労働組合とは何か~単組・産別・ナショナルセンターの役割と活動
はじめに~労働者とは
本日は、「労働組合とは何か~単組・産別・ナショナルセンターの役割と活動」についてお話しさせていただきたいと思っています。
労働組合とは何かを言う前に、労働者とは何かという事についてお話しておかなくてはいけないかと思います。労働者とは、事業主と、労働力を対価に賃金契約を結ぶ人のことです。具体的には、公務員や工場で働くブルーカラーの人々などで、賃金を貰って自分の生活をしています。
1.労働組合とは
その労働者に対して労働組合がどのように対応しているのかということですが,労働運動は、「人間尊重」や「自由・平等・公平」の精神を持ち,お互いが助け合い,協力し合って,皆の幸福な暮らしを生み出すために,助け合いの精神・人間愛・ヒューマニズムの考え方から生まれてきました。人間一人ひとりが,お互いを尊重し,助け合いながら,働く者の豊かな素晴らしい人生を創造するために,労働組合は作られました。
もう少し分かりやすく言えば,皆さんが今後仕事に就いた時に、賃金・労働時間・労働環境などに悩みが出てくるのではないかと思います。その時に,1人で企業と交渉するのが1つの手立てだと思いますが,個人の意見ではなかなか会社に聞いてもらえず、不満が募っていくかもしれません。このような時に,1人では聞いてもらえないことや交渉できないようなことを、団体で集まって意見を取りまとめて企業と交渉するというのが労働組合の基本です。そしてこの労働組合は,4つの民主主義を基調の考え方としています。それが,組合民主主義・産業民主主義・政治的民主主義・国際的民主主義の4つです。
まず組合民主主義ですが,これは民主主義の基本は意見の多様化を認め合うことであるということで,話し合いを通じて組合の方向性を決めていくというものです。話し合ったことを取りまとめ,その決定事項をみんなで守っていくのは民主主義の基本ではないかと思います。
次に産業民主主義です。私たち働く者から見れば,最終の目的は豊かな暮らしをすることですが,そのためには企業の安定や発展が不可欠です。企業の健全な発展に向けて,生産性の向上に取り組んだり意見を出し合ったり,経営のチェックをしたり,経営に参加していくということは、労働組合がおこなっていく必要があるものだと考えています。
3つめは政治的民主主義です。社会には、企業だけではできない、いろいろな問題があります。税金や社会保障,環境問題などは、政治や行政への働きかけが必要となります。そこで労働組合は,自分たちの政策をとりまとめるとともに、その実現にむけた活動を通じて、暮らしやすい豊かな社会を作っていくという取組みをおこなっています。連合はめざす政策の実現のために、民主党を支援しております。民主党は,自民党が50年変えることができなかった政策を見直し、あらたな政策を実施しています。労働組合の意見を聞き、政策に取り入れていることは評価できると思っています。
最後に国際的民主主義ですが,日本だけ豊かになって,諸外国が飢餓や貧困に陥ってもいいわけではありません。労働組合は世界各国で働く方々と協力しながら,皆が幸せになっていくという運動もおこなっていく必要があると考えています。
これら四つが民主主義の労働組合の基調の考え方と考えています。
2.労働組合(労働者)に関わる法律
(1)労働三権
労働組合には,憲法28条で守られている権利が与えられています。それが,団結権・団体交渉権・団体行動権の3つです。
団結権とは,働く者は事業主と契約していますが,先ほども申しあげましたように、1人で交渉するのには限界があります。そこで労働組合を結成,加入し団結して事業主と対等な立場で交渉する権利がILO98号の条例,国際的にも組合労働法として与えられています。
次に、団体交渉権ですが,労働組合と使用者あるいは使用者団体が、賃金や労働条件などに関して交渉する権利のことです。賃金や労働条件について,労働協約または賃金協定を、経営側と労働組合の間で結ぶことになります。この時に経営側と、労働組合や組合が委任した交渉機関を通じて交渉できるという権利です。
そして、団体行動権ですが,労働者が労働条件の維持や改善などを求めて,団結して争議行為をおこなう権利のことを指します。この行為を通じて,団結権や団体交渉権を有効にすることができるということになります。現在,春季労働条件改善闘争がおこなわれていますが,ストライキを打つということは,その間仕事が止まり企業にとってはマイナスになるので,経営者は賃金や労働条件を改善する交渉に応ぜざるを得ないということになります。しかし,ストライキの目的はあくまでも雇用の維持,労働条件の維持・改善,そして私たちの生活を向上させることが目的でありますので,政治的な恣意などがないことはご理解して頂きたいと思います。
