同志社大学「連合寄付講座」

2011年度「働くということ-現代の労働組合」

第6回(5/20

ケーススタディ(4) 男女が働きやすい職場づくりにむけた取り組み
―情報通信産業の事例―

宇田 珠美(情報労連 中央執行委員)

はじめに

 本日は、男女が働きやすい職場づくりに向けた取り組みがどのようになされているのかについて、情報通信産業の事例をつうじてお話しさせて頂きたいと思います。

1.情報労連と情報通信サービス業について

(1)情報労連とは
 情報労連とは、情報通信産業で働いている労働者を組織している産業別労働組合です。通信と情報サービス分野だけではなく、通信建設・印刷・運輸・製造・建築・ビルメンテナンスなどの業種の組合が加盟している産業別労働組合です。組織人員は約22.2万人、NTT労働組合・KDDI労働組合、通建連合等237の組合が加盟しています。
 活動は、加盟組合及び組合員の経済的・社会的地位の向上を図ることを目的としており、労働条件の維持向上、産業別組織の整備強化、福利厚生・共済、教育、文化向上、国際連帯・貢献、他団体との連携協力等が主な取り組み内容となります。

(2)情報通信サービス業における動向
 情報労連では全組合員に占める女性比率は17.4%です。組合員には正社員の方と、非正規社員の方がいらっしゃいますが、「非正規社員である組合員」に占める女性比率は32.7%となっています。もう少し詳しく見ていくと、全組合員のうち、「非正規社員の組合員」の比率は15.5%です。全組合員に占める女性比率は17.4%で、うち「正社員である組合員」に占める女性比率は14.5%、「非正規社員である組合員」に占める女性比率は32.7%となっています。
 この数字から分かるように、正規の女性社員よりも非正規の女性社員の方が組合に加入している比率が高くなっています。これは派遣社員や契約社員として就業されている女性が多いということが一つの要因ではないかと思われます。

2.男女平等に関する課題とは

 次に、男女平等に関する課題についてお話していきたいと思います。男女間差別は様々な分野に存在し、賃金・発言権・家事負担などの問題はUNI(サービス産業の労働者を組織する国際産業別組織)がポスターを作って問題を指摘しています。
 その中でも本日は、セクシャル・ハラスメント、妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱い、育児・介護休業・短時間勤務の取得を理由とした解雇、昇進・昇格の不利益な取り扱い、(直接・間接)差別、女性に対する身体的・性的・心理的・経済的暴力に関する課題を中心にお話ししていきたいと思います。

(1)セクシャル・ハラスメント
 まず職場におけるセクシャル・ハラスメントについて説明いたします。皆さんは職場の定義についてわかりますか。一般的には業務遂行場所ですが、通常の就業場所以外でも業務をおこなっている場所であれば職場となります。勤務時間外でも宴会などは実質的に職務の延長と考えられます。ただし、この場合は強制なのか任意なのかが、職務かどうかの判断基準となります。その他、取引先事務所、接待の会食場所、業務移動時の車中、取引先などが職場の定義に入ってきます。また労働者については、正規・非正規関係なく働いている方すべてがこの定義に関わってきます。
 では、どのような行為がセクハラになるのかということですが、3点があげられるかと思います。1点目は「性的な言動」です。性的な冗談、食事・デートへの執拗な誘い、意図的に性的な噂を流布する、個人の性的な体験談を話す、性的な事実関係を尋ねる、性的な関係の強要、身体への不必要な接触、強制わいせつ行為、ヌードポスター等わいせつ図画の配布・掲示などは性的な言動にあたりセクハラとなります。これらは、皆さんも良く知るセクハラの種類ではないかと思います。これは、 Aさんにいわれるのは良いがBさんにいわれると不快だ、逆に、自分は冗談で言ったつもりが人によってはセクハラと感じる人もいます。個人がどのように感じるかということに大きく起因しているため、言動に注意する必要があります。
 2点目は「対価型セクシャル・ハラスメント」です。「対価型セクハラ」とは、職場での地位を利用して性的関係を強要し、拒否した女性社員を解雇するなど、性的言動に対する女性労働者の対応によってその女性労働者を解雇、降格や減給などの不利益を負わせるような行為をいいます。例えば、社用外出に女性社員を同行させ、車中で体に触る、高級レストランで食事後交際を迫る、その見返りとして昇格や昇給を匂わせ、従わない場合は降格や解雇を匂わせるような一連の行為を対価型セクハラといいます。このような場合に、女性が断ったことの報復として解雇されたのであれば解雇権の濫用にあたり、解雇は無効となります。
 3点目は「環境型セクシャル・ハラスメント」です。同僚から意に添わない猥談を聞かされる事によって就業環境が不快になり、能力の発揮に重大な悪影響、就業に支障が生じることです。例えば、水着ポスターや男性雑誌が不快で仕事に集中できず、職場にいるのが居たたまれない状況におかれるなど、対価を要求されないまでもその働く環境で就業がしにくくなるような状況を「環境型セクハラ」といいます。終業後の飲み会でのデュエットの強要、恋人の有無をしつこく聞く、新婚の女性社員に「子どもはまだか」などと聞くことについても一定の配慮が必要となっています。「環境型セクハラ」にしても「対価型セクハラ」にしても、男女雇用機会均等法の規定は努力義務であるため、明確に規制することができないのが現状です。
 このような中、事業主が雇用管理上どのようなことに注意を払わなくてはいけないのかということが重要となってきます。まず、就業規則、社内報、研修の場において事業主がセクハラに対する方針の明確化、周りへの働きかけ・啓発をおこなうことが必要となってきます。また、そのような行為を受けた場合の相談窓口や窓口担当者の設置をすることで、苦情等の相談を受け、解決する姿勢を取っていくことです。起こってしまった場合、事後の確認、適正な措置、再発防止といった対応が必要となってきます。これらの制度を活用することで不利益な取り扱いが起こる可能性もありますので、プライバシーを保護し、同時に全社員への周知・啓発をおこなうなど、事業主が注意を払う必要があります。

