「地域で雇用と生活を守る取り組み」 ~若年者雇用対策を中心に~
皆さんこんにちは。連合大阪で政策と男女平等教育グループを担当しております井尻です。こうした機会は私自身初めてで、大変緊張していますので上手くお話しできるかわかりませんが、私なりに精いっぱい頑張らせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
簡単に自己紹介させていただきます。私は京都の亀岡市出身で、京都国体があった昭和62年に現在のパナソニックに入社し、その後、労働運動に携わるようになり、現在、連合大阪に専従派遣で仕事をしております。
それでは、本日のテーマである「地域での雇用と生活を守る取り組み」について、大阪で取り組んでいる若年者雇用対策を中心にお話しさせていただきます。
1.組織の概要(連合・連合大阪)について
まず、連合の組織についてです。47都道府県に地方連合会があり、52の産業別労働組合、企業単位の企業別組合、1人でも加入できるような地域ユニオンで構成されています。企業別労働組合は先ほど申し上げた通り企業、職場単位の課題に対応しています。また、同じ産業や業種の労組が集まっている産業別労働組合では、共通する産業課題に対応しています。そして、私が所属している連合は全国的な中央組織で、産業や企業の枠を超えて労働者の代表として、自治体や国の諮問機関などに意見反映をしていく役割をしています。
労働組合といっても様々な形態があります。1つ目は、「オープンショップ」で、雇用する労働者に対して労組に入るかどうかを労働者に任せる制度です。これは企業の中に労組が3つも4つもあるという形になっています。2つ目は、「クローズドショップ」で、労働組合の組合員から採用するという形で、あまり日本にはありません。3つ目は、「ユニオンショップ」で、これは雇用された労働者は組合員にならなければならず、大手の企業中心に良くみられます。また、公務員や公営企業の職員は、オープンショップと捉えてもらえれば良いと思います。
連合は全国9ブロックに分かれて運営されています。全国に675万人、連合大阪では約40万人の組合員がいます。組合員が1番多かった1990年代は808万人、大阪も51万人いてました。大阪だけでも10万人の組合員が減っているという状況です。
地方連合会は地域に根差した中小地場組合や企業に対して労働相談や組織拡大の取り組みを行っていくとともに、中小零細企業に対して、低賃金と不合理な格差をなくすために地域ミニマム運動を進めています。それから政策・制度としては、都道府県レベルで実現していかなければならない政策課題を行政に要請する取り組みをしています。また、NPOや社会福祉協議会と提携したり、私たちの生活や暮らしに直接影響する政治活動の取り組みも地方連合会の主な活動です。
次に連合運動ですが、大きく3つの柱について説明いたします。1つ目は春闘の取り組みです。これは組合活動の基本であり、組合が単独で交渉するよりも集団で交渉する方が、交渉力が高まるため、同じ産業・業種の組合が連携して、全体で統一の目標を立てて要求をしています。2つ目は中小やパート、派遣労働者の処遇改善についてであります。多様な雇用形態の中で、労働組合の有無にかかわらず、最低賃金の引き上げや中小への情報提供など、全体の底支えや波及効果を高める取組みをしています。3つ目は、春闘で賃金や一時金が上がっても税や社会保障が多く掛かれば実質生活は良くならないため、そうした観点を含めて、暮らしと雇用を守る「政策・制度」に取り組んでいます。こうした運動を行っているのが労働組合で、必要か否かについては、必要だと思っている人が多いのですが、現状は経済環境や企業の構造改革で組合員数は減っています。労働組合に対する理解を深めるためには、学生時代の教宣活動を充実させることやデモ・ハチマキなどの組合イメージを変えることも必要だと思います。
2.労働市場の現状について
今、労働市場がどのようになっているかというと、3月に発表された数字で見ますと、完全失業率は前年に比べ改善しています。かつての日本的雇用慣行は、従業員の定着率が高く、年功的な賃金で内部労働市場がしっかりと確立されていました。しかし、90年代以降の景気後退による新規採用の抑制や賃金体系の見直し、成果給の導入、派遣法の見直しによる労働市場の規制緩和がなされて、労働市場は傷んだ方向に進んでいると思います。有効求人倍率に目を向けると、これまでの最低は平成21年8月の0.42倍で、今の半分くらいでした。
