公務労働の現状と公共サービスの役割
~公務関係労働組合の取り組み~
1.自治労とは
正式名称は全日本自治団体労働組合で、産別労働組合の一つです。約60年前に結成され、組合員は北海道から沖縄まで全国に約81万人います。昔は、主に地方自治体の職員、いわゆる地方公務員だけで組織していた組合です。今は地方自治体の仕事が民間委託され、公務員だけでなく民間労働者も働いており、このような公共サービスを担う非公務員の労働者も自治労の組合員となっています。組合員の仕事は、各都道府県の県庁、市役所、町役場の職員、市立保育所で働いている保育士、公立の病院で働く医師・看護師、清掃職員、市営バス・市営地下鉄などで働く公営交通労働者など様々です。
さらに、公務員の中にも、臨時・非常勤の非正規労働者がいて、その人達も私達の仲間です。他の民間労働組合と少し異なるのは、公務員には公務員法があり、その中で労働基本権が制約されています。日本の労働者であれば当然の権利として与えられている日本国憲法の団結権・労働協約締結権・争議権の中で、公務員には争議権、いわゆるストライキ権が認められていません。そのため、民間労働組合よりも制限された中で労働組合の取り組みを行っているということになります。
①自治労の4つのサポート
自治労という労働組合が実際どのような活動をしているのかについて、大きく4つ挙げたいと思います。
1つ目は「働く」をサポートすることで、賃金や労働条件の改善、働きやすい職場をつくっていくことです。
2つ目は「暮らす」をサポートすることで、組合員の暮らしを支える共済制度、いわゆる生命保険や自動車保険などの独自の保険制度を設けています。
3つ目が「仲間づくり」をサポートすることで、例えば野球の全国大会やバレーボール大会などの交流を目的とした活動を行っています。
4つ目が「社会活動」をサポートすることです。自治労は、地域を守ることを使命とする地方公務員が多く集まっている組合です。地域を守るためには社会問題について考えていかなくてはいけません。さらには、平和でなければ地域の仕事も守ることができないことから、国際的な課題に対する取り組みなども行っています。
②自治労の主な日常活動(組合員に向けた取り組み)
続いて、その中の日常的な活動ということで、組合員、労働者に向けた取り組みについてお話しさせていただきます。
1つ目は、賃金の引き上げで、民間の労働組合と同様、自治労も2月から春闘といわれる賃上げの取り組みを行っています。
2つ目は、労働時間の短縮に向けた取り組みです、自治労では現在、賃上げよりも力を入れて取り組んでいます。皆さんは、公務員の労働時間がこれ以上減っても良いのかと思ったり、公務員は朝9時から夜5時までしか働いていないと思ったりしてはいないでしょうか。公務員は暇だと考える人が多く、9時から17時の8時間しか働かず、あとは家でくつろいでいるのではないかと思われがちです。しかし、実際、私たちの職場はそうではありません。もし近くに市役所や市役所の支所があったら、ぜひ夜に見てもらいたいのですが、遅くまで明かりがついています。窓口は、ほとんどのところが17時30分までしか開けていませんが、昼は市民の皆さんと向き合って、それが終わってから事務仕事を行い、20時から22時、場合によっては24時、さらには朝まで仕事をすることも決して少なくはありません。長時間労働が続くと、いわゆるメンタル疾患になり、最悪の場合は過労死にも至ります。ですから、私たちは近年、この労働時間の短縮が最も重要だと考えているのです。
3つ目は、労働時間の短縮とも関わりますが、必要な人員の配置です。地方公務員の数は非常に減らされています。人員が少なくなると一人あたりの仕事量が増え、仕事量が増えると健康に影響が及ぶこともあります。職員をしっかり確保していくことも重要な活動の一つとなっています。
4つ目は、安全で快適な職場環境の確保です。例えば、暑い中だと仕事が捗らないので、例えば気温は25度、湿度は50%といった、人が過ごしやすい環境で仕事が出来るようにするための取り組みも進めています。
最後は、労働者自主福祉活動です。賃金だけでなく、生活をサポートする上で必要な保険や積立金の紹介や提供を行ったりしています。
③自治労の主な日常活動(社会と関わる取り組み)
