私の提言 連合論文募集

第2回入賞論文集
佳作賞

インターンシップの拡充がわが国の経済を救う

―ニートとフリーターをなくすための一処方箋―

牧瀬 稔(NPO法人まち研究工房・理事)

1.本論文の目的

 わが国は先進国の中でも、人口減少のスピードがとくに速い。人口減少は労働力人口の減少を必然的に伴う。その結果、社会保障制度の破綻や地域活力の低下が予測されている。また緊急の課題として、経済停滞の懸念もある。

 労働力人口の減少を食い止める手段として、様々な方策の展開がある。例えば、国は高齢者雇用安定法を改正した。同法は、65歳まで働くことができる環境整備を企業に義務づけている。*1しかしながら、労働市場に参入してくる新しい労働人口(とくに15歳以下の年少人口を含む若年人口)が趨勢的に減少しているため、焼け石に水の感がある。さらに近年では、労働市場に入りたがらない層が拡大している。それは「ニート」や「フリーター」と呼ばれている層である。*2

 これらの次代を担っていく層が労働市場に参加しないことには、連合運動の衰退にもつながる。そこで本論文では、ニートやフリーターを食い止める手段について考察し、若年人口をニートやフリーターにさせないための方法を提案する。

 さて、本論文の性格を明確にしておきたい。社会科学の論文のアウトプットとして次の3点がある。*3第1に政策的研究であり、第2に理論的研究であり、第3に現実の解釈論である。その中で本論文は、第1の政策的な展開へ知見を提供することが目的であり、本論文の性格は提言論文となる。

 なお、ここで指す第1の政策研究とは、現実を未来に向かって課題を設定し、解決策を考えだすことに重点がおかれる。すなわち、本論文における政策研究とは実効性と未来予測性に軸足がおかれる政策開発の営みである。*4

 本論文は、若年人口のニートやフリーターの防止策等について提言することを目的としている。その具体的提言の前に、次章では、これらの現状と将来予測について言及する。

2.ニートとフリーターの現状と将来予測

 先日、厚生労働省からニートとフリーターの数字が発表された。2004年における15歳から34歳で定職を持たないフリーターは213万人であり、同世代で通学も就職の意欲もないニートは64万人となっている。図1がニートの推移であり、図2がフリーターの推移である。何れの図からも、趨勢的に拡大してきたことが理解できる。

図1 ニートの推移

図1 ニートの推移

図2 フリーターの推移*5

図2 フリーターの推移

 次にそれぞれの将来予測について概観する。ニートの将来人口推計は株式会社第一生命経済研究所が試算している(図3)。同研究所によると、2000年のニート人口を約75万人(15歳~34歳人口の2.2%)と算出し、15年に約109万人(同4.1%)に達するとしている。そして20年後には約120万人(同4.8%)になるとしている。さらにニートの生涯賃金は標準労働者より低いため、同研究所は2000年~2005年の潜在経済成長率を0.25%下げるという試算も発表している。

図3 ニートの将来予測

図3 ニートの将来予測

 一方、株式会社UFJ総合研究所はフリーターの将来人口推計を算出している(図4)。同研究所の研究よると、2020年にかけて労働市場の需給ギャップが縮小に向かうため失業者は徐々に減少してくるが、正社員以外の雇用が一段と拡大してくるため、フリーター人口は2010年に476万人とピークになるとしている。

図4 フリーター将来予測

図4 フリーター将来予測

 その後は、経済成長の持続、若年人口の減少などにより労働需給の逼迫が予想され、フリーター人口は2020年には444万人に落ちつくとしている。しかしながら、正社員以外の雇用は拡大基調がつづくため高水準で推移し、若年人口に占めるフリーター比率は2020年には30.6%に上昇する見込としている。

 これらの調査研究の結果からわかることは、労働市場に入りたがらない層が今まで増加してきたことであり、これからも拡大していくことが理解される。そしてこのことが、連合運動の衰退につながることは間違いない。

