中小企業に対する産業別労働組合の支援
-機械・金属産業労働組合の事例から-
ただいま紹介いただきましたJAMでオルガナイザー育成推進室長を務めさせていただいています狩谷です。JAMには全国で170人程度の専従者がおり、その内120人が私と同じオルガナイザーで、そのほとんどは企業籍がない専従で労働運動に携わっています。
1.産業別労働組合JAMについて
JAMは機械金属産業で働く労働者が組織する産業別労働組合です。私は1981年に入局し、総評の時代から、30数年間にわたり専従オルガナイザーを務めてきました。
JAMの意味は、JがJapanで日本、AがAssociationで労働組合を表しています。また、MにはMetalで金属、Machineryで機械、Manufacturingでモノづくりの3つの意味があります。
JAMは、組合員数が350,612名、構成組合数が1,937組合で、連合では5番目に大きい組織です。1組合あたりの平均組合員数は181人で、JAMは中小企業の労働組合の集合体と言うことができ、その多くは機械金属産業の下請企業です。
JAMには17の地方JAMがあり、各地で活動を展開しています。私は、2年前まで大阪と和歌山、奈良の組合を組織するJAM大阪で書記長をしていました。JAM大阪は、組合員数が43,726名、組合数が約300で、1組合あたりの平均組合員数は145人です。JAM大阪は中小企業の割合が高く、1~299人までの企業が85.6%、特に100名未満の企業が59.81%を占めています。業種的には機械関係が35%です。
一方、JAM大阪にはKOMATSU 、KUBOTA、NTNといった大企業の労働組合がありますが、最も大きいコマツユニオンが9,300人、次に大きいクボタ労連が7,500人と、組合員数が1万人超の組合はありません。
産業的な位置づけでみると、例えば、入口には機械・金属の材料となる鋼材をつくる鉄鋼会社、出口には最終商品をつくる自動車会社や電機会社があり、JAMに加盟している労働組合がある企業はちょうどその中間に位置します。その位置は、入口・出口の企業が価格決定権を握っているため、付加価値が非常に残りにくい場所だといえます。例えば、JAM加盟の労働組合がある大手ベアリング会社のNSK(日本精工株式会社)やNTNは、それぞれ7,000人、5,000人規模の企業です。しかし、何千名いても部品をつくっていることに変わりないので、付加価値が残りにくいのです。
2.日本の中小企業の現状と問題点
(1)中小企業の定義とその位置づけ・役割
中小企業の定義は、製造業で資本金3億円以下または従業員300人以下とされています。日本は産業構造的に中小企業が占める割合が高く、2014年中小企業白書によれば、中小企業は386.4万社中385万社と99.7%を占めています。中小企業の従業員数は3,217万人で、日本の全従業者数約4,614万人の7割弱を占めています。中小企業が1年間に生み出す付加価値は147兆円で、日本の企業全体の約54%となっています。こうしたことから中小企業は「小さな巨人」と言われます。皆さんの中で将来、中小企業に就職される方がいると思います。中小企業は会社全体や社長を含めた人の顔が見えますので面白みがあります。
一方、中小企業の数はピークの1986年には532万社ありましたが、2013年に147万社減の385万社(27.6%減)となっており、中小企業は衰退傾向にあります。東京都大田区や静岡県浜松市、大阪府東大阪市といった中小企業の集積地では、約30%から約40%も減少しています。特に1991年ごろのバブル崩壊あたりから、日本の経済構造が大きく変わったため、それが中小企業へのしわ寄せとなって現れています。このため、大企業の正社員を中心とした今までの労働運動だけでは通用しなくなっています。これにどう対応するかが非常に重要な問題で、連合も対応を迫られています。
(2)中小企業が抱える諸課題
中小企業が抱える代表的な問題は、大手と中小の企業間の規模間格差問題である「二重構造問題」です。この解決に向けてJAMは運動を行っていると言えます。私も中小企業労働者の働く環境を良くしたい、社会的地位を上げたいということで30年以上も運動をやってきました。
