私の提言 連合論文募集


第2回応募論文 講評

第2回論文募集運営委員会
委員長 草野 忠義

 「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を連合が継承し、昨年その第1回を実施した「連合運動への提言」論文に、今回は12編の応募をいただいた。
連合運動の今後に生かすことのできる具体的な体験や提言という募集内容で、職域・地域の現場の組合役職員やOB、また一般の方から、この内容に沿った論文を募集した結果である。12編のうち4編が、労働運動未経験ないし組合関係者以外の、一般の方からの応募であった。

 運営委員会には、まず各委員が事前の個別の審査結果を持ち寄ったが、今回も「優秀」と「佳作」とに全員一致というものはなく、各委員が一人ずつ自分の選考基準や視点、感想を述べあい、論文ごとに検討を重ねたすえに、選んだ次第である。

 優秀賞の太田論文「型破りの事業展開を!」は、自身が所属する新運転という“型破りな”組合を紹介しつつ、「連合が変わる」ために労働運動の枠を越えた社会的な連帯と事業展開を求めた力作である。地域重視やNPOとの連携を掲げる連合の方針に合致することも評価された点だ。ただし、理想論的すぎる面があるなどの意見もあった。

 優秀賞の小畑論文「『仮装自営業者』の撲滅に向けて」は、市場万能主義の典型的な弊害に立ち向かう姿を描いており、過酷な現実を是正する取り組みの重要性を広く読者に訴えた点が評価された。論文の質には関係ないが、過去の事例における単組との関係を含めた産別の対応に疑問を呈する意見もあった。

 佳作賞の金田論文「『新・共同体主義』を掲げて」は、現状の問題点を鋭く指摘し労働運動の原点を情熱的に訴える姿勢が評価された。一方で、ある年代より下の若い人達にはやや理解しにくいだろうという意見もあった。

 佳作賞の千頭論文「断ち切ろう『不払い残業』」は、現在の最も重要な課題に焦点をあて、論理も明確であることから優秀賞の候補の一つであった。ただもう少し掘り下げ、大企業・大労組のみならず、中小企業・組合への言及が欲しかった。

 佳作賞の牧瀬論文「インターンシップの拡充がわが国の経済を救う」は、労働運動未経験の方からの論文であるが、フリーター、ニート問題に対し労働運動としての取り組むべき角度を的確に捉えている点が評価された。

 論文集の発行にあたっては、今回も優秀、佳作に入賞した論文を掲載した。ぜひ多くの皆さんにご一読いただきたい。冒頭でも触れたが、12の応募論文中、4つが大学生を含む一般の方々からの応募であったことに感謝申し上げたい。惜しくも入賞されなかった方には、今後のますますのご研鑽を期待する。


寸評

東京大学 社会科学研究所 教授 中村 圭介

 労働組合の活性化。大切だよなあ、否定できないよなあ。けど、正直いって、かけ声だけで、ちっとも活性化したように見えないのは何故だ?努力が足りない?知恵が足りない?いったいどうすればいいんだ。日々の組合活動に地道に取り組むみなさんからこうした声が聞こえてきそうだ。みなさんと同じように苦労している仲間たちがいる。この報告書に目をとおし、まずは文書の上で経験交流をしてみてはどうだろう。
残業規制に妙案はない。ただただ愚直に時間管理の合理化、適正化を管理者に迫り、組合員の納得を得ていく以外にはない。あっと驚くような解決策などはなく、その愚直さだけが頼りなのだ。千頭論文はそのことを教えてくれる。運輸業界ではとんでもない理不尽なことが起こっている。小畑論文によれば、労働者がいつのまにか自営業者に変えられ、賃金カット、雇用不安におびやかされる。なんたることだ。僕は、この論文を読んで「頭にきた」。組合も懸命に労働者を支援するが、残念ながら後追いで、これぞという解決策を打てていない。なんとかならないのだろうか。残業、疑似自営業者化といった現場の労働者が抱える難題をひとつひとつ解決していかなければ、組合の活性化などはかけ声に終わる。みんなで知恵をだし、ひたむきに運動を進めていこうではないか。
他方で、太田論文が主張するように「型破りな事業展開」をしてみるのもよいかもしれない。NGOとの積極的な交流が、活性化のきっかけになるかもしれないではないか。ああでもない、こうでもないと「やらなくてすむ」理屈をこねるよりも、まずは行動だ。こう考えるのもよいではないか。NPO側からの組合への熱い期待もある。NPO法人の理事である牧瀬氏の論文がそれである。惜しくも選にはもれたけれど、広島の大学2年生、上熊ちはるさんからも論文が出された。組合も捨てたもんではないではないか。若い芽が育てば、連合の未来にも明るい光が注ぐ。


