私の提言 連合論文募集

第3回入賞論文集
優秀賞

情けは人のためならず・あなたの隣の労働者に声をかけよう

―非正規雇用労働者の組織化によせて―

高井 晃(全国ユニオン・事務局長)

はじめに

 「非正規労働者の組織化」について語る前に、まず、「非正規」労働者という用語それ自体について考えてみたい。連合では「非典型」という言葉を使っている。
 私が何度も交流した韓国非正規労働センターでも、この用語問題をめぐっては悩ましい議論があったという。「非○○」という言い方は差別的ではないのか、との議論もあったが、結局のところ差別的実態と格差の中に労働者がおかれている現実を考えれば、あえて「非正規雇用労働」と真正面から用語として使おう、この克服こそが社会全体の課題であり、なかんずく労働運動の一大課題なのだと、運動の観点から割り切り今日にいたったという。
 同センターはいまや「非正規労働」問題の一大オピニオンリーダーとなり、韓国の二大ナショナルセンターや各産別、単組に大きな影響力を持っている。それのみならず、55%をこえ、なおも非正規労働者化が進行している韓国にあって、非正規労働問題では政府ですらこのセンターを無視できない存在として韓国社会にその位置を占めている。
 結局は、『言葉』の問題というより、どんな運動をおこすか、に尽きるといえよう。ここでは「非正規雇用労働」という言葉を中心的に使用することとしたい。

1.「非正規労働」とはなにか

 ところで、非正規あるいは非典型、非正社員とは、いったいなんだろう。
 定義の基軸となるのは次の点である。[1]雇用関係が直接雇用かどうか〔雇用主〕[2]パーマネントな雇用か、期限付き雇用か〔雇用期限〕[3]フルタイマーか短時間雇用か〔労働時間〕。[4]「偽装雇用」におかれていないかどうか、この4点を全てクリアーしないものは「非正規雇用」と定義できる。

[1]雇用主は誰か
 まず、「雇用主が誰か」という点で大きく直接雇用と間接雇用〔三角雇用〕にわかれる。
 なお、一見「直接雇用」で「無期雇用」「フルタイム」の正社員であっても、偽装請負で違法な派遣状態にあり、発注先から指揮命令を受けている場合、はたして「非正規雇用労働」でないといいきれるのだろうか。やはり『非正規雇用』と定義すべきではないか。

[2]有期雇用か否か
 つぎに「雇用期限」有期雇用かどうかの区別がある。非正規雇用労働者のほとんどは期限付き雇用=有期雇用である。有期雇用の特徴は、「期限切れ」の雇い止めという形で雇用関係の切断=「解雇」が、容易に成立するところにある。
 つまり上記の二点は、労働者の「つまみ食い」と「使い捨て」が自由であるという、きわめて使い勝手のよい、使用者にとって有利な雇用システムである。85年に派遣法が成立し、派遣法体制ができていらい、中間搾取や労務供給を原則として禁じた近代的労使関係法の根本である直接雇用原則が崩されつつある。『偽装請負』の蔓延はそれを示すものだ。

[3]労働時間はどうか
 労働時間については、今後、非正規雇用の概念から外れていく可能性もある。というのは、日本では「パートタイマー」労働者は、本来の定義である「たんに労働時間が短い」働き方という建前を大きくはみ出して、「パートという身分」に転化している。そのはなはだしきものは「擬似パート」「呼称パート」「その他パート」と呼ばれるフルタイマーパート労働者の存在である。「パート」が身分をさす雇用形態のことである日本では、このように論理矛盾をきたしている概念が平気で、官庁にあっても使われている。ともあれ、今後、均等待遇などの実現とともに「短時間正社員」制度などが生まれれば、パート労働を「非正規」の枠に閉じ込めなければならないことはなくなる。たとえばオランダモデルのように、転換可能で均等待遇であれば、パートが「非正規」であるとする必要はなくなる。