1つ留意しておかなくてはいけないのは,団体交渉権・団体行動権について公務員は適用除外になっているという事です。しかし最近の動きの中で,公務員制度改革の1つとして団体行動権・団体交渉権を与えようではないかという動きもあるので,今後の動向に注目して頂ければと思います。
(2)労働三法
労働三法として,労働組合法・労働基準法・労働関係調整法の3つが挙げられます。これも憲法27条・28条の規定を受けて制定された労働法の中心的な法律で,働く者の権利を守るために、使用者を法に基づいて制御するための法律です。
労働組合法ですが,労使の対等な関係作りを促進して労働者の地位を向上させること,労働組合を組織して団結する事を擁護すること,団体交渉を通じて労働協約を締結する事を助成するということで,労働組合に自主性と民主制を求めている労働組合法は不可欠です。
労働基準法は,労働者の賃金や労働時間,休暇等の主な労働条件について,最低限の基準を定めたものです。基本原則は,基本条件は労働者と使用者が対等な立場で決定する。労働者の社会的身分や私的信条によって、賃金や労働時間の差別をしてはいけないということです。この基準に満たない就業規則や労働契約は,その部分が無効となり,労働基準法が適用されます。労働基準法のポイントとしましては,労働時間と休憩と休日の関係になります。基本的に法で定められているのは,1日8時間,週40時間の場合,法定休日は1週間で1休日,4週の場合は4休日というように決まっています。この基準を越える場合は,時間外労働や休日労働に関して、きちんと割増賃金を払わなくてはいけないとなっています。また,労働時間が6時間を越えた場合には45分の休憩,8時間を越える場合は最低1時間の休憩を与えなくてはなりません。年次有給休暇については6ヶ月の勤務日に対して80%の出勤があれば与えなくてはならないとなっており,アルバイトの場合も同様です。
次に労働関係調整法ですが,労働三権の公平な調整を図って労働争議を予防し、争議行為が発生した場合は労使による自主的解決を前提に,困難な場合は労働委員会に斡旋,調停,仲裁を求めることができるという法律です。皆さんがアルバイトをやっていて時給がなかなか上がらないなどの問題があった時に,雇用主と話し合っても解決しないということが起こるかもしれません。このような場合,労働委員会に申し入れをし,調整のための働きかけをしてくれるというのが法で定められています。
現在,労働基準法で定められている京都の最低賃金は、1時間当たり749円です。これ以下で働かせてはいけない事が決まっていますので,その場合は労働局に申告し是正を求めることができます。毎年最低賃金は9月~10月に決定しますが,皆さんもご存じのマクドナルドは、最低賃金にあわせて時給を決めているので,興味があれば、最低賃金と時給との関係を調べてもらったらいいかと思います。
3.労働組合への加入は
次に労働組合への加入についてですが,加入の仕方については大きく分けて3つの種類挙げられます。それが,オープンショップ制・ユニオンショップ制・クローズドショップ制の3つです。
(1)オープンショップ制
オープンショップ制とは,使用者が雇用する労働者に対し,特に労働組合員であることを雇用条件にするといったことを決めていないもので,加入は労働者個人に任されているというものです。基本的に、労働組合員とそうでない者との労働条件等の処遇の違いはありません。日本では,公務員の労働組合については,国家公務員法などでオープンショップでなければならないとされています。京都府の職員の方も,労働組合に未加入の方が多数おられるというように聞いています。
(2)ユニオンショップ制
ユニオンショップ制ですが,使用者が労働者を雇用する時,労働組合員であってもそうでなくても構わないが,雇用された労働者は一定期間内に労働組合員にならなければならないとする制度です。日本の大手企業は主にこの体制を敷いています。賃金や労働条件などの交渉の面において,大きな企業ほど個別での交渉は困難なため,ユニオンショップ制で労働組合に加入することは,労働環境の改善などの面において大きな力となっていると思います。
(3)クローズドショップ制
最後にクローズドショップ制ですが,使用者が雇用する労働者は労働組合員から雇用しなければならないとする制度で,労働者が組合員である資格を失った時,使用者はその労働者を解雇することになるといったものです。ただし、この制度は産業別労働組合が存在する国々に見られるもので,なかなか日本では見られないやり方です。
(4)その他
プロ野球選手などの個人事業主が労働組合を結成することもできます。先日起こりました東日本大震災の影響で、開幕の時期をどうするかという話題が上がっていました。阪神の新井選手がプロ野球の組合の会長として「開幕を遅らせるべきである」という意見を経営者に主張していました。これは1つ,労働組合の力を示した例であることをご理解いただきたいと思います。