[1]収奪問題
「二重構造問題」には、「収奪問題」「経営資源問題」「市場問題」の3つの大きな問題があります。収奪問題とは、大企業が中小企業に対し優越的な地位にあることを利用して中小企業が生産した価値を吸い上げることです。例えば、中小企業は大企業から原材料を不当に高額な値で買わされたり、また大企業に製品を不当に安い価格で買われたりします。しかし、中小企業は大企業に文句を言いづらいのが現状です。大企業から「それであれば、別の会社から買います」と言われたら終りだからです。
例えば、先ほどのベアリング会社の場合、100円の売り上げで、通常の機械製品の取引であれば、粗利は20数円になりますが、それが自動車大手とのベアリングの取引だと17~18円に、場合によってはもっと安くなることもあります。大企業からギリギリまで絞られるため、下請け会社は利幅が非常に薄くなります。また、代金の支払いを引き延ばされたり、製品納入後の値引き要請があったり、協力金を求められたりします。さらに、短い納期で頻繁に納入させられたりもします。この短期間納入は大企業が下請け会社に在庫を押し付けていることと同じです。このように大企業は下請け会社を利用しながら儲けており、中小企業を不利な立場に追いやっているわけです。
[2]経営資源問題
続いて経営資源問題です。一般的に経営資源はヒト、モノ、カネをさしますが、特に中小企業の場合、お金と人が大きな問題です。例えば、景気が良くなり仕事が増えてきた時に、中小企業が事業拡大のための資金を調達する場合、その多くは金銭的な余裕がないため、銀行からの融資に頼らざるを得ません。また、そのような時は同様に大企業もお金が必要になってきます。そうした時、当然、銀行は融資先として安全で事業の収益性の高い大企業にお金を優先的に貸し出します。その結果、銀行の中小企業に対する融資枠が縮小し、中小企業は必要な時に必要な額の融資を受けられないことがあります。
加えて、中小企業の場合は、融資の金利が高くなるなど借り入れ条件が不利になります。図1をみると、大手企業の金利は中小企業の約6割であり、企業規模によって大きな差があます。さらに、融資を受ける際、大企業の役員が自宅を担保にすることはありませんが、中小企業の場合、それは当たり前です。そのため返済できなければ、担保に入った自宅は取られてしまいます。
【図1】
続いて、人の問題としては、常に中小企業は労働力不足に悩まされています。また、中小企業の核となる熟練工や100人に1人か2人しかいないゼロから工場の生産ラインを立ち上げることができるような人材は大手企業に獲られ、あるいは中小企業に入社しないため、人材の質の面でも問題を抱えています。
[3]市場問題
次に市場問題とは、大企業が中小企業の市場を圧迫することです。例えば、これまで海外で事業を請け負っていた大手のプラントメーカーがそこで利益が上がりにくくなったため日本に戻ってきて、中小企業の市場に食い込んできています。そのため、これまでと競争条件が変わり、中小企業が市場から追い出されています。そして、もう1つは地理的多角化、いわゆる空洞化です。多くの大企業が海外に生産拠点を移しています。本来、大企業の輸出拡大によって、下請けの中小企業が潤う仕組みでしたが、空洞化により中小企業の市場はこれまでの単価の1/2、受注量の1/4まで縮小してしまいました。大企業の下請けとなっている国内の中小企業はガタガタです。空洞化の問題はかなり深刻です。
収奪問題や経営資源問題、市場問題から、どうしても中小企業は薄利構造になりやすいです。利益が薄く蓄積ができないため、中小企業はかなり厳しい状況です。
図2の売上高営業利益率を見ると、「70年~73年」では資本金1,000万円未満の企業で7.0%、10億円以上で8.1%とそれほど差がありません。バブル期だった「86年~89年」では、資本金1,000万円未満で3.0%、同10億円以上で5.2%と、「70年~73年」より差は大きくなりましたが、中小企業もある程度の利益率がでています。しかし、バブルが崩壊し、91年ごろから様相が変わりました。これ以後、資本金1,000万円未満の企業の売上高営業利益率はゼロ近辺からマイナスを行き来し、企業規模別の格差が拡大傾向にあります。