2.非正規雇用労働者の実情

[1]三分の一こえる非正規労働者
 厚労省15年度調査によれば「非正社員労働者34.6%」となっている。
 派遣労働者は平成15年度事業報告によれば236万人とまたも増加している。パート労働者は1000万人をはるかにこえるにいたっている。女性の非正規率52%をこえている。
[2]短期的経営観の横行と労働者使い捨て
 使用者側の非正社員雇用の多用への傾斜はまだまだ続くと見なければならない。
 その動機は、ひとつには短期的企業経営観の蔓延である。「株主重視の経営」の意味するものは、企業実績を短期的に判断し、雇用と熟練技術の企業内での蓄積を切り捨てることであった。「リストラをすれば株価が上がる」こうした逆立ちした状態が続いている。
 そしてこの経営観は、雇用については、即戦力重視、つまみ食いし使い捨てできる労働力を大量に必要とした。95年日経連の「新時代の日本的経営」路線は労働者を三つのタイプ、いや三つの身分に分けた。いわく「長期能力活用型」「専門能力活用型」「雇用柔軟型」である。「幹部社員」「専門契約社員」「パート・派遣・バイト」というわけである。
 これを法的追認すべく際限なき規制緩和の労働法規の改悪が続いている。

[3]社会の二極化
 こうした日本型雇用の解体は、すさまじい社会の二極化と不安定化をもたらしている。
 約35%を占めている非正規雇用労働者の特徴は、不安定化と低賃金化に象徴される。
 日本型雇用は解体され、労働者は二極化している。ほんの一部の「勝ち組」セレブと非正規雇用労働者である。後者は、低賃金、不安定な「細切れ雇用」〔じっさい、最近の登録型派遣労働者の雇用契約期間は2ヶ月ていど、一ヵ月ごとの契約というのもある〕にさらされている。最近では「日雇い派遣」まで横行している。携帯電話やメールで前日に呼び出され就労する、首都圏でも1日7000円前後というのが実情のようだ。
 非正規労働者の増加は、結果として年金などの社会保障から脱落させられる労働者を大量に発生させ、さらに低賃金は税収入も低下させていくこととなる。社会の基礎が成立しなくなっていく。二極化・格差社会は将来にわたって日本社会を蝕んでいくこととなる。

[4]低下する労組組織率と「低位平準化」攻撃
 労働組合の組織率低下がいわれて久しいが、非正社員の増加もその大きな要因である。「正社員の会員制クラブ」であった多くの企業別組合は、増加する非正社員労働者に対して、自らの組合への加入を実現しないできた。こうして、低落傾向にある労働組合の組織率はますます低下する一方で、ついに18.7%を数えた。
 いいかえると、未組織で不安定な状態に置かれている80%強の労働者が「スタンダード」になっており、労働組合に加入している労働者が圧倒的少数派になっているということなのである。使用者側は、労働組合に加入し労働条件をそれなりに確保している労働者が例外で、特権的であるとの主張を強めてくる。公務員への攻撃もその一環である。そして、こうした低位平準化の攻撃は、いまのままではますます強まるだけであろう。これに対して、後に述べるような全体水準の底上げが緊急の課題として問われている。日本社会全体が「持続可能な共生社会」として存在するために、欠かせないテーマである。

3.非正規雇用労働者の特徴

[1]若年者雇用の問題
 さらに、若年層の非正規化は、自分の将来が描けない、希望が持てないという問題に逢着している。山田昌弘教授は現在の社会の二極化とリスク化を「希望格差社会」となづけた。人生への「希望」を持つこと事態に格差が生まれ、少年期の当初から「絶望」しか育むことができない階層が大量に生まれている社会。問題視されている「フリーター問題」「ニート問題」も、根本にはこのような雇用の二極化、格差社会の進行という問題がある。
 フリーター問題は当初はバブル期ともかさなり、若者のモラトリアムと「自分探し」という文脈で語られていた。今日の問題点はそのようなものではない。安定した雇用と労働条件を求めても、非正規・非正社員という「谷底」に落ちたものは、容易に「正社員」の尾根にはよじ登れない構造である。フリーター・バイトや派遣の職歴は、履歴書の上の職歴としては評価されていないし、なにより、正社員募集そのものが圧倒的に減少している。かくしてフリーター層は、希望が見えず将来設計が経たず、結婚や家族形成に踏み込めない。こうして、少子化のデフレスパイラルとでもいうべき悪循環に入っていく。
 「ニート」問題にいたっては、日本特有といわれる社会的引きこもり問題と混在され、日本のパイプラインシステムと呼ばれた教育システムの崩壊とも関連している深刻な社会問題と化している。しかし「やる気のない若者」呼ばわりの危険な差別的風潮には警戒が必要である。安易に「ニート」というべきではない。「大人たち」は知らねばならない。劣悪な労働環境が、若者たちの雇用への希望を閉ざしているということを。