 今日、この問題を解決する手段は多々あるが、筆者は「インターンシップ」という処方箋を提案したい。筆者は、このインターンシップの拡充が連合運動の衰退を防ぎ、わが国の経済も再活性化すると考えている。そこで次章では、このインターンシップについて紹介し、インターンシップの拡大の必要性を提言していく。

3.インターンシップを拡大する必要性

 世界的にみればインターンシップの歴史は古い。しかしながら、わが国において、展開されているインターンシップの起源を探ると、1997年に文部省、通商産業省、労働省(何れも当時)による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」にたどり着く。この基本的考え方が発表されたことにより、わが国においてインターンシプが注目を集めることとなった。

 今日においてインターンシップとは、「一般的には、学生が企業等において実習・研修的な就業体験をする制度のこと」と、上述の基本的な考え方の中に明記されている。また同年に発表された「経済構造の変革と創造のための行動計画」には、インターンシップを「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行なうこと」として幅広く定義している。

 1997年から8年が経過し、インターンシップのよい効果が少しずつ明らかになりつつある。例えば、学生に対する教育の改善と充実、学生の学習意欲の喚起、高い職業意識の育成、自主性・独創性・柔軟性のある人材の育成などが指摘されている。また新卒学生の雇用のミスマッチを事前に防ぐことや、起業家を輩出する手段として捉えられる場合もある。

 さらに高度人材を育成する意味合いとしてインターンシップが採用されることもある。そして昨今では、社会問題となりつつあるニートやフリーター対策についても効果があると指摘されつつある。

 このインターンシップを採用する大学等は右肩上がりで拡大している(図5)。また紙面におけるインターンシップという言葉の登場回数も急激に上昇してきた。このことから、今日では、わが国においてインターンシップは市民権を得たと理解される(図6)。

図5 インターンシップの実施率の推移

図5 インターンシップの実施率の推移

図6 紙面にみる「インターンシップ」という語句の登場回数の推移

図6 紙面にみる「インターンシップ」という語句の登場回数の推移

 インターンシップを体験した学生は、社会との接点を学生のうちに獲得し、積極的に社会に関わっていく傾向がみられる。そのためニートやフリーターとなることも少ないようである。このようにインターンシップのメリットは枚挙に暇がない。図5と図6からインターンシップが順風満帆に展開されているようであるが、必ずしもそうではない。インターンシップを進めていく当事者(とくに大学等の担当部局)は多くの問題を抱えているようである。

 筆者はNPO法人産学連携教育日本フォーラムと協力して、全国の高等専門学校、短期大学、大学等を対象としたインターンシップの質的状況を問うアンケート調査を行った。*6このアンケート調査の結果は、同法人から発行される『インターンシップ(産学連携教育)白書』を参照していただきたいが、その中に、大学のインターンシップ担当部局が企業に要望する設問がある(図7)。この図7から、連合運動等のこれからの一つの役割を垣間みることができる。

図7 インターンシップを進めるうえで企業に対する要望

図7 インターンシップを進めるうえで企業に対する要望

 図7をみると、「インターンシップの受入拡大」と「インターンシップの意義の理解」で71.7%を占めている。この結果から考察できることは、インターンシップは市民権を得ているのにも関わらず、企業が積極的でないことを意味している。この点を連合運動が率先して、改善できないだろうか。本論文において、筆者はインターンシップのメリットは上述した。そのメリットの一つにニートやフリーターの防止があることも指摘し、それが連合運動の再活性化にもつながる可能性があると主張した。それならば、積極的に連合運動がインターンシップの学生を受け入れていくことが社会への還元となり、筆者の提言でもある。

 かつて松下幸之助は、「人、金、土地、物、つまり企業の活動に必要なもろもろの要素はすべて本来は天下のもの、公のものであり、そういう社会のものを社会から預かって仕事をしている企業自体、やはりこれは社会のもの、公器であると言えます」と残し、企業は社会の公器であると残している。*7その視点に立つのならば、インターンシップの拡充に一役になうことも連合運動の重要な責務と考える。