【図2】
(3)不公正取引問題
現在、中小企業の直近の利益圧迫要因は、円安による原材料費の高騰です。中小企業にとって、アベノミクスは1つも良いことがありません。利益がでているのは輸出型大企業だけです。
2008年に連合が実施した調査によると、中小企業が取引において直面している問題 が浮き彫りになりました。回答率の高い順から、「ⅰ. 仕入れ単価上昇によるコストアップ」が 64.0%、「ii. 単価下落や引き下げ要請」が 51.1%、「iii. 取引先からの受注減少や取引打ち切り」が 34.6%となっています。特に急な取引先からの受注減や取引打ち切りがあるため、中小企業の経営は不安定といえます。また、中小企業は,大企業からの手間とコストのかかる納品の強制や、契約条件・発注内容の度重なる変更、休日前・終業後発注といった無理な発注などの問題にも直面しています。休日前・終業後発注に対応すれば、残業代を支払わなければならず、その分のコストは増加します。しかし、取引先である大企業は上昇したコスト分を負担しません。
3.中小企業で働く労働者の現状
(1)拡大する労働条件の格差(賃金を巡って)
大手企業と中小企業の労働条件格差の最たるものが賃金です。図3をみると、2000年から2011年にかけて、日本の労働者の賃金下落が続いています。これによると、2000年を100とした場合、2011年では大手が96.2、中小は88.0となっています。
【図3】
図4は、30歳・35歳・40歳の高卒標準労働者(高卒直入者=高校を卒業して直ぐ企業に就職した人)の賃金の状況を示しています。右の40歳の表をみると、所定内賃金水準は1997年には大手で385,900円、中小で357,000円とその差は28,900円ありました。2013年には大手で17,600円減少の368,300円、中小で43,200円減少の313,800円となり、その差は54,500円と賃金格差は1997年に比べ拡大しています。
【図4】
日本では当然だと思われている大企業と中小企業の賃金格差を諸外国と比較してみると、1,000名以上の企業の賃金を100とした場合、 5人~29人の企業では、日本が51.2、スウェーデンが約100、イギリスが93.0、ドイツが68.8、フランスが85.2となっています。【図5】
【図5】
先ほど述べたように日本の常識では、中小企業の賃金は大企業より安いのは当たり前ですが、世界的にみれば非常識といえます。海外で大企業と中小企業に賃金格差がないのは、後ほど具体的に述べます労働組合に規制力があるためです。逆に日本は致命的に労働組合の規制力が弱いと言えます。
(2)中小企業で多発する倒産・「合理化」問題
JAM大阪における2000年~2013年の合理化・企業問題発生の推移をみると、首切り「合理化」、労働条件の切り下げ、賃金カットといった合理化等の提案があった単組は2002年に91組合、2003年に65組合です。2002年は約300組合中91組合だったので、約3分の1の単組で提案されたことになります。2000年はITバブルが崩壊する直前で、それが崩壊して景気が下り坂になり、2002年がボトムでした。そのため2002年・2003年は合理化等の提案をされた単組が多くなっています。
リーマンショックの影響を受けた2009年には206件の合理化等の提案がありました。合理化の中身は一時帰休が162件になっています。要するに仕事が減少したから休めとなったわけです。これは休んだ労働者の賃金の2/3または1/2を国が助成するという仕組みである雇用調整助成金制度がつくられたためです。JAMはこの仕組みづくりに大きな力を果たし、この仕組みを適用する要件の拡大をはかりました。産別がこうした役割を果たしていることも理解いただければと思います。