次は、社会と関わる取り組みについてお話しさせていただきます。
1点目は、地域を守ることが地方公務員の仕事であることから、自治労では活動の一環として、地方自治の研究活動を行っています。今ではどの自治体も当たり前のようにゴミを分別していますが、かつては、ただ埋め立てたり、燃やしたりするだけでした。これ以上ゴミが増えていくと環境にも良くないということで自治労では研究を行い、ゴミの分別化の提言を行いました。また、ゴミの有料化の取り組みも、自治労が提言を行い、各自治体で取り入れられてきたものです。
2点目は、地方分権、持続可能な社会保障の改革についてです。自治労は、社会保障問題にも積極的に取り組んでいます。高齢者が増えて国全体の医療費が上がることを抑制するため、介護保険制度が設けられましたが、この制度が創設される時も、この制度が機能するかについて現在の厚生労働省と話し合いを行いました。
3つ目が、環境・エネルギー問題についてです。自治労の中には、福島県で働く組合員もいます。福島第一原発が5年前に爆発し、放射性物質が多く放出された事故がありました。実際に、福島第一原発がある自治体の組合員もいますが、未だ地元へ戻れず、5年経った現在も避難所生活を送っています。また、将来的に住民が帰還できる保証もありません。しかし、その中でも地方公務員は町を守っていかなければなりません。原発はその町の経済を潤すものではありますが、一方で、二度と帰還できないという危険性を秘めています。ですから自治労は、原発をそのまま認めるわけにはいかないのではないかと考え、脱原発の提言を行っています。
その他にも、平和・人権を守るための取り組みを行ったり、男女平等の取り組みを行ったり、災害支援活動も行ったりなどしています。また、国際連帯としてカンパを集めて国際活動なども展開しています。
2.公共サービスとは
ここからは、公務員の仕事とは何かという話をしていきます。私が話すのは地方公務員のことで、市役所や県庁で働く職員の仕事について触れたいと思います。
こうした仕事は、地方公共サービスと呼ばれています。公共サービスを大辞林で調べると、「広く一般の人々の福利のために公的機関が供する業務」となっており、消防や警察なども含まれています。
一日の生活で見ると、朝起きて顔を洗うときに必要になる水の提供や、トイレ、下水道はもちろんのこと、玄関の先にある道路もほとんどが国や地方自治団体が整備しています。また、市営バスや市営地下鉄といった交通機関も公共サービスです。さらに、ゴミを出すと、その先は地方公務員や公共サービスに携わる委託先の労働者が処理しています。
ライフステージで見ると、子どもができて、母子手帳を発行したり、出産前の妊産婦検診を行ったり、出産後に戸籍を作ったりといった手続きは市役所が行っています。小学校進学時の入学手続きは教育委員会が行いますが、教育委員会も地方公務員が行っています。また、歳を取ってからも、年金・介護保険の手続きなどはすべて公共サービスです。さらに、火事が起きて駆けつける消防隊員も公共サービスの担い手です。
つまり、皆さんの生活と公共サービスは必ずどこかでつながっています。必要とする人々に安定的かつ良質な公共サービスを提供していくことが私たちにとってはとても重要です。皆さんの生活に深く関わる大事な役割を担っていることから、もちろん働き甲斐のある仕事だと感じています。
(1)なぜ公務職場に労働組合が必要なのか?(~「労働組合」との出会い~)
では、なぜこの公共サービスに労働組合が必要なのかについて、私の実体験と自己紹介も含めてお話ししたいと思います。公務員の労働組合はオープンショップで、組合に入っても入らなくても賃金も労働条件も変わりません。たまたま、私が働いていた町役場の職員組合は全員が加入しており、当然自分も入るものだと思い労働組合へ入りました。役員も皆が持ち回りで務めていました。そうした中、徐々に労働組合の必要性が分かってきました。