寸評

日本女子大学 人間社会学部 教授 大沢 真知子

 前回に続き今年も、連合運動への提言に募集された12編の論文を読ませていただいた。現役の大学生からすでに退職されてフリーで講演活動や執筆活動をされている年配の方まで、幅広い年齢層の方からの投稿があった。また、実際に組合活動をした実体験を踏まえての提言だけではなく、学生や運動歴のない、いわば外からの応募があったことも新しい変化であった。インターネット上でも論文募集をしたことの効果であろう。
社会全体が国際化という荒波に突然投げ込まれ、自力で泳ぎきれといわれているいま、これほど労働組合の存在が求められている時代はないのではないだろうか。しかも、労働者の多くは、非正社員という形で簡単には組合の助けが求められないところにいる。
今回、応募のあった論文には、この問題をさまざまな角度から扱ったものが多かった。たとえば、『「仮装自営業」の撲滅に向けて』では、運輸産業において広がりを見せている偽装請負や仮装自営の実態をレポートしている。また、「型破りの事業展開を」は、「比較的恵まれている労働者を組織している企業別労働組合」が、その型を破り、新しい事業展開に向けて挑戦すべき時代がきていることを指摘している。その上で、非典型労働者とともに、NGOやNPOとの新たな連携によって、新しい「RE-NGO」を組織し、企業に頼らない組合主導の事業展開をしていくことを提言している。
たしかに90年代の日本社会のもうひとつの大きな変化は、NGOやNPOなど、市民による草の根の運動が広がったことである。NGOやNPOとのパートナーシップによって組合の存在意義を高め、その活動範囲を広げていってはどうかという提案を、興味深く読んだ。
最後になるが、今回はじめて大学生からの投稿(「企業は社会的活動に利益を豊かに求めよ」)があった。組合運動に対しての直接の提言ではないものの、企業の社会性の追求が企業価値を高める時代になったことを論じているもので、新しい感性に出会い、新鮮なおもいで読んだことを付け加えておきたい。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回、労働運動の経験の無い人の応募が4点ありました。しかも、一人は、大学2年生でした。内容は、ともかくとして、こういうふうに労働運動を経験したことが無い人でも関心を持ってくれるきっかけになっていることにこの提言論文公募の意味があったと思います。 
わたしも、単組と仕事をして行く中で、労働組合に興味を持っただけで、実際に労働運動の経験はありません。労働問題を扱っている大学の先生でも、労働運動をやったことの無い人もたくさんいるはずです。けれど、興味を持つということが、とっても大切だと感じています。知らないから素直に提言できることもあります。しかも、論文の公募という形で提言できる機会があることは、素敵です。来年は、これを機会に、「労働運動してなくても気楽に提言できるんだ」と、もっといろんな人が思ってくれるといいと思いました。
優秀作は、比較的すんなりと決まりました。わたしとしては、もっと具体的な提案があったほうが、もっと良いと思ったのですが、連合として、大切な問題を取り上げているということで、小畑さんの論文が、元気になる提言ということで太田さんの論文が、それぞれ優秀作に選ばれました。
佳作は、結構選者の意見が分かれたように感じます。金田さんの論文は、労働運動経験者の方々は、「イデオロギーを感じる」と、押されました。が、わたしは、正直、「そんな理想論を述べられても・・・」と、いう感じでした。世代の違いを感じさせられた論文でした。
全体的に具体案の提言が少なかったように思いました。やはり、これからの時代、「もっと、こうするべき」と、「そのために何をしなければならないか」という具体的な提言が必要だと感じました。次回のみなさんの応募も楽しみにしています。


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