(2)様々な不利益な取り扱い・差別
 女性は人生におけるライフイベント時に不利益な取り扱いを受ける可能性があります。妊娠・出産等を理由とする不利益な取り扱いとして、解雇、契約更新の拒否、退職強要、契約内容の変更強要、降格、就業環境を害する不利益な自宅待機、減給・不利益算定、不利益な配置変更、役務提供の拒否などが考えられます。
 育児・介護休業、短時間勤務の取得を理由とした解雇、昇進・昇格の不利益な取り扱いもあげられます。
 性別を理由とした差別に関しては、募集・採用、配置、昇進、降格、教育訓練、賃金等で不利益を被るという事例があります。
 また間接差別とは、制度上では差別的な条件や待遇差は設けていないが、結果的に格差がつくような状況を言います。例えば、募集・採用で身長、体重や体力要件を課す、総合職の採用で全国転勤を要件とする、昇進の際に転勤経験を要件とするなどが間接差別の例としてあげられます。

(3)女性に対する暴力
 暴力というと身体的な暴力を想像されると思いますが、就業における暴力とは様々な種類があります。まずは、身体的暴力。セクハラ、性的な連想をさせる表現・装飾などの性的暴力。威嚇、付きまとい、暴言、侮辱、親権の剥奪などに代表される心理的暴力。経済援助を断つという脅し、財産権の否定、常態的に報酬を与えない家事労働者としての使用、教育へのアクセス拒否、職場における経済的利益と報酬の剥奪などの経済的暴力の4つが挙げられます。これらは、国連、ITUC(国際労働組合総連合)などの国際関連機関では女性の人権侵害に当たるものとして厳しい対応を促しています。

3.労働組合がめざすもの

 連合が掲げる、労働組合における男女平等参画の推進では大きく2点の実現をめざしています。まず1点目は、「仕事における男女平等参画の実現」です。これは男女がともに責任を担い、ともに利益を享受し、1人ひとりがやりがいのある仕事をし、安心して働き続けられる働き方をめざすということから掲げられています。
 2点目は、「男女双方の仕事と生活の調和の実現」です。残業が恒常化し、家事や育児・介護に携わらない働き方を見直し、仕事と生活の調和をめざすことを意図しています。その中で、情報労連は男女がともに働きやすい環境づくりをめざし日々活動しています。

4.男女がともに働きやすい職場環境づくりに向けた取り組み

(1)関連法等への対応
 労働組合は、男女がともに働きやすい職場環境づくりに向けた取り組みを様々おこなっていますが、その1つとして会社に制度導入を求めるため、会社との協議・提言をおこなっています。まず、憲法・男女雇用機会均等法・労働基準法ですが、それぞれの法の主旨をふまえた制度等の導入をめざし労働協約の締結に尽力しています。会社に対しては労働協約をふまえた就業規則の策定を促し、それらをふまえた運用が出来ているかをチェックしています。具体的には、募集・採用、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨、定年、解雇、労働契約の更新、賃金などについての性別を理由とした差別的取り扱いの禁止です。さらに、募集・採用時における性別、身体的理由や年齢、信条、国籍、社会的身分などによる差別的な取り扱いの禁止を呼び掛けています。
 育児・介護休業法に関しても、仕事と家庭の両立を図りながら、充実した職業生活が送れるように、妊娠・出産、育児、介護をサポートし、働く男性、女性とも仕事を辞めずに続けられるような制度づくりをめざしています。労使間での交渉・協議の中で関連した制度の導入をはかり、会社と労働協約を締結し、職場での運用を労働組合がチェックしています。主に産前産後休業・育児休業・介護休業の取得、取得による不利益取り扱いの禁止などを中心にチェックしています。
 次に、次世代育成支援対策推進法ですが、国や地方公共団体の取り組みとともに、従業員が仕事と子育てを両立できる環境をつくるため、事業主も行動計画を策定・実施することを目的としたものです。これにより、従業員101人以上の企業は、行動計画の策定・届け出、公表・周知が義務づけられています。雇用環境整備などに取り組む行動計画を策定し、その目標を達成するなどの一定の要件を満たした場合、厚生労働大臣の認定を受けることができます。
 その他、連合は、仕事や組合活動の見直し、女性組合員比率に応じた女性役員の配置、数値目標などを明記した「第3次男女平等参画推進計画」を掲げています。一方、政府は女性の活躍による社会経済の活性化、男性、子どもにとっての男女共同参画、困難な状況に置かれている人への対応、女性に対するあらゆる暴力の根絶、地域における身近な男女共同参画の推進を企図した「第3次男女共同参画基本計画」を打ち出し、男女がともに働きやすい職場環境づくりに向けた取り組みを推進しています。