実は、公務職場では、法律や条例に基づいて仕事しているものの、職員に対して法律違反が行われているケースがあります。例えば、夜中までの残業に対して超過勤務手当が出ていないといったことがあります。私の職場も財政が厳しかったので、ほとんどがサービス残業でした。民間企業であれば、残業代を払わないと労基署から会社に指導が入るのですが、公務職場に対してはそのような指導が入らないため、おかしいと思ってもなかなか改善ができません。そこで、労働組合がみんなの意見を集約し、サービス残業はおかしい、残業がなくならないのであれば残業手当を支給すべきだ、と主張することが必要になります。私も、当然支払われなければならないものが支払われていないと知り、初めて組合の必要性に気付きました。
公務員というと、周りの人からは良い所に就職したねと言われます。しかし、有給休暇で3日間ほど家にいると、役場はそんなに休めるのかと言われたり、自分たちの税金を使っているのになぜ勝手に休んでいるのだと言われたりします。これは、仕事中でも起こることで、お前たちは私のお金で生活している、と窓口で言われることもあります。しかし、そうではありません。みんなの生活に必要な公共サービスだからこそ、みんなが税金を支払い、サービスを提供する仕組みになっていて、私達は仕事としてその仕組みに携わっているのです。公務員の賃金すべてを支払っていると勘違いする人もいますが、それは税金のごく一部にすぎません。
また、私が働いていた役場では、まだ男女差別が残っていて、女性はコピーや印刷などの補助的な仕事しか任されませんでした。おかしいと思っていましたが、社会はこんなものなのかと諦めていました。しかし、労働組合で他の役場の人と話した時に、女性と男性で差が付くような仕事ではないと言われて、労働組合が職場に意見していかないといつまでも古い体質のままだと気付きました。労働組合であれば、自分一人だけではなく、みんなの意見としてはっきり主張することができます。私はこうして、労働組合の必要性に気づいたのです。
(2)公務・公共サービスの現状
公務員数は、行政改革や財政改革、市町村合併により減少の一途を辿っています。国・地方両方とも厳しい財政実情から賃金を引き下げ、正規の公務員が行っていた仕事を民間委託し、民間労働者の賃金を下げてサービスを提供することが進んでいます。また、正規から非正規への置き換えも非常に増えています。つまり、労働者の賃金を下げて財政が維持されているのが現状だということです。労働者の賃金を下げて本当に質の良いサービスが提供できるかという課題は、民間企業も同じだと思います。残念ながら現在の日本は、労働者の賃金でなんとか経済をもたせている状況にあるといえます。
地方公共団体の職員数は、平成6年(1994年)から26年(2014年)までの推移を見ると、平成6年をピークに20年連続で減少しています。昔は330万人だったのがこの20年間で274万人まで減少しました。これだけの公務員の削減を行っていますが、一方で仕事量は増えています。国が行っていた仕事も今では地方にどんどん流れてきているからです。
日本ではこのように公務員数が減っていますが、国際的な比較で見ると、日本の公務員の人件費は先進国の中でも非常に少なく、アメリカ(9.5%)よりも少ない6.5%となっています。社会保障が充実している国々であるデンマーク(17%)、スウェーデン(15%)、フィンランド(13%)は非常に高く、社会保障をしっかり整備していくためには、その担い手である公務員の人件費を増やしていくことが重要だということが分かります。
全体の労働者に占める公的部門の割合については、OECD32ヶ国での比較で見ると、韓国の次に低い水準にあります。全体平均の半分以下の割合にとどまっているのが現在の日本社会です。
(3)行政改革
①赤字からの脱却をめざした改革(三位一体改革)…官から民へ
地方公共サービスは、行政改革によってさらなる締め付けを受けました。2001年に小泉構造改革があり、官から民への移行が推し進められました。公務部門が行っていた業務を民間へ移行し、公共部門を徹底的に縮小することで経済を活性化させるとの考えの下、三位一体改革が行われました。正規の公務員が担っていた公務部門を民営化し、国税から地方税へ税源移譲を行うこととしましたが、残念ながら国税から地方税に変わったのは一部であり、ほとんどが未だに国税のままです。
