地域での連帯を
~防災活動、地域福祉、ワーク・ライフ・バランスについて~
はじめに
本日は、「地域での連帯を」というテーマでお話させていただこうと思っております。副題を見て頂ければ分かる通り、防災活動からワーク・ライフ・バランスまで幅広い事柄についてお話していきます。また、まだ実際に働いておられない皆様には、労働組合の活動について、イメージがわかないところもあるかと思います。ですので、本日のお話を通して、労働組合がおこなっている運動内容について少しでも皆様に分かっていただければ、大変うれしく思います。
まず、私の自己紹介を簡単にさせていただきます。連合大阪の事務局長というと、皆様どこか大きな組合から派遣されていると思われるかもしれませんが、私は、大学を卒業後、従業員が50人から60人ほどの会社に就職しました。そこで働いていて感じたことは、職場において労働者の権利がほとんど守られていない、ということでした。そこで、労働者の権利がきちんと守られるような職場にしていくために、多くの方々の支援をいただいて、労働組合を作りました。労働組合を作り、職場の仲間と団結して、会社と交渉していこうとしたわけです。
ただ、労働組合を作ると簡単に言いましたが、実際に作ろうと思うと大変な困難に直面します。例えば、事前に労働組合を作ろうとしていることが、会社側に知られでもすれば、会社は阻止しようとします。ですから、一言で労働組合を作って労働者の権利を守ると言っても、労働組合が無い職場に、労働組合を作ることは、簡単なことではありません。
私のいた職場では、労働組合を作ったわけですが、発足当時の執行部の平均年齢は、24.6歳でした。皆さんとあまり年齢の変わらない、大学卒業後すぐの若い世代が中心となって作られた、労働組合だったと言えます。
このように、会社に入り、より良い職場を実現するために労働組合を作ったのが、初めての労働運動でした。そして、現在、連合大阪の事務局長として、働いています。
1.労働組合の役割
(1)組織
図表 1
まず、労働組合の組織について説明いたします。図表1は組合の組織図です。労働組合では、よく「縦と横」という言葉を使うのですが、まず「縦」についてお話します。真ん中に連合とありますが、これが労働組合のナショナルセンターです。その下に、54の産業別労働組合があります。そして、その下に単組と呼ばれる企業別組合があります。この連合、産別、単組と言う流れを「縦」のラインと呼んでいます。
それぞれの組合について少しだけ解説しておきますと、まず、単組は、企業の経営側と団体交渉をおこなうことで、企業内の職場の改善に努めています。運営が企業単位ですので、きめの細かい世話役活動がおこなえますし、企業経営の動きにも敏速に対応することができます。その反面、社会的な企業を超えた連帯という面では、影響力を発揮しづらい面もあります。このように、良い面と悪い面がありますが、日本において、単組は、労働組合の基礎であり、最も重要なレベルだと言えます。
次に、産業別組合ですが、これは、同一産業内の単組の結集体です。企業を超えた組織ですので、単組よりも社会的な影響力を発揮することができます。ここでは、主に、統一賃上げ要求の作成や産業政策の立案をおこなっています。
その上であるのが連合で、これは、産業別組合の連合体であります。ここで、労働運動の大局的な方針を提示したり、そうして提示した活動の全国的な展開をおこなうことが、主な役割であります。組合員は、約680万人となっています。
この縦のラインに加えて、連合から地方連合会へ、地方連合会から地域協議会へ、そして、地域協議会から地区協議会へと繋がっているこのラインがあります。これが、横のラインと呼ばれています。私が所属している連合大阪は、この横のラインの地方連合会の一つであります。この単位は、何を組織しているのかと言いますと、産業別組合の地域組織(例えば連合大阪なら、電機連合の大阪地方協議会等)で構成されています。これは47組織あります。
地方連合会の中で、さらに地域毎に分かれた地域協議会という組織があります。例えば連合大阪なら、北大阪地域や南大阪地域等に分かれています。
このように「縦」と「横」があるのですが、今日、お話するのは、「横」の話です。「横」