また、若年層の失業率は1995年から全年齢層の約2倍になっており、2003年には10%を超えました。比較的失業率が低いといわれる日本において、若年層の失業率が全年齢層の2倍に達することは極めて異常な状態だと思いますが、若年層の失業率は世界的にも同様の傾向にあります。また自殺者については、昨年3万人を下回りましたが、それ以前の十数年間は年間自殺者が3万人を上回っており、この背景には1997年の山一證券や拓銀が破綻したように平成不況の影響で、失業者が大幅に増加したことが考えられます。他にも若い時にスキルを身に付ける機会に恵まれないと、職業能力が身に付きにくく最終的にはフリーターやニートに繋がってしまい、年収200万円以下のワーキングプアになってしまいます。そのためにも若い時にしっかりとしたスキルを身に付けることが重要となります。非正規雇用で人材を育てずに労働者を使い捨てるような企業が増加すると労働市場が傷んでしまうと思います。また、社会保障制度の維持についても大きな影響が出て来るため、若年層を含む失業対策の問題は、非常に重要な課題であります。
次に高卒の内定率です。これは直近の1月末で88.3%となっており、一見すると高い数字ですが、この数字には就職希望であったが、途中で断念した人は含まれていません。つまり、母数に断念した人たちが含まれていないので実際の数字はこれよりも低くなります。また大卒の就職状況をみると、4月1日現在の就職内定率は93.6%と出ていますが、これも高卒と同じで実質はもっと低く5人に1人が定職に就いていない状態だと言われています。若年者の労働市場を見ると、就職は景気だけに左右されるのかという疑問がありますが、総務省の労働力調査では15~24歳の若年雇用者はピーク時に比べ大幅に減少しています。これは大学進学率が上がったことや産業構造、就業観も影響していると思います。厚労省と文科省が数字を出していますが、データの採り方が双方で異なっていますので、データの採り方についても見直ししていかなければならないと思います。
そして、フリーター・ニートについては、高年齢化が進んでいるのが現状です。こうしたことから、一度フリーター・ニートの層に入ってしまうと脱却が難しいと言えるのではないでしょうか。加えて初職の非正規率をみると、1987年当時は15.3%でしたが2006年には47.5%になっているのが現状で、初職の重要度が高い採用形態の日本では、初職の採用段階で正規で就職できなければずっと非正規だということが今日の日本の姿だと思います。こうした労働市場のため、個別労働紛争はどんどん増加しており、主な相談内容は解雇、労働条件の引き下げ、いじめ、嫌がらせ、パワハラ、セクハラといったものになっています。
また、労働市場の二極化が進み、現在、非正規労働者は1,834万人になっています。こうした格差の拡大についてはOECD(経済協力開発機構)から是正勧告を受けています。この背景には1995年に「新時代の日本的経営」ということで、経済界(日経連)から労働者を3つのグループに分ける提案がなされ、非正規労働市場が緩和されていった経緯があります。現時点においても格差問題は解決しておらず、社会問題となっています。加えて、職種によっては、これまで人が担っていた業務をIT化したり、事務的な業務内容は、非正規労働者で補う形へと変化しており、就職環境が大変厳しくなっています。
さらに労働力人口の減少と高齢化の高まりで世帯構成にも変化が見られます。1980年代は単身世帯、夫婦のみの世帯は少なく、夫婦と子供の家庭が多数を占めていました。しかし、現在は単身世帯が一番多くなっており、この構造変化は今後の社会システムを考える上で押さえておかなければならないことだと思っています。
それから賃金、所得については、1997年をピークに賃金・一時金共に低下の一途をたどっています。消費の源となる賃金が低下すれば、デフレから脱却できないことは明らかだと思っています。今年の春闘において、連合としては傷んだ労働市場の復元に向けて、賃金を重視した労働条件の改善、すべての労働者の処遇改善、生産性三原則(雇用の維持拡大、労使協議、成果の公正な配分)にもとづいた労使関係の強化を特に主張していかなければいけないと思っています。
3.国の支援施策について
若年者の雇用施策をみると、リーマンショック以降、雇用環境が傷んだということで多くの緊急雇用基金事業が実施されました。新卒者に対しては、これまで定期的な大学訪問、出張相談など、これまでの比較的受け身な政策姿勢からジョブサポーターを増やすなどの積極的な活動へと移っています。
また、中小企業における求職と求人のマッチングでは、学生が大手企業を志望する傾向が強く、中小企業側も、「どうせ学生は来てくれない」という意識で情報を発信しなかったり、アプローチの仕方が分からない等の理由から、ミスマッチが生じて人材確保は難しい状況になっていました。