一方、倒産は2002年に13件、2003年に14件ありました。2009年の倒産件数は、リーマンショックによる景気の大きな落ち込みの時でも、5件しかありませんでした。雇用調整助成金制度が適用拡大されたことによって倒産を防げたわけです。中小企業団体からも非常に感謝されました。
(3)低い労働組合組織率
日本の労働組合の組織率は低下傾向にあります。1949年には組織率は55.8%と、2人に1人が組合員でしたが、2014年は17.5%と今は10人に2人もいません。私が労働組合の青年部の学習会に呼ばれた時に、「この中であなた方の会社に労働組合があるからこの会社に就職したという人は手を挙げてください」と尋ねると、10年前は1/3くらいが手を挙げていましたが、今は誰も手を挙げません。日本の教育はどうなっているのか、暗澹たる思いです。
日本で労働組合の組織率が低い原因の1つに、中小企業の組織率の低さがあります。大企業では2人に1人は組合員ですが、従業員100~499人の企業では約10%、それ以下の企業は数パーセントです。
諸外国の労働組合の組織率をみると、北欧のスウェーデン、デンマークは70%近くと相当高い水準です。一方、フランスでは、労働組合の組織率は8%と日本より低いですが、その組合が結んだ労働協約は90%超の労働者に適用されます。【図6】
日本の企業、特に大企業は、A企業の従業員はすべてA労働組合の組合員とするというユニオンショップ協定を労働組合と結んでいます。一方、ヨーロッパでは、個人加盟方式ですから、組合員になることを自分で決めて組合費を払うため、一人一人が組合員であることを自覚しています。これまで日本の労働組合は企業別労働組合だから良いと言われていましたが、今後も本当にこれで良いのか、考えないといけないと思っています。
【図6】
4.産業別労働組合JAMの活動
(1)中小企業労働者の労働条件の引き上げと大手との格差解消をめざして
労働組合にとって最重要課題は賃金問題です。賃金が高い・低いといった水準の問題、若手とベテラン間や男女間の賃金格差の問題です。まずは、あってしかるべき賃金格差か、あってはならない賃金格差かをはっきりさせる必要があります。あってはならない格差であれば、それを是正する政策を労働組合として出さないといけないわけです。これをおろそかにして労働組合は成り立ちません。社会的・企業内でみて、賃金を公正で公平なものにすることは労働組合の最たる仕事です。ただ、その力を持っていますかと問われると、多くは沈黙してしまいます。
今春闘で、JAMは久々にベースアップに取り組み、かなりの成果を収めました。今春闘でJAMには、「ベースアップ」「賃金水準の要求」「統一闘争」という3つのキーワードがありました。
高卒直入者の平均賃金をみると1,000人以上の大企業と1人~299人の中小企業で約30,000円の差があります。また中小企業をみると、40歳ごろで賃金の上昇が中だるみをしています。40歳の方が入社した年は1992年で、バブルが崩壊して失われた20年に突入したころです。これが原因となった賃金の伸び悩みにより、以降の賃金が中だるんだのです。JAMはこうした賃金水準の低さ・歪みを是正するため、ベアと賃金水準要求をしているわけです。
[1]ベースアップによる賃金格差解消
労働組合は春闘で企業に賃上げを要求し交渉します。例えばAさんは4月に、1歳上の先輩Bさんが春闘前まで取っていた賃金まで上がったとします。これをJAMでは構造維持と呼んでいます。この場合、Aさん個人の賃金は上がっていますが、企業・組合の賃金水準は上がっていません。
企業・組合の賃金水準が上がるということは、前年度の賃金カーブ自体が全体として上昇することを言います。これがベースアップ(以下ベア)です。
JAMでは、今春闘における賃上げ要求基準を「賃金構造維持分に加える賃金水準の引き上げ額について、過年度物価上昇分と生活改善分を勘案して 9,000円」としました。連合は6,000円です。JAMの賃金水準が低く、格差解消をはかるため高く掲げたわけです。JAMでは9,000円に決定するため相当な時間をかけて議論しました。それだけ高い要求をしているということです。
[2]賃金水準要求(個別賃金要求)の拡大