4.労働組合の種類と役割
労働組合の種類と役割という事ですが,企業別労働組合(単組)・産業別労働組合・ナショナルセンターというものがあります。図1の下から順に見て頂いた方がわかりやすいかと思います。
(1)企業別労働組合
まず企業別労働組合ですが,またの名を単位労働組合といいまして、略称で単組と呼ばれています。日本では企業別で労働組合が組織されているので,労使協議や団体交渉においてもまとまりやすく,組合員の身近な活動も盛んにおこなわれているので,企業の状況変化や経営スタッフの変化にも素早く対応できます。パナソニックの例ですが,私は半導体部門の出身です。半導体部門は業績が非常に悪く、前年度比マイナス1000億円というのが昨年度の収支状況でした。これを受けて,賞与もかなりダウンさせられるのではないか、という話がありました。パナソニックの平均賞与が4ヶ月強位ですが,半導体部門は4ヶ月ギリギリ位になるだろうということでした。このように1つの企業別組合の中で条件が違ってきたりしますので,その都度,経営側と話し合いながら物事を決めていくというのは単組の大きな役割であると思います。
(2)産業別労働組合(単組)
2つ目に産業別労働組合,略称で産別と呼ばれているものです。単組はそれぞれの企業内においてさまざまな役割を担っていますが,産業全体や社会全体の活動に関しては力を発揮するのはなかなか難しい面があります。そこで産業全体の賃金,労働時間の改善に努めるのが産業別労働組合という事になります。電機連合の話をしますと,いろいろな電機メーカーでそれぞれ単組がありますが,同じ電機業界で賃金や労働時間など基本的な労働条件を決めていこうではないか,そして電機産業としていろいろなことができるのではないかということを考えております。一例ですが,今年の春闘で賞与についての交渉時,電機連合の統一要求は4ヶ月でありました。それを受け,「単組は最低4ヶ月の賞与が支給されるように企業側と交渉して下さい」と電機連合は決めました。結果,労働組合が電機連合に加盟している企業は,余程のことがない限りは4ヶ月を守るということになりました。先ほど話しましたパナソニックの半導体部門も、経営状況は良くない中であっても,4ヶ月賞与を出したという事です。これらが産業別労働組合の大きな役割ではないかと思います。もちろん,雇用の安定確保といった面など,一単組では交渉が進まないような事象は、産業別労働組合が行う大きな役割であると思います。
(3)ナショナルセンター
3点目のナショナルセンターですが,日本で言えば連合が産業別労働組合の集まり,それがナショナルセンターになると考えて下さい。これは企業や産業の枠を越えて結集した組織で、労働者全体の労働条件の方向性を打ち出したり、政策の産別間の調整や、産別にたいする支援をおこなう組織です。また政治,経済や社会の諸問題について,働く者の立場に立って考えていく組織です。この京都の中でも,約9万3000名の組合員と一緒に、いろいろな政策を進めています。東日本大震災時も,企業・産別の枠を越えてボランティア活動をしていこうとなりましたが,これもナショナルセンターがおこなう役割の一つであると思います。このように企業内・産業内だけに留まらず、全体を含めた政策を考えています。京都の話をしますと,京都府の年間予算は約7000億円,その中で生活保護予算が871億円ですが,働ける人には働いていただかないと、生活保護予算をオーバーしてしまうことになります。現在ナショナルセンターとしてはこれをどのように改善していくべきか,どのように働いていただくかということを中心に取り組んでいます。
国際的な取り組みについてはどうかという事ですが,国際労働組合総連合会(ITUC)という国際労働組合組織があります。2006年の11月に、それまであった8つの国際労働組合組織が合併したもので,世界で154の国や地域,約1億6800万名の労働者が加盟しております。ここではILOやOECDに対して発言をし,各国首脳によるサミットへ意見を反映させるなど,世界の政治経済活動に対する意見表明や,交渉などをおこなっています。
5.労働組合の組織図
(1)組織図・経営
図2の組織図は産別の組織図ですが,単組もナショナルセンターも基本的には同じ組織機構です。一番上に定期大会と書いてありますが,電機連合の最高決議機関であり,役員と大会代議員および評議員で構成されます。大会は2年に1回,「組合の加盟承認と加盟組合の脱退」「運動方針」「規約・規程の改廃」「決算および予算」「役員の選出」などが決定されます。
その下に中央委員会というのがありますが,定期大会に次ぐ決議機関であり,役員と中央委員および評議員で構成されます。中央委員会は年に1回開かれ,「組合の加盟承認と加盟組合の脱退」「闘争方針および活動方針」「規程の改廃」「中間決算報告および予算の補正」「役員の辞任および補充」などが決定されます。