がいかに労働組合だけでなく、地域の様々な人達と連携して活動しているのか、ということを中心にお話していきます。
(2)労働組合3機能論
その前に、少し労働組合3機能論についてお話しておきたいと思います。これは、私が会社で労働組合を作る時の教えてもらったことなのですが、まず、一つめは、労働条件の改善です。自分達の労働条件を向上していくために、労働組合を作り、団結することで交渉力を高めていく。これは、現代の労働組合の最も基本的な機能だと言えます。
二つ目は、共済・相互扶助の機能です。元々労働組合が発足した理由は、共済を通して仲間を助け合うためでした。現在においてもこの共済活動・相互扶助の機能は、労働組合の果たすべき大きな役割の一つであります。
最後の三つめは、政治活動です。世の中には、職場単位の活動だけでは、解決できない問題が山積しています。例えば、労働法の改正や社会保障制度の改革は、職場での取り組みのみでは、実現することは出来ません。こうした課題に対して、労働組合の考える政策を実現していくためには、より組合に近い政策を持った政党と協力していかなければなりません。ですから、自らの考える政策を実現していくための一つの手段として、政治活動は重要な活動だと言えます。
2.地域における連帯の意義
本日の本題に入っていきたいと思います。労働組合は、賃上げ交渉等のことだけをおこなっていれば良いというわけではありません。組合以外の他団体とも連携を深め、広く社会連帯の輪を拡大していく運動を展開することも、連合の重要な仕事です。
(1)なぜ必要なのか
①共助から自助と公助へ
しかし、なぜ賃上げ交渉以外のことをおこなっていかなければならないのでしょうか。この点について、少し触れておきたいと思います。20世紀終盤以降、特に日本が豊かになって以降、働く人の間の共助、つまり助け合いの機能が弱まり続け、共助から自助と公助に分解されてしまいました。自助とは、自分のことは、自分で守るということを意味しています。経済が豊かになり、人々の賃金も上がっていく中で、組合の力を借りずとも、自らの生活は自分で守っていく、という風潮が、社会の中に広まりました。
一方で、公助とは、国が人々の生活を助けることを意味しています。日本が経済成長を続けていた時代は、税収も上がりますし、国にも余裕がありました。そうした条件の下、社会保障制度等の公助が充実していきました。
このような結果として、共助という考え方は、どんどん弱まっていき、代わりに自助と公助という考えが、社会に定着していきました。そうした流れの中、2000年以降台頭してきたのが、市場万能主義と呼ばれる考え方でありました。労働市場の規制は、緩和されていき、自己責任という考え方も広まっていきました。そうした市場万能主義がめざしたのは、個人の自己責任をベースにし、国や自治体が最低限の保障だけ担えばいいという社会でした。
②共助の再構築へ
しかし、こうした社会は、本当に望ましい社会なのでしょうか。私達はそうは思っていません。市場万能主義の下で進められる規制緩和は、労働者の生活や生涯のリスクに対する公助の仕組みを劣化させることになりました。格差社会や年金不信といった言葉は、日本における労働条件や公助の劣化を良くあらわしていると思います。
そうした問題を解消していくためには、家族依存、企業中心という考えから脱却し、国や自治体の役割を明確にする(公助の再構築)と同時に、企業や家族という枠組みを越え、公助の補完にとどまらない、もっと地域に開かれた支えあい基盤をつくりだしていくことが必要だ、と私達は考えています。
(2)新たな共助を構築する
図表2は、人の生涯と生涯福祉(公助、共助、自助)の関わりを図示したものです。これまでの日本は、矢印の下の部分を通して、公助や共助をおこなってきました。ここでの特徴は、現金給付によって、生涯福祉を充実させてきた、ということです。
私達がめざしているのは、この生涯福祉に、矢印の上側の公共空間と書かれているところを追加することにあります。組合員のみならず、地域にいる人たち全員で手を取り合い助け合っていくような社会を作っていくことが、いま求められている、と私達は考えています。具体的には、就業機会の創出等の社会サービスをおこなっていくことや、ソーシャルキャピタルを構築し充実させていくことが、ここでめざしていることです。