次は、2つ目のキーワードである「賃金水準の要求」です。JAMでは、賃金をいくら上げるかといった上げ幅を要求するのではなく、賃金の水準を要求する方式に切り換えていくこととしています。つまり、今までの平均賃上げ要求から、賃金水準要求(個別賃金要求)に変えようとしています。
個別賃金要求では、個別労働者全体の賃金表を作成します。具体的には、労働者Aさん(18歳/勤続0年/高卒直入者)は賃金20万円、労働者Bさん(19歳/勤続1年/高卒直入者)は賃金22万円、労働者Cさん(19歳/勤続0年/途中入社)は賃金21万円といったような人数分の賃金表を作ります。そして、例えば、Aさんの20万の賃金を22万に、Bさんの22万を24万に、Cさんの21万円を23万円に引き上げるというように、個々の水準を書き換えます。
JAMでは、今春闘において、個別賃金要求基準要求の組立にあたって、標準労働者要求基準、JAM一人前ミニマム基準への到達をめざすこと、個別賃金絶対額水準を重視することとしました。その上で、標準労働者の要求水準は、現行水準に9,000円を上乗せするとの要求を作成しました。【図7】
標準労働者とは、学校を卒業してすぐに会社に就職し、同一の会社に継続勤務している労働者です。その者が標準的な昇給・昇進をしたときに支払われる賃金のことを標準労働者賃金といいます。これを特定の条件(年齢や学歴、職種など)で他社の賃金や各種の調査データと比較することによって、はじめて自分たちの賃金の水準を知ることができます。JAMでは30歳と35歳の高卒直入者を標準労働者として設定し、賃金を比較し、要求を決めています。
【図7】高卒直入者所定内賃金
[3]JAM一人前ミニマム要求基準
今までは、平均賃上げ方式でA,B,Cのどの組合も「1万円引き上げ」という要求をつくり、同じ時期に、要求し、交渉して、妥結していました。しかし、それでは格差は縮小しません。例えば、企業AもBも1万円獲得したとしても、A社は30歳12年勤続の高卒直入者が20万円で、B社は同30万円であれば、同じ1万円上げても、10万円の格差は残ったままです。
そのため、JAMでは、30歳12年勤続であれば24万円以下で働いてはいけないというミニマム基準を設定し、それを守って行くこととしました。中小企業はこの方式でなければ格差は縮まりません。そのためJAMはミニマム基準以下で働く労働者を減らす努力をしています。【図8】
【図8】JAM一人前ミニマム基準
個別賃金要求(標準労働者要求)は代表となる賃金が決まれば自動的に他の全部の賃金が決まる仕組みです。具体的には、30~35歳の間の1歳の刻みが6,000円、35~40歳の1歳の刻みが5,000円、40歳以降の1歳刻みが4,000円といったピッチを設定しています。このピッチは固定していると、例えば30歳の高卒直入者の賃金が決まると全ての標準労働者の賃金が決まります。後は標準労働者を基準に、途中入社の労働者の是正ルールを決めれば全体の賃金が決まります。このように代表者を決めてその賃金が決まれば全部の賃金が決まるようにし、その人の水準交渉を行っていきます。
私たちはこれを社会的に拡大することを目指しています。同じ勤続年数、同じ仕事、同じ年齢にも関わらず、企業規模が100人の場合は20万円、1,000人の場合は30万円では、やはりおかしいため、100人の場合の20万円を30万円に上げろと言うわけです。このような企業の枠を超えて企業横断的な賃金システムを作って行きたいと思っています。実は、これが先ほど述べた労働組合の規制力なのです。
JAM大阪では要求組合の約半分がこの個別賃金要求に移りました。現在、格差をなくすのに必死に取り組んでいますが、なかなか大手の水準には近づけません。TOYOTAが30歳高卒直入者で約28万円、35歳で約33万円です。ホワイトカラーはもう少し高いです。
JAMは、労働条件を下げることによって企業は競争してはいけないと考えています。例えば、C社で1万円、D社で5,000円の賃上げを行い、賃金水準をみると30歳でC社は25万円、D社は20万円の場合、競争で有利なのはD社です。要するに労働条件を企業間競争の埒外(範囲外)に置かなければならないと考えています。