その他に医療制度改革が行われました。地方には民間の病院はあまりありません。なぜなら儲からないからです。しかし、民間が事業を展開しないような地域でも、住民が安心して暮らすためには市立病院や町立病院が必要になってきます。小泉構造改革では、こうした市立病院・町立病院に支払われる交付税の引き下げを行いました。更には、診療報酬の点数も引き下げるなど、厳しい改革が行われました。そのため、地方の病院は医師や看護師を確保できず、地域医療は崩壊寸前となりました。その後の民主党政権でこの診療報酬の引き下げをやめたため、現在は地方でも医療が確立できています。小泉構造改革は大きな痛手であり、結果として社会的格差の増大、社会的セーフティネット機能の低下を招きました。このことは、都会と地方の地域間格差を生み、それは今でも続いています。
②国及び地方の長期債務残高
このように、日本では強制的に行政改革が行われた訳ですが、国の赤字は平成10年度(390兆円)から平成27年度(837兆円)で2倍以上になりました。一方、地方は平成10年度(163兆円)から平成27年度(199兆円)でほぼ横ばいで推移しています。地方は人口減により税収も減少していますが、借金しないよう努めてきました。国の借金増大の原因は、これほど借金があるにも関わらず減税を行うことにあります。来年4月に消費税率が10%に引き上げられることが議論されていますが、税金を引き上げなければ、将来国の借金はもっと増えていくということを考えなければなりません。目の前の税金の引き上げを嫌がらず、全体としてどのような社会を望むのかを考えるべきです。
③三位一体改革の地方への影響
地方の多くは自分の町の税収だけでは運営できないようになっており、それを補うのが地方交付税です。例えば東京都などの企業が集まっている所は税金が多く集まります。ただ、東京都だけで日本が成り立っているのではありません。こうした都会の税金を地方に振り替えているのが地方交付税です。これによって、全国のどこに住んでいても、一律の公共サービスを受けられるようになっています。好きで田舎に住んでいるから多少サービスが低下するのは仕方ないと思う人がいるかも知れませんが、東京や大阪だけで日本が成り立つのではありません。食べ物はほとんど地方で生産されており、都会の商品だけで賄っている訳ではありません。日本の国土の約7割は森林ですが、この森林を守っているのは地方で生活する労働者や住人です。都会だけでなく、地方に住んでいる人達のおかげで日本は成り立っているのです。こうした地方を守ることも、地方公務員の役割ではないかと考えています。
日本全国で一律のサービスを受けるためには、地方交付税が必要ですが、三位一体改革では大幅に削減されました。さらに、民間委託が進められ、職員数が減らされ、給与の独自削減が行われました。民間委託については、例えば老人福祉施設などの介護職場が民間委託されたとすると、正規の職員として働いていた地方公務員の首切りというものが行われます。公務員は解雇されないと思われがちですが、実はその職場が必要ではないとなると、首切りができる仕組みになっています。私も隣の町でそうした仲間を見てきました。3年後に民間委託をする、つまりは、3年後に解雇するということです。その時に必要なのが労働組合です。民間委託をしないのが一番良いのですが、市が自力で運営していくことが難しい時、そこで働く60~100名の労働者の雇用をどのように守っていくかという話になります。民間では、その会社が倒産したら仕方ないと捉えがちですが、そもそも労働者には守られるべき法律があります。ただ、民間と公務員で大きく違うのは、公務員には雇用保険がないということです。そのため、解雇されたら明日から賃金がありません。ましてや、公務員は解雇されないと思っているので、解雇された時に初めて労働組合の重要性に気づきます。私たちは、そうした時に可能な限り雇用を守れるよう活動しています。しかし、労働組合がない自治体では泣き寝入りするしかありません。ここでは、実は公務にも解雇があるということを覚えていただけたらと思います。
④市町村合併