(2)男女平等参画推進計画の策定
 男女平等参画推進計画の策定についてNTT労組の例をあげますと、運動目標は、男女がともに「参加し、行動する」労働組合運動の充実・発展と、「仕事と生活」が調和し、いきいきと働き続けられる風土と環境の創造、の2つです。
 具体的な取り組みは、1点目は大会議案に方針を明記することであり、各組織の男女平等参画に取り組む姿勢の明確化、課題の共有化をはかっています。
 2点目は、「労使の場」の設置・定期開催で、男性の働き方、女性のキャリアアップ等について職場実態をふまえた改善に取り組んでいます。
 3点目としては、女性対話会をつうじて、職場の実態把握や女性組合員とのコミュニケーション強化をはかっています。
 4点目は、組合員比率に応じた女性組合役員の配置、女性組合代議員の選出等で、男女ともに共感を得られる組合活動の創造に向け、女性役員の増加・定着に取り組んでいます。
 5点目は、女性代議員の増加、女性組合員比率に応じた代議員数の確保に努め、議決機関における組合員比率に応じた女性(組合役員)代議員の参加をめざしています。
 6点目としては、女性組合役員同士の意見交換を実施し、女性役員のモチベーション向上に向けた論議促進をおこなっています。
 7点目は、組合活動スタイルの転換・検討・実践で、組合役員のワーク・ライフ・バランスが可能となり、女性組合役員が定着しやすい組織づくりをめざしています。
 8点目は、セミナーの実施で、男性組合役員の男女平等参画、ワーク・ライフ・バランス等への意識を高めることをめざしています。
 NTT労組ではこのような取り組みをおこなっているものの、女性組合員の比率が17.1%となっているなかで女性の執行役員は8.4%であり、女性組合員の比率に応じた役員の選出はまだ叶っていません。この比率を高めていくことが女性の働きやすい職場が形成される要素の一つなので、今後一層の努力をしていきたいと思っています。

(3)ワーク・ライフ・バランス ~仕事と生活の調和に向けて~
 仕事と生活の調和に重要なのは、育児・介護関連制度の充実と中期時短目標の達成に向けた取り組みの2点が挙げられます。
 まず、育児・介護関連制度等の充実ですが、法律を上回る制度の導入と運用の充実を基軸として働きかけてきました。その結果、育児・介護、短時間勤務、時間外労働免除、介護休職などは、法律で守られている最低日数を上回る労働協約を締結しています。会社は、法律に定められた最低限度を守ればいいわけですが、仕事と生活の調和を考慮すると、法律で決まっている日数では不十分なため、組合が会社と交渉することによって、どれだけ労働条件を改善していけるかは重要であると思います。
 次に、中期時短目標の達成に向けた取り組みについてですが、労働者の健康確保・仕事と生活の調和に向けて取り組んでいます。その取り組みの一つが年間所定労働時間1800時間モデルです。これは年間365日‐104日(週休2日×52週)‐国民の祝日‐夏季休暇‐年末・年始休暇の240日を、1日7.5時間労働したことを想定した年間労働時間モデルです。それを前提に時間外労働の上限150時間/年を目標に、当面は360時間/年以内を徹底しています。

(4)その他の取り組み
 その他、男女がともに働きやすい職場環境づくりに向けた取り組みとしては4点あげられます。1点目としては、労働組合内および及び対企業への取り組みとして、男女平等参画推進委員会および推進会の設置をおこなっています。2点目は、イクメンプロジェクト、家事支援(料理教室)、国会見学などで、担当役員に対する勉強会をおこなうとともに優良事例などの共有化をはかっています。3点目としては、ハンドブック・パンフレット・ポスターの作成・配布・対話会などで、職場への啓発活動をおこなっています。 4点目は、職場対話会やアンケートをつうじて実態把握に努めています。この4点に加え、職場に合わせた創意工夫をして取り組んでいこうと考えています。

5.おわりに

 最後に、固定的な性別役割分担意識をなくすことの重要性を指摘したいと思います。偏った慣行の見直し、家庭責任(家事・育児・介護等の負担)の分担、職場における配置・業務分担など、職場だけでなく家庭もふくめた、労働者の生活全体について考えていく必要があると思います。
 また労働組合の役割としては、要求だけがクローズアップされますが、政策提言もおこなっていく必要があります。あわせて、現場の声を吸い上げ会社に対するチェック機能を発揮していく必要があります。
 労働組合がなかったらと想像してみてください。労働組合は、会社と対等に交渉できる組織です。男女が働きやすい職場を作るためにも、今後も積極的に活動していく必要があると思います。

以上

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