若者の雇用対策施策には、マッチングとキャリアアップ、キャリア教育の3本柱があります。マッチングには、正社員経験の少ない方に対して職務経歴や免許、資格を書いて、次の就職につなげようとするジョブカードという取り組みがあります。しかし、これは全雇用労働者に適用されているわけではなく、企業も採用時にわざわざ確認することもしていないので、大切な取り組みですが定着はなかなか難しいと思っています。
キャリアアップについては、若年者や高齢者、障害者、外国人労働者など就職困難者の方に対して、きめ細かな就労支援を行っていくことで就職につながることもあるので、伴走型の就労支援が重要だと思います。社会的企業やNPOなどが中間的な就労支援(出口確保)として取り組んでいただくことによって、これまで福祉一本槍であったことが、就労現場に結び付くということで社会の担い手にもなり、大変重要な取り組みだと思います。
キャリア教育はインターンシップ等を含め、早い段階で就労意識を持ってもらうことが大切であります。国の支援策で今年度の主な予算として、通常の求人情報よりも詳細な企業情報・採用情報を公表する中小企業に対して「若者応援宣言企業」の取り組みがあり、豚まんで有名な「蓬莱」が近畿2府4県で第1号に任命されました。
4.地域における雇用対策について
大阪における雇用対策についてであります。1つ目は、労働市場の実態把握で橋下知事時代に他府県に比べて失業率が高いことや、総務省と厚労省で調査方法が若干異なることから正確に実態を把握するために大阪独自で労働力調査を実施することにしました。
2つ目は、大阪労使会議です。関西経済連合会と連合大阪で、傷んだ労働市場・労働情勢となっていることから、若年者に対して「何か取り組むことはできないか」と考え、経営側からもグローバルな視点も含めて人事責任者に参画して頂き、若年者雇用問題研究会を立ち上げました。そこで現行施策の問題点として、先ほど紹介した様々な基金事業は全て時限的な施策であること、実施主体の組織が多くあること、それらが有機的に繋がっていないこと、さらには年長フリーターに対する取り組みも必要であることなどがわかってきました。また、大学関係者や企業関係者の中には、進路決定に保護者の影響力が大きいという実態もあり、保護者に対するPR活動を積極的に行っている現状がわかりました。
3つ目は、中小企業における人材活用、人材育成ですが、「中小企業が欲しい人材がどういう人材なのか」わかっていないということやそうした仕組みづくりの必要性が明確になってきました。
4つ目はインターンシップの充実です。現在、本来の趣旨が見失われて形骸化し、単位取得が目的になっているように思います。企業の人事担当者からは、インターンシップ受け入れ当日に来ない学生がいると一生懸命準備してもやってられないという声を聞きました。こうしたことを考えると、インターンシップは仕事や業界の理解を深めることに主眼を置いたものと会社の業務内容を理解することに主眼を置いたものにするという取り組みが必要になると思います。若年者雇用の先行研究では、初職の重要性や若年者雇用の問題の大きさは判断が分かれていますが、学校卒業時の失業率の高さが、後の賃金水準に影響を及ぼすという結果もあり、若い時に能力開発、スキルアップに恵まれないとなかなか厳しいのではないかと思いますし、こうした観点から若年者雇用問題は重要な問題だと私は受け止めています。
加えて、公労使が連携し就労支援をしている京都ジョブパークを全国的に展開しようという動きもありました。あまり広がりませんでしたが、若年者だけでなく、中高年齢者やひとり親の家庭などの様々な方の相談に対して、福祉の相談と就労の相談を1つの建物で一括して行うワンストップサービスの取り組みを大阪においても展開してきました。
さらに、関経連と連合大阪で行う大阪労使会議で、大阪労働局や大阪府に対してこれまで申し上げてきたような取り組みをしてほしいと働きかけを行ってきました。こうした取り組みは連合だからこそできることであって、企業単組や産別組合には出来ない、政策・制度実現の取り組みではないかと思っています。
また、大阪雇用者対策会議が外部委託した労働力調査で企業、学校、求職者、進路担当、人材派遣会社などにアンケートを取らせていただき、そこで採用側からの問題認識として、コミュニケーション能力を重視していることや社会人基礎力をしっかりつけてほしいことが一番であることがわかりました。あわせて、雇用のミスマッチという点で言えば、企業の求める職種と求職者の求める職種が異なり、ミスマッチがあるということがわかりました。さらに大学の就職担当者は、自己主張できる人、コミュニケーション力がある人は早々に内定が決まっていると紹介されました。一方で何度チャレンジしても内定がもらえない場合は自信を喪失し、意欲を失う人が多いそうです。人材派遣会社の方からは、知らない人とのコミュニケーションを苦手とする人が多く、カウンセラーを置いて丁寧に相談対応していかないと就職に結びつかない実態であることをお聞きしました。そうしたことも含めて、キャリア教育は早い段階からしていかなければならないのかなと思っています。