[2]雇用のジェンダーバイアス
 雇用のジェンダーバイアス〔女性労働の非正規化〕もまた深刻である。先ほどの厚労省統計では女性労働者の52%が非正規雇用労働者である事実が浮き彫りになっている。
 高度成長期に、労働力不足の解消と世帯収入の増加として拡大していった女性のパート労働は、サービス業などでは基幹労働力とされつつも、圧倒的な低賃金労働層とされている。均等待遇立法は遅々としてすすまず、仕事は一人前・賃金は半人前という状態が続いている。私の所属する全国ユニオンは「誰でもどこでも時間給1200円以上」というスローガンを掲げ春闘を闘っている。「時給1200円は高い」という声もあるが、果たしてそうか。パート労働者が時給1200円で2000時間働くとして〔パートが年間2000時間労働というのはそれ自体、定義の矛盾だが、あえていう〕年収240万円である。月に直せば20万円、労働者が個人として自立して生活するにはぎりぎりの水準である。
 また、85年の派遣法導入時に懸念したとおりに、「悪貨は良貨を駆逐」している。女性の非正規化は急激に進み、女性の事務職は急激にパート・派遣に置き換えられていった。
 今日、求人広告などを見れば歴然としているように、女性の雇用について言えば、新規募集は圧倒的に非正規雇用型であり、8割を超えているという説もある。

4.企業別労働組合と非正規雇用労働者

[1]企業別労働組合の組織原理と非正規労働者
 日本の労働組合はほとんどが企業別労働組合として組織されている。企業別組合の組織は、その規約上「正社員」を構成員として、そのうえに「ユニオンショップ」と「チェックオフ」によって成り立っていることが多い。そうした企業別労働組合からすれば、非正社員・非正規雇用労働者の位置づけ、そのなかでも「派遣」「請負」「外注」など社外労働者の位置づけはなかなかに難しい。さらに、他企業の労働者が別企業の労働組合に加入するか、という問題点もある。
 06春闘において全労金労働組合は「労金職場で働くすべての労働者〔パート・契約・派遣も含めて〕の企業内最低賃金協定」を締結するという画期的な成果を挙げた。こうした先進的な取り組みがすすめば非正規労働者の労働組合への結集もすすんでいくだろう。

[2]「情けは人のためならず」
 さて、よくいわれている言葉で「非正社員は正社員雇用の安全弁」か、という問題である。本当にそうなのか。構造の奥底で考える必要がある。
 「景気回復」にもかかわらず労働分配率は一貫して減少している。これは、結論的には、パイの取り合いではなく、分断され、それぞれが締め付けられ押さえつけられていることを意味している。全体的な賃金の底上げがないままでいくと、正社員の賃金が高いと「低位平準化」を経営者は主張し、そこに焦点を当てた攻撃が展開されることとなる。「逆均等」「低位平準化」攻撃といってもいい。労働組合は、原点に返って、雇用形態の壁を超えて、「隣で働く労働者」との連帯と団結の運動を強め、彼らの労働条件の底上げ、均等待遇をすすめる必要があるのだ。まさに「情けは人のためならず」である。

