業務が多く、業種も多岐にわたっており、必ずしも親会社の業種に準じているわけではなく、無理に今の産業別に当てはめると矛盾が生じてしまう恐れがある。始めは中小企業という切り口で取り組むのが無難であろう。

 また、いきなり役員を担うのも負担が大きく敬遠される可能性があるので、準会員的な身分を検討する必要もあるのではないか。

 あと、親会社に労働組合がある場合はそこの理解と連携が重要であるのは言うまでもないことである。

 いずれにしろ、現在特例子会社で働いている障がい者の中には、以前は一般企業でバリバリに働いていた社員もいることから、そのような人に対して働きかけていくのが取り組みの第1歩になると思う。

[2] 障がい(主に知的障がい)のある子供のいる組合員への対応

 ここまでは、現在働いている障がい者への対応について述べてきたが、これから就業しようとしている障がい者への対応について提言をしたい。

 その一つとして、まず、障がい(主に知的障がい)のある子供のいる組合員への対応を考えてみたい。特に養護学校に通っている子供について多くの親はまだ、その子が企業で働くことを初めからあきらめて福祉施設で生活ができれば十分と思い込んでいるようである。ところが養護学校(進路担当の先生)によっては、企業に対して熱心に実習の依頼をし、一人でも多くの生徒に就職してもらいたいと奔走しているところもある。(「眠れる獅子の奮戦記」麻生孝子著 碧天舎参照)このような学校に入っていれば、就職の機会にも恵まれるが、残念ながらそうでないところもまだまだ多いように聞いている。

 そこでそのような親に対して、主に知的障がい者を中心に雇用している企業(特例子会社)の見学会を主催し、たとえ知的障がいであっても就職できる可能性があるということを認識できる機会を労働組合が作ることを提案したい。

 単組では情報、ネットワーク等に限界があり、またプライバシーの関係で応募しづらいこともあるため、やはり中央の連合または地方連合会が中心となり、加盟組織の中で特例子会社を持っている組織が協力し、養護学校等と連携をとり、広く募集することで、障がい者の雇用にも繋がるし、組合員に対してのサービスにも繋がると思う。

結びにかえて

 私が組合役員を退任して3年経つが、当時障がい者の対応は労福協が中心で企業に対して雇用の働きかけもしてきたが、どちらかというと、福祉施設との連携(バザーへの協力等)や疑似体験(車椅子や視覚障がい等)することで障がい者への環境を提言していくことなどが主であったように思う。現在は労働組合のない企業で働いているため、労働組合(連合)の動きについては新聞等のニュースか連合のホームページ等で知るしかないため、個々の項目の具体的な動きは把握しきれないが、障がい者の対応についてはあまり積極的ではないように感じられる。

 こと障がい者対応に関しては、官(厚生労働省)が力を入れていて、最近も障がい者雇用に関する委員会(研究会)がいくつか立ち上がっている。連合からもそれぞれ委員として参加しているようであるが、働く者の代表として実際に働く障がい者の声を反映させて存在感を示してほしい。

 私自身は人事部として企業内の障がい者雇用の推進に務めており立場上、一企業の障がい者雇用の推進でしか協力できないが、社会全体の推進ができるのは連合しかないと信じている。

 連合の力で真のバリアフリー社会、ノーマライゼーション社会を実現させてほしい。

以 上


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