代表者会議は中央委員会に次ぐ決議機関であり,役員と直加盟組合代表者および評議員で構成されます。代表者会議は3~4ヶ月に1回おこなわれ,大会または中央委員会より付議された事項に限り討議することができます。電機連合の代表者会議は14組合から形成されており,産業別の労働組合の方針を決めています。これらの流れを受けて,中央執行委員会が決定事項をおこないます。
これは電機連合の話ですが,単組であれば単組の定期大会や中央委員会などが開催されており,ナショナルセンターも同様です。今のお話を聞いて頂ければご理解頂けたと思いますが,労働組合の決定事項はトップダウンでおこなわれるものでなく,上の機関で決まった事を、下の機関で組合員の声を聞きながら吟味した上で実行に移されているということです。
(2)組合費
組合費について,企業別組合・産業別組合・連合のそれぞれでどのように使われているのかでしょうか。図3を参照してください。企業別組合では1人平均5107円組合費を納めていただいています。企業別組合における組合費は,労働条件,職場環境の改善などのために使われており,図のような振り分けとなっています。人件費とありますが,企業別組合の専従役職員は,企業から給与を貰うのではなく組合費から払われているために、人件費が発生します。上部団体関係費というのは、企業別組合の場合であれば産業別組合に上納するといった形で使わせていただいているものです。
企業別組合の組合費の約13%が産業別組合の組合費で、1人平均にしますと510円となります。産業別組合は,産業政策の実現などのために組合費を使っています。企業別組合と数字は違いますが,使い道は同様となっており,産別組合費のさらに23%程が、上部団体である連合の組合費に充てられます。
連合は,1人当たり85円の組合費で、「安心」「安定」「安全」の社会づくりのための活動費等を進めています。1人当たり85円というのは少ないように聞こえますが,組織全体で、組合員が約650万名ですので、膨大な財政になるということは想像できるかと思います。詳しい内訳は下記の図を参照していただければと思います。
6.日本の労働組合の現状
日本の労働組合の組織率は18.5%で、就業者の約5人に1人という割合となり,組織率を上げていく必要があるかと考えています。未加入者の大半はパート・派遣・契約社員や中小・地場産業で働く人達で、京都の場合も労働者の97%は中小企業で働かれる方達で,なかなか労働組合に入っていただけていないというのが現状です。その中で,最低賃金,パート・有期契約労働者の均等処遇をめざして、春闘やその他の取り組みを行い,労働組合の意義を理解していただこうと活動をしています。
7.連合京都の取り組み
雇用については,現在は完全失業率が約5%,東日本大震災の影響もあり、就職に関してはますます厳しくなることが予想されます。そのような状況下で、連合京都は3~4年前に、京都府と経営者協会と協力して「京都ジョブパーク」というものを設立し就職支援をおこなっています。そこでは面談をおこない個人の適性診断を行い,その方に合った仕事を斡旋しています。年に3000名強,3年間で約1万名の就職支援をおこないました。これは京都には,雇用に協力的な経営者の方が多いことにも起因している事と思いますし,連合京都としてもこの雇用の部分に一番力を入れて活動しています。
その他にも,地域に根差した顔の見える連合運動ということで,各市町村に政策提言をしています。京都は観光地が非常に多いのですが,京都に住む小学生には、地元の観光地について知らない子どもが多く存在しました。そこで,各観光地の周辺に住む小学生に、遠足などで観光地に出向かせて,その周辺の道案内ができるようにしていこうという提言をおこない,各地で協力して頂きました。このように少しでも京都が良くなるために,連合で何ができるかということを考えた活動もしています。
また,社会の安心・安定のための労働組合の存在感を高めるということですが,組合の組織率が約18%ということで,非正規労働者の人たちをどのように取り込んでいくのかということが課題になっています。そこで昨年,非正規労働センターを立ち上げ、労働相談を中心に色々な形で活動しています。
おわりに
連合は,民主党を支援していますが、民主党がわれわれの要求をすべて取り入れてくれるとは思っていません。しかし,みなさんがより良い生活をしていくための施策を提言していきたいと思っています。そのためには,連合は、日本のこれからの安心・安全・発展に繋がっていくことを考えながら,活動していく必要があると思っています。
現在,連合はこれからの社会像を「働くことを軸とする安心社会」と定義しています。このような定義にもとづいて、活動を進めていきたいと思います。
以上
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