5.非正規雇用労働者にかかわる雇用と労働法・労働政策

 非正規雇用労働者が自らを労働組合に組織し、主体的に労働条件の改善と地位の向上を実現しようとするときに、立ちはだかるいくつかの壁がある。

[1]使用者概念の再構築と「労働者」概念の再確立
 まず、第一に、「使用者責任、雇用責任の再構築」が必要であるということだ。
 雇用責任をまぬがれて労働者を使用するという「派遣法」の存在や、偽装請負・違法派遣状態が拡大している今日、使用者としての雇用責任を明確にし再定義する必要が生じている。違反や脱法行為があったとき「使用主」の雇用責任を自動的に義務付ける「みなし雇用」規定の法的確立が必要である。
 全国ユニオンは、派遣労働者の派遣先への直接雇用をすすめたきた。キヤノンへの直接雇用の実現などであるが、日本経団連、規制改革会議などは派遣法改悪=派遣期間制限撤廃の声をますます大きくしている。直接雇用の芽そのものを摘み取ろうというのだ。
 派遣先にさまざまな使用者責任を課すことは雇用の安定のためには避けて通れない大きな道である。そうでなければ、派遣先の無責任な使い捨て構造は企業のモラルハザードさえ生み出しかねないし、なにより派遣労働者の不安定さ、雇用不安は高まるばかりである。
 また、労働者を「個人事業主」化して雇用責任をまぬがれ、労基法適用から逃亡し、労働社会保険の義務も放棄している事態が発生している。こうした「偽装雇用」の手法は、コンピュータソフト関連や出版関係などで横行している。介護関係では、一部の使用者は呼び出し雇用型〔オンコールワーカー〕のような、仕事が発生したときにだけ「呼び出す」形態を個人事業主と称している。このような「偽装雇用」が一段とはびこる危険がある。
 本年6月のILO総会は持ち越されていた偽装雇用とコントラクトワーカー問題、労働者性の問題について一定の決着をつけた。「雇用関係に関する勧告」がそれであり、「偽装された雇用」に対して労働者性の基準を明確に示したものといえよう。これには、労側委員だけでなく日本の政府代表も賛成した。これを活用することが問われている。

[2]「魔法の剣」有期雇用の禁止を
 第二に、「合理性なき有期雇用の法的禁止」を実現しなければならない。
 非正規雇用労働者が組合を作り要求実現にたちあがったときに、真っ先に逢着する困難が有期雇用による「雇い止め」解雇攻撃である。結局のところ、持続した雇用関係の実現なしには賃金・労働条件の維持向上、積み上げは実現できない。有期雇用の乱用は、まさに使用者にとって勝手気ままに雇用関係を断ち切ることのできる快刀乱麻の「魔法の剣」となる。有期雇用問題で、何よりも問われているのは「入り口規制」である。少なくともドイツ法が規定しているような「合理的理由のない有期雇用は禁止」という立法措置の実現である。有期雇用規制が機能してはじめて職場での均等待遇の実現も持続する。

[3]均等待遇の実現
 第三に、「均等待遇立法の実現」である。賃金、労働条件の均等待遇の実現、男女平等の立法化の課題である。先ほどから見てきたように非正規労働問題として現れている「雇用労働条件のジェンダーバイアス」の解消のためには、徹底した間接差別の禁止が求められている。いうまでもなく、均等待遇は比例原則によって短時間労働者などにも適用されるのは当然だが、単純な量的比例ではすまない質的な均等待遇の実現に留意する必要がある。ディーセントワークの観点からする人間としての尊厳を確保した働き方の実現である。

[4]非正規差別の典型である産休・育児休業取得の権利剥奪
 第四に、非正規、有期雇用労働者の産休・育休・介護休業の取得権利の保障である。
 有期雇用であることを理由として、産休や育児休業などの権利さえ非正規の女性労働者たちは行使できないのが現実である。つまり、産休期間中に「雇い止め」「期限切れ」となる、あるいは妊娠がわかったとたんに「次の契約はありません」と告げられる派遣労働者のケースなど、まさにこれは、社会的に仕組まれた差別以外の何物でもない。

[5]全体の底上げを、まず公務関連の職場から
 第五に、リビングウェッジ運動〔公契約条例運動、生活賃金条例制定運動〕や最賃闘争の強化などの全体水準底上げ運動の推進である。二極分化の進行の中で、こうした運動の重要性はいうまでもない。低位平準化ではなく、全体水準の底上げの実現、そしてそれを阻む規制緩和攻撃、競争入札万能の指定管理者制度導入との闘いである。
 現在の日本の自治体周辺のように、その足元でまさに「ダンピング合戦」がおこなわれている現実に対して労働運動全体の問題としての取り組みが必要だ。

6.非正規雇用労働者の組織化への挑戦

[1]非正規労働者の「要求」はなにかをつかみとる
 先ほどからみてきたように、非正規雇用労働者がおかれている不安定化、低賃金・労働条件、差別的状況をどのように労働運動が克服できるのか、その展望を示し具体的に実現できるのか。すなわち「有期雇用」からくる不安定さをどう克服できるか。「均等」ならざる労働条件をどう向上させられるか。ここへの回答なしに、組合への組織化はない。