私も経験しましたが、市町村合併によって職員の数が減らされました。元々こうした合併は、国が財政を削るために推し進めてきたもので、サービスの向上がはかられた訳ではありません。お金を借りたら半分補填する合併特例債という仕組みがあったのですが、結局借金であることに変わりはなく、借金自体は増えてしまいました。私のところでも町がなくなりました。町を維持するためには商店街が活性化しなければならず、職員は商店街を守るため、隣の町の方が安くても地元の商店街で買い物していました。合併したことによって、お客さんは隣の町の方へ流れていき、地元の商店街は店を閉じていきました。職員として、この市町村合併が本当にこの町にとって良かったのだろうかと思います。
⑤進む職場の非正規化~官制ワーキングプア問題~
公務の職場で重要な課題が職場の非正規化です。公務員にも非正規、つまり臨時・非常勤と呼ばれる人たちがいて、現在約4割の公務員が非正規です。正規の職員を減らし、非正規の職員への置き換えが進められているのです。
一番の問題は賃金です。民間企業と異なり、自治体で働く非正規労働者は最低賃金が多いです。最低賃金はそれぞれの県によって異なりますが、全国平均で時給800円台が最も多く、月給で約14万~16万円といったところです。何年働いてもこの水準で、一時金が支払われないことも多く、年間の賃金は200万円以下となります。これが官制ワーキングプア、公務職場で働くワーキングプアの問題です。
さらに、臨時・非常勤の問題として挙げられるのは、例えば保育士や図書館の司書など、職種によっては正規が一人もいない場合があることです。図書館は、もともと正規の職員が担っていましたが、現在ほとんどの図書館で非正規労働者の割合が多くなっています。保育士も、半分が臨時・非常勤職員で、その多くは女性です。保育という職種が、もともと専業主婦と呼ばれる女性が無償で担っていたという印象にも原因はあると思います。200万円以下の年収で、且つ毎年雇用が継続されるかどうか不安な労働者が公務の職場にもいるのです。自治労は、こうした人達を仲間に入れて活動を行っています。最も良いのは法律を整備することですが、法律は変えるのはなかなか難しいのが現状です。
⑥公務員バッシング(橋下前大阪市長の例)
橋下前大阪市長のお話をさせていただきたいと思います。4年に一度、市長や知事、町長などが住民の選挙によって選ばれます。市長が変わることで公務職場の仕事も状況も大きく変わってしまう実例をお話したいと思います。橋下前大阪市長は、最初から公務員の労働組合が市役所をダメにしているという謳い文句で選挙に当選しました。市民には、職員が市民の敵であるかのようなイメージをつくりました。前市長がまず初めに行ったことが、職員に対する強制アンケートです。内容は、例えば組合に加入しているかどうかです。本来であればこれは不当労働行為で、日本では認められていません。また、入れ墨している職員や、仕事中に一本でも煙草を吸った職員を処分したりもしました。さらに、労使交渉を一方的に拒否した上で労働組合と対話することなく、仲間である議員を巻き込み、議会で賃金を決定していきました。そして、賃金の引き下げが行われましたが、特に、保育士・幼稚園教諭の賃金は2割下げられました。正規の職員の賃金を下げ、その代わりに非正規の賃金を上げるとしましたが、実際に非正規の賃金は上げられませんでした。マスコミには、2割削減の裏にある真実も見て欲しいと感じています。この保育士の賃金の削減によって、今職場では、正規で保育士を募集しても人が集まらない状況になっているそうです。当然みんな賃金の高い職場で働きたいと思いますし、雇用と賃金を守れないと良い人材は集まりません。
労働委員会では、職員に対するアンケートは法律違反であるという判決が出ました。橋下前市長の行為について違法性が認められ、労働組合側の主張が正しいと判断されました。職員が委縮してしまっては、良い発想も生まれず、市民のための仕事が行われなくなってしまいます。大阪だけでなく、全国的にこのような市長が増えてきています。人気のために職員を叩くという風潮がありますが、公務員は決して叩かれるような存在ではないということを皆さんにも気付いていただけたらと思っています。労使交渉だけではなく、選挙によっても私たちの職場の状況は大きく変わってしまうのです。
3.東日本大震災によって明らかになった自治体・公共サービスの危機
(1)「構造改革」路線の歪み
