同志社大学「連合寄付講座」

2010年度「働くということ-現代の労働組合」

第8回(6/4

グローバルな問題の解決にむけて
~地球環境問題、平和活動について

山口洋子(連合副事務局長)

1.「働くということ」と環境問題・平和運動

 本日の講義は「グローバルな問題の解決にむけて」というテーマで、とくに地球環境問題、平和問題等についてお話しさせていただきたいと思います。
 前回までの講義では「働くということ」に焦点をあてて、労働組合の取組みについて講義を受けてきたと思います。それに対し、本日の講義では環境問題、平和運動について取り扱います。これらは労働とは直接関連がないので、「なぜ、労働組合がそのような課題に取り組んでいるのだろうか」と疑問をもたれるかもしれません。はじめに、この点についてお話しさせていただきます。
 確かに、私たち労働組合は「働くということ」を全ての中心に置いています。すなわち、働くことによって生計を立てる、働くことによって社会に貢献する、働くことによって家族を構成する、と言うように「働くということ」を中心とする社会を念頭において運動を進めています。しかし、「働くということ」を中長期的に続けていくためには、いくつかの前提が実現されていなくてはならないと思います。
 ひとつは、この地球、すなわち私たちが毎日生活している社会が持続可能でなければならないということです。つまり、この地球なり社会なりがあと数年で消え去ってしまうのではなくて、「未来永劫、存在し続ける」と言う「安定」の確保が前提としてなければ、私たちは「働くということ」に専念できないということです。
 もう一つは、上の話しと同様に、いわゆる「戦争のない社会」でなければ、「働くということ」もできないということです。上の環境問題との違いは、働く安定の確保に向けてのベクトルが過去、現在、未来のうち、どの方向にむいているかの違いです。すなわち、環境問題では、「未来永劫、労働が持続できるかどうか」と言うように、「将来」にむけての話しが中心でしたが、平和運動の場合、「私たちの過去の経験、もしくは現在、世界中の仲間が経験していることからも、平和でなければならない」ということで、「過去」、「現在」を対象にしています。
 そうした違いはともかく、いずれも労働組合活動としてはやや異色な取組みであり、一般にはイメージしづらい領域かもしれません。しかし、これら環境保全、平和を射程においた取り組みなしには、「私たちの人生および毎日の生活についても全うできない」という視点に立てば、労働運動にとってきわめて重要な取組みだと思います。

2.連合の「政策・制度」の概況

(1)政策提言アプローチと活動アプローチ
 「環境問題・平和運動に連合が取り組んでいます」と一言で申し上げましたが、その取組み方には二通りあります。ひとつは、「(連合の)政策・制度 要求と提言」です。連合は2年に1回、この「政策・制度 要求と提言」を冊子にしてまとめています。この分厚い政策集の中には、さまざまな政策・制度について連合の求めるものがまとめてあります。この冊子にもとづいて、政府に対して「私たち連合が考える『政策・制度』を実現してください」と要請しています。
 もう一つの取組みは、私たち労働組合員一人ひとりが運動を通して実現をしていくということです。
 これら二つの視点に立つことによって「政策・制度」の実現にむけて取り組んでいます。

(2)「政策・制度」の策定過程
 さて、「政策・制度」は策定されるまでにどのような過程を経るかということですが、先ほど、「政策・制度は2年に1回、冊子にまとめている」と説明しました。しかし、これは中長期の「政策・制度」が中心です。それだけでなく、1年単位の、短期の「政策・制度」も合わせておこなっています。この短期の「政策・制度」は「その年度で重要な事項は何か」について、1年程度かけて洗い出し、優先順位を明確にして、それを政府に要請するものです。
 2009年8月の政権交代以前は、連合の政策の要請先は、当時の政権与党である自民党でした。自民党幹事長をはじめとした方々に、「連合が考えることはこういうことで、実現してください」と要請に行きましたが、自民党の対応は「いちおう聞いておきましょう」というレベルにとどまり、なかなか