[2]組織化のいくつかの類型
(1)職能結集での組織化
 コンピュータ関係や、ヘルスケアワーカーなどは職能的な団結形成によって労働条件の維持向上が見えてくる。したがって「クラフトユニオン」型などの個人加盟も含んだ職能組合が考えられる。さらに、職能研修機能、それに加えて労働組合による供給・派遣事業の展開も可能となる。たとえば東京ユニオンの労供・派遣事業がそれである。ヘルパーなどの場合、地域に密着しながら労働組合が企業組合も立ち上げ、介護事業所を設立し、高労働条件を維持している田園調布介護家政職ユニオンのような実践もある。
 「クラフトユニオン+職能形成+共済+労組による供給・派遣事業」という構図である。
(2)地域を受け皿とする組織化
 地場中小などに働くパートの場合、むしろ「地域を職場とする」つまり短い通勤時間で就労を選択する労働者が多数存在する。こうした場合、地域のコミュニティユニオンなどを「よりどころ」とするワンストップサービス型が展望できる。さらに共済事業、法律相談、各種のNPO活動などをおこない地域の活性化をもめざす。
(3)組合規約の改定→非正規労働者の組合員化〔企業別組合による〕
 正社員のみの組合であっても、規約改正によってパート・契約社員の組合加入が実現できる場合もある。問題はあげて「正社員労働者」の側のやるきと本気度にある。
(4)産業別組合によるユニオンショップ協約締結による組織化
 業界全体を展望して、いわば「上から」ユニオンショップとチェックオフの網をかける方法も一部で取られている。この場合、中央交渉だけでなく、現場の組合員の要求をどう吸い上げるパイプをつくるか、ここが課題として問われる。

7.派遣労働をめぐるとりくみ-非正規労働の取り組みの一例として

[1]派遣法成立その後と派遣トラブルホットライン
 派遣法制定に対する反対運動があったが、派遣法が施行されたのち労働運動側の目だった取り組みはなかった。私は「華々しく反対運動はやるが、その後はお構いなし。悪法といえども法は法、人々はそのしばりの下で生きていくのだから、労働運動は持続する志と取り組みが大切なのだ」と自戒した。1991年6月3日から4日間、首都圏4箇所で日本初の「派遣トラブルホットライン」を開催した。192人からの悲鳴のような相談が寄せられた。ホットラインの結果は新聞各社でも大々的に報じられた。

[2]行政と業界を動かす
 労働省との交渉を行った。それまでの行政のスタンスは、派遣労働スタッフ・派遣元・派遣先みんながハッピーで、ウィン・ウィン・ウィンの関係という、おめでたい認識だった。派遣トラブルホットラインが浮き彫りにした現実は、これを覆す衝撃的なものだった。多発する中途解約と、そして履歴書垂れ流しファックス事案は、派遣システムの現実を浮き彫りにした。「派遣先職場へ行ったら私の履歴書がファックスされ、そこいらに転がされていた」という人権侵害と差別の象徴的事案が何件ももちこまれた。ここを画期として、労働省は「派遣労働には問題点がある」と認識せざるを得なくなり、あわてて同年10月には予算措置もないまま「全国派遣相談」として全国10の職安で「相談受付」をおこなった。翌年から全国的に開催されることとなっていく。また派遣労働の実態調査もようやく本格的に開始されることとなった。さらには業界横断的な水準形成のために、「派遣春闘」として全国ユニオン・派遣労働ネットワークと〔社〕日本人材派遣協会との間で派遣業と派遣労働をめぐって公開交渉が開催されている。

[3]労働NPOの活動
 それいらい、毎年1回から2回、派遣トラブルホットラインが全国的に展開されている。その中核を担ったのが、派遣労働に関心を寄せる法律家、労働者、研究者、労働組合などで組織する「派遣労働ネットワーク」である。ホットライン活動は、その後も続き、2005年6月には第18回派遣トラブルホットラインが開催され札幌から福岡まで7つの相談窓口が開かれた。またインターネットを活用した「派遣スタッフアンケート」も4回をかぞえ、働く側から見た派遣労働の実態、時間給が下落し続け「細切れ契約」化を明らかにした。
 不安定かつ流動的な派遣労働者の組織化および社会的問題提起の方法のひとつとして、このようなNPO型運動は有効である。

あなたの隣の労働者に、まず声をかけてみよう

 いずれにせよ、非正規労働者の組織化というテーマに近道はない。情けは人のためならず。あなたの隣の労働者に声をかけよう。仲間づくり、組織化はここから始まる。


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