5年前に東日本大震災が起こりました。災害が起きた時でも、公務職員は住民の命や財産を守り、公共サービスを今まで通り提供しなければいけないという使命があります。ただ、その一方で、災害時に不眠不休で働いても、職員が少ないとやりたいことができないという実情にあることはあまり知られていません。本来であれば行うことができた震災対策も、賃金を下げたことや人員を削減したことにより、実現できなくなっているという実態があります。
(2)東日本大震災における自治労の支援活動
東日本大震災で、自治労も様々な支援活動を行ってきました。職員自身も被災し、中には亡くなった職員もいました。また、自分の家族が津波の被害にあったり、家が倒壊したりした職員もいました。しかし、災害があると、公務員は自宅や家族の確認よりも、真っ先に職場へ駆けつけます。そして、市民のために何ができるかという対策を立てます。これは職員にとってとても辛いことです。自分は家族の生存を確認したくても公共サービスを提供しなくてはいけない、住民のために対策を考えなければいけない、ということになります。さらに、その後も自宅へ帰らず何か月も避難所で生活し、支援する側に立たなければなりません。災害時は、ボランティアだけでなく、こうした公務員も活動しているということも考えていただけたらと思います。公務員は、自分だけでなく家族を犠牲にしてでも住民を守らなくてはいけないと考えている人が多くいます。例えば皆さんが被災していたとすると、避難所で食べ物が配給されます。職員はお腹が空いていても、自分たちは食べないで食べ物を配り、その後に余ったら食べる、それが職員です。しかし、避難所生活が長引いてくると、職員に対する人々の風当たりが強くなることもあります。住民も不安や苛立ちが募ってくるので誰かにぶつけたくなる気持ちは分かりますが、不眠不休で避難所支援をしている職員がバッシングを受け、メンタル疾患になってしまうこともあります。
自治労は、こうした職員を休ませられるよう、東日本大震災の時はいち早く現場に向かいました。そして、避難所で働く職員が少しでも仮眠できるように、いわゆる罹災証明書を発行したりなど、職員の仕事をフォローする活動を行いました。
(3)2016年熊本地震における自治労の支援活動
2016年3月14日から続いている熊本地震でも、私たちは同様の対策を行っています。東日本大震災の時に不眠不休で支援していた職員が、その後PTSDやメンタル疾患になることも多くあったため、その教訓を活かした支援を行っています。福岡・長崎から支援物資を送付したり、ゴールデンウィークには、組合員が被災地に駆けつけて支援活動を行ったりしました。今後も、全国の組合員が被災地の市役所や町役場で支援活動を行う予定です。
(4)慢性的人員不足と休暇取得状況
東日本大震災で被災した宮城・岩手・福島の3県では、今でも慢性的な人員不足により休暇が取得できていないという状況が続いています。現在も復旧の途上にあり、職員も非常に高いストレスを抱えています。特に、福島の場合は、原発事故で住民がいつ戻れるか分からないといった不安もあり、他の自治体よりもストレスが高い状態にあります。
自治労としても、被災地で働く職員の心の相談ダイヤル等を設けてカウンセリングを実施していますが、まだまだ先の見えない状況です。
4.良質な公共サービスの提供に向けて(まとめ)
公務・公共サービスは、住民の生活に必要なもので、やり甲斐・働き甲斐のある仕事です。私は、決して地方公務員が大変な職場だということを言いたいのではありません。とても重要な職業で、地方公務員であることに誇りを感じています。しかし、その一方で、公務員には労働者の権利があまり与えられていません。皆さんの中にも、これから公務員になりたいと思っている人がいると思いますが、一番伝えたいのは、公務員も労働者であるということを忘れないでほしいということです。災害時の職員による復旧・復興作業は、ボランティアではありません。自分のことを犠牲にして良質な公共サービスは提供できません。
公務員だけでなく、皆さんがこれから社会人になった時、仕事はもちろん大事だと思いますが、一番大事にして欲しいのは自分のことです。自分を大事にできて、初めてみんなにサービスを提供できるのだということを忘れないでほしいと思います。
以 上
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