今後の取り組みの方針は、産業政策と一体となった人材育成、介護・福祉分野、中小とのマッチング施策の充実に向けて、公労使のオール大阪で取り組むことが大事であると考えています。私自身は高齢者や障がい者のような労働法制のように、若年者にも雇用に関する若年者雇用安定法(仮称)のような法律があっても良いと考えております。例えば、失業後一定期間での職業訓練を実施させることや、大手企業に対する一定割合の新卒者採用の義務付けなどであります。世界的な傾向ですが、離職して6カ月以内に職業能力開発を行わなければ長期失業に陥るという検証結果があることや、失業保険との兼ね合いもありますが、早い段階に強制力を持たせて職業訓練行う事が必要だと思っています。それから、公労使がバラバラに行っている就労支援施策を一緒にすることで有機的な連携が取れると考えています。事業のイメージとしては若者支援と企業支援の2つの視点で、調査・ヒアリングから定着支援までできないかと考えています。あわせて、大阪の仕事館のリニューアルを9月にしたいと思い取り組みを進めています。その中で、ハローワークとの一体的実施ということで、職業紹介機能を自治体の中に入れて一緒に取り組むことによって、求職者から見れば利便性が高まるのではないかと考えています。
連合大阪は非正規やパートなどに対して、最低賃金の引き上げによるセーフティネットの強化をしようと考えています。未組織の方や非正規の方に対して最低賃金を引き上げることによりすべての労働者に対するセーフティネットが強化され、全体の底上げにも繋げること政策で最も重要な役割を果たす取り組みだと思います。賃金における雇用対策として、先ほど申し上げた地域ミニマム運動があります。連合大阪では18歳・20歳・25歳の年齢においてこの水準以下の金額で働く人をなくそうと活動を展開しています。この取り組みは、経営側に対して、組合員から調査した賃金プロットを提示し、あまりに低い賃金水準だと人材確保が難しく、誰も来ないということを交渉の中で主張し、処遇改善と賃金の底支えをしていくというものです。
5.その他の取り組みについて
その他の取り組みとしては、写真での紹介になりますが、厚労省に対してホームレスの自立支援として特別法の引き延ばし要請、大阪府知事とのトップ懇談会や東日本大震災の瓦礫受入れの積極推進、大阪市改革プランに対する緊急要請、各政党への要請行動、大阪府連との政策懇談会、外国人労働相談、非正規ホットライン、男女平等に関する街頭行動、ハラスメント担当者セミナー、小学生を対象にした就業体験学習、関西キャリア教育支援協議会として、小中学生に対するキャリア教育などを行っています。また、春闘時には世論喚起に向けた決起集会を開催したり、関西経済連合会や大阪労働局への要請行動、労働法改正に関する学習会などに取り組んでいます。
6.最後に
連合は働くことに最も主眼を置いた社会を目指すべきではないかと考えており、「働くことを軸とする安心社会」という目指すべき社会像を示しています。持続可能な社会に向けて誰もが公正な労働条件で働き続け、人との絆や繋がりを深めることにより、自己実現ができるのではないかということで、雇用と教育を結びつける橋などの5つの橋を掲げています。
最後に、日本理化学工業の大山社長が障害者雇用を推進するか迷っている時に、お坊さんに聞かせて頂いた、人の幸せは究極にいえば4つあるというお話を紹介したいと思います。1つ目は人に愛されること、2つ目は人に褒められること、3つ目は人の役に立つこと、4つ目は人に必要とされることです。1つ目以外は働くことによってすべて得られます。そのように考えても、「働く」ということはとても大事だと言えると思います。
今でも労働組合は、あまりイメージが良くないと思いますが、安心安全な社会を作っていくために必要なインフラであり、企業が健全な形で成長発展していくためにも必要だと思います。また、労働組合があれば交渉を通じ賃金を上げることもできるので、就職する際には労働組合があるかどうかということを選択の1つとして大事にしていただきたいと思います。ある大学の先生は、労働組合は職場で問題が起きたら火消しをしてくれる消防署の役割と企業内で問題が起きたらいち早く知らせてくれるという神経の役割を持っていると紹介されていました。会社、経営側に対峙して物を言うのは難しいと思いますが、そうした点においても神経的役割を果たしていると思います。私からの説明は以上になります。長時間ありがとうございました。
以 上
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