[4]統一闘争
3つめのキーワードである統一闘争は、相場形成のために、統一要求、統一交渉、統一妥結というように、要求する日、交渉する日、妥結する期日を揃えることです。今年は賃金水準でみると2,000~2,800円のベアで、構造維持を加えると大体7千数百円の上げ幅になります。ここまで引き上げることができたのは、統一して9,000円を要求したからです。このようにJAMは少しでも水準を上げて格差を縮めようと、統一闘争を行っています。
(2)中小企業労働者の雇用・職場を守るために
次に、先述したように、多くの中小企業は経営状態が非常に不安定であり、そのため、「合理化」、賃金カット、クビ切り、倒産などの問題がかなりの割合で起きています。
しかし、中小企業でも製造業の企業をつくるには費用がかかるため、簡単に倒産させることはできません。そのため、JAMでは組織戦略として、企業を維持することにより、雇用を確保して組合員が減ることを防止する、さらに言えば組合員を拡大していくようにしています。
企業が「合理化」提案を出した場合、JAMでは企業の数字を全部提出させ、経営分析を行い、「合理化」の原因、企業危機の真偽と程度、企業の強み・弱みを把握してから団体交渉を行います。春闘の賃金だけが交渉の場ではありません。例えば、「このように資金を回転させるから、資金に余裕がでない」などの指摘を行います。労働組合が要求したことに対し、企業からできないと言われたら、なぜできないのか、何が悪いのか、組合はしっかり指摘できるようにしないといけません。また、そうしたことを言う限りは組合も努力しなければいけません。
しかし、やはり企業から「合理化」提案が出てからでは遅く、そもそも「合理化」提案を出させない取り組みが必要です。
それでも「合理化」提案がだされた時は、組合員が被る犠牲を最小限に食い止めるよう取り組みます。例えば、クビ切りを賃金カットで抑えられないか、100人のクビ切りを10人で抑えられないかを考えます。もちろん倒産させないことが基本ですが、倒産にも再建型と清算型があり、仮に清算型であれば、再建型に切り替えさせたりします。そして、「合理化」提案の背景となった企業危機や倒産からの企業再建過程において、労働組合が労働組合の立場からの「企業再建プラン」を逆提案することによって、労働組合が企業再建の主導権を握ることを行います。「経営は本来の経営努力を行え、人に犠牲を押し付ける前にやることがあるだろう」ということです。経営が主導権を持っていたら必ず犠牲が大きくなります。労働組合としては、合理化反対だけを抽象的に唱えるのではなく、組合員を守るため、犠牲を出させない、もしくは最小限にくい止めるため、具体的にどのように企業危機から企業を再生させるかという「企業再建プラン」を、組合員の知恵と力を結集して確立し、それを実行させることによって、対応していきます。
5.最後に
1人前のオルガナイザーになるには10年以上かかります。しかし、何のためにやるかがはっきりしているため、やりがいのある仕事です。中小企業で働く労働者の社会的な地位、あるいはその労働条件を上げていくことが私たちの大きな役割です。ただ残念なことは、日本には「産業別労働組合」があっても交渉は企業ごとで、本来の産業別労働組合ではありません。一方、この前、春闘が終わったドイツのIGメタルは本来の産業別労働組合で、個々の企業で交渉を行いません。例えば、ボンであればボン、ベルリンであればベルリンというように、それぞれの地域ごとに労働者の代表と経営者の代表が交渉して決めています。そこで決定したことは、法律と同じ重みを持ち、その地域の全労働者に及びます。それ以下でしか労働者を雇えない企業は存在するなという意味です。一方、日本には賃金に関する社会的規制は最低賃金法しかなく、かつ日本の最低賃金は諸外国に比べ極めて低いのです。こうしたことからも労働組合が社会的規制力を持たないといけないと考えています。
これで私からの問題提起を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
以 上
▲ページトップへ |