図表 2
(3)地域で労働組合が果たす役割
①労働組合
先ほど申し上げました通り、労働組合の持つ重要な機能の一つが、相互扶助です。労働組合は、労働金庫・全労済などの相互扶助制度とともに、約680万人に上る豊富な人材とそれらの人達が構築してきた様々なネットワークを持っています。
こうしたネットワークを用いることで、これまでも労働組合は、労働者自主福祉を行ってきました。やや堅苦しい言葉ですが、労働者自主福祉とは、簡単に言えば、労働者の「助け合い」の仕組みのことです。労働者自主福祉は、生活の現場から発生するニーズに基づいて、「助け合い」の仕組みを構築していきます。そのメリットは大きく二つあります。一つは、公的福祉に対して先導的役割を果たせることです。公的福祉をおこなうためには、法律を作り全国一律でおこなっていく必要があります。そのため、制度の公平性の確保や、制度自体の整備に多くの時間と労力がかかります。その点、自主福祉は、仲間が困っていることに対して、迅速に対応していくことができます。そうして自主的に作られた制度が、もし、全国民に必要ならば、公に全国的に広げていくことになります。ですから、労働者自主福祉は、公的福祉に対して先導的役割を果たしていると言えるでしょう。
もう一つは、公的福祉では充足できない相談、仲間作りと言った、いわゆるソーシャルキャピタルの分野でも活動することができることです。このように、公的な制度ではカバーしきれない部分に対して、自主的に作ったネットワークを通して対応することが可能な点が、労働者自主福祉の持つもう一つのメリットだと言えます。
②これまでの労働組合の限界
しかし、これまでの企業別で、かつ正社員中心の労働組合と産業別組合による地域自主福祉は、限界にきています。その理由は、最も支え合いを必要としている人達が、そのネットワークからはこぼれ落ちてしまっているからです。ですから、これからの労働組合は、自分達のメンバーのみならず、全ての働く人の拠り所になる必要が今こそあるのです。このことは、組合員を増やしていくこと、すなわち組織拡大とも密接な関わり合いを持つものです。全ての労働者の拠り所になるような地域自主福祉を作っていくことと、組織拡大は、完全に連関しあっているとまではいかなくても、重なり合っている部分が多いと言えるでしょう。
③具体的に果たそうとする役割
図表2に既に書いてありますが、雇用を促進することやソーシャルキャピタルを構築していくことが、果たすべき主な役割となります。雇用の促進をおこなう理由ですが、日本では、雇用が生活のベースとなっているからです。ベースが揺らぐと、生活全体が揺らぐことになりますので、皆様が生活していく上で、雇用問題は、特に重要な問題なのです。
こうしたことに加えて、労働組合ではおこなえない分野については、組合以外の団体と協力して、活動していくことも必要です。つまり、労働組合が全てを担うのではなく、ネットワークの一つとして活動していくことが、これから必要になってくると考えています。いうならば、労働組合が、それぞれの団体の橋渡し役になる、というようなことを考えています。このように、労働組合が橋渡し役となり、地域の様々な団体を通して作られるネットワークを、我々はライフサポートセンターと呼んでおり、このライフサポートセンターを通して共助を再構築していこうとしています(図表3)。
図表 3
地域における助け合いの担い手を示したのが図表4です。労働金庫、全労済、生活協同組合、NPO、労福協の五つを通して、おこなっていこうとしています。
図表 4
これらの団体を繋ぎ合せ、地域の助け合いの拠点を作ろうということです(図表5)。
図表 5
3.これまでの活動の諸相
以上、連合がめざしている方向性というものを、お話してきました。次にいくつかの具体的な活動を紹介していきたいと思います。特に近畿地方の二府四県でおこなわれている、もしくはおこなわれてきた事業をご紹介していきたいと思います。
①被災者支援