4.おわりに:ニートとフリーターの縮小を目指して

 本論文は、次の流れで記してきた。まず問題の所在を明確にし、本論文の性格を提言論文と位置づけた。とくにニートやフリーターという次代を担っていく層が労働市場に参加しないことには、連合運動の衰退にもつながると指摘した(第1章)。第2章では、ニートとフリーターの現状と将来予測を記した。繰り返すが、これらを克服しないことには、連合運動の活性化もなく、わが国の経済や社会を衰退させると指摘した。

 そして第3章では、一つの処方箋としてインターンシップを提案した。このインターンシップがニートやフリーターの防止策となると、筆者は考えている。そこで連合運動をはじめ、わが国の企業等が率先してインターンシップを拡充していく必要性を記した。なお、このインターンシップはニートやフリーターをなくすための処方箋であり、特効薬ではない点に注意が必要である。インターンシップをはじめ様々な処方箋を組み合わせることにより、ニートやフリーターが縮小していくと考える(ニートやフリーターをなくす特効薬はないと筆者は考えている)。

 本論文を終えるにあたり、最後に、飯田経夫の次の言葉を紹介したい。それは、「一般に『提言』というものは、『政策当局はとうていここまでやれないだろう』との前提に立つことが多く、そこにこそ『提言』の存在理由があるとさえいえよう」である。*8本論文は提言論文である。そこで飯田がいうように、意識的に強い表現を用いて記してきた。本論文を契機として、インターンシップが拡充し、ニートやフリーター層の縮小につながることを願う。

*1同法により、雇用を延長する年齢は、2006年度から62歳までとなり、段階的に引き上げることとなった。そして最終的には2013年度に65歳までの雇用が義務づけられる。そこで、定年が65歳未満の企業は、①定年を65歳まで引き上げる、②60歳で定年を迎えた後、65歳までの継続雇用制度を導入する、③定年制の廃止のいずれかを選択しなければならない。
*2厳密にいうと、ニートもフリーターは労働市場を構成している。しかしながら、本論文では、労働市場を構成していない層として捉えている。
*3伊丹敬之(2001)『創造的論文の書き方』有斐閣、226頁~229頁
*4公共政策における「政策研究」の定義について言及しておきたい。この政策研究には、次の2とおりある。第1に行政学からのアプローチであり、それは政策過程に重きがおかれる。つまり特定政策を事後的・実証的・分析的に研究するものである。第2に本論文で記したものであり、現実を未来に向かって課題設定し解決策を考えだすことに重点がおかれている。そしてこれは自治体学の視点である(松下圭一(1991)『政策型思考と政治』東大出版会、137頁)。
*5厚生労働省と内閣府のフリーターの定義は次のとおりである。厚生労働省は「年齢は15歳~34歳と限定し、(1)現在就業している者については勤め先における呼称が『アルバイト』または『パート』である雇用者で、男性については継続就業年数が1年~5年未満の者、女性については未婚で仕事を主にしている者とし、(2)現在無業の者については家事も通学もしておらず『アルバイト・パート』の仕事を希望する者」という定義である。
内閣府は、「15歳~34歳の若年(ただし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意志のある無職の人」という定義である。
*6調査時期は2004年12月~2005年1月である。未回収の大学等に対し、再度、アンケート調査を依頼した。また調査方法は、大学等のインターンシップ担当者にアンケート調査を郵送にてお願いし、その後、郵送及び電子メールにて回収した。
詳細は、『インターンシップ(産学連携教育)白書』を参照されたい。なお、NPO法人産学連携教育日本フォーラムのURLは次のとおりである。http://www.npowil.org/index.html
*7次のURLから引用した。http://www.mew.co.jp/corp/eco/vision/01.html
*8飯田経夫(1989)『経済学は役に立つか』筑摩書房、77頁


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