地域連合は、被災者支援活動を積極的におこなってきました。地震や豪雨による災害の際に、全国からボランティアを募ったり、募金活動をおこなうことで、被災者支援を進めています。また、日ごろから災害に備えてボランティア活動がスムーズに進むようにするための連絡会を、行政と協力して構成し、ボランティア活動を支援しています。こうしたサービスは、安全な地域社会を実現していく上で、非常に重要な活動だと考えています。
②障がい者雇用支援
労働組合は、障がいの有無にかかわらず、「働く」ということは、人々の持つ権利だと思っています。全ての働く人が、「働く」ことから疎外されないようにするために、連合は活動しています。代表的な活動としては、連合奈良は2008年にライフサポートセンター内に「さくら倶楽部」という、障害者事業所授産商品の販売を行う倶楽部を作りました。また、解雇や待機を命じられた障害者を、さくら倶楽部で雇用するとともに、障害者の雇用条件改善のための活動もおこなっています。
③環境保全活動
これが労働組合の活動と言われると疑問に感じられるかもしれませんが、地球規模で問題となっている環境問題についても、社会サービスの一つと位置付け取り組んでおります。代表例をあげると、連合和歌山での森林保全活動や、連合滋賀での琵琶湖クリーンキャンペーン等であります。
④公労使連携して地域で雇用を
皆さんがご存じのものとしては、ハローワークがあると思います。ハローワークに加えて、京都では、「京都ジョブパーク」という、公労使で連携し、雇用を作っていく取り組みもおこなっています(図表6)。これは、組合だけでなく、企業にも、セミナーや研究への講師派遣や、職場実習受け入れなどを通して、協力してもらっています。こうした活動は、京都だけでなく、大阪でも実施しております。
図表 6
基本的なスキームは、図表6のようになっております。図表6の矢印にありますように、ハローワークの前段階で、公労使が協力して、就業のための支援をおこなっております。
⑤ワーク・ライフ・バランスを推進
ワーク・ライフ・バランスを推進するための活動もおこなっております。ワーク・ライフ・バランスを推進していくことは、連合にとって重要な課題の一つであります。これは、単に労働時間を短縮し、企業の効率を上げていくということのみを目的としているのではなく、人としてより豊かな生活を送れるようにしていくために、おこなっている活動です。ここでも政労使が協力して進めています。例えば兵庫では、「ひょうご仕事と生活センター」というものを作り、勤労者と経営者がそれぞれ抱えている問題の解決に取り組んでいます。
⑥連合大阪の取り組み
最後に連合大阪の取り組みについて触れたいと思います。
(ア)キッズ職場見学会
連合大阪では、子供たちに働く現場を体験してもらい、労働に対する意識を持ってもらうことを目的に、「キッズ職場見学会」を毎年開催しています。下の写真は、「キッズ職場見学会」の一部です。
このように実際の仕事現場に子どもたちを派遣し、実際の仕事というものを体験してもらっています。また、体験が終わった後に、働いている人達と交流してもらい、仕事の誇り等を子どもたちに教えています。
(イ)「大阪希望館」事業との連携
この事業では、仕事や住まいを失ってしまった人達に対する支援として、一時的な宿泊施設を提供しています。公的セーフティーネットを受けるためには、申請し審査を受ける必要があります。失業して住まいを失った人たちに、公的セーフティーネットを受ける間までのタイムラグを埋める臨時的緊急的宿泊施設として、利用してもらっています。宿泊施設の提供に加えて、入館所中には、医療受診、健康相談、就労相談、教育訓練相談、福祉生活相談、法律相談等も実施しています。
おわりに
私達のめざしている社会は、「労働を中心とする福祉型社会」です。それを実現するために、労働組合は、地域に拠点を置き、様々な団体と協力しながら、全ての働く者の拠り所となるような存在となるべく、様々な活動をおこなっているということを、ご理解いただければと思っております。
今日のお話が、皆様自身が、「働くということ」について真剣に考えることのきっかけになるとともに、共助の仕組みを作り上げていく社会の一員になってもらえることに繋がれば、と思っております。ご清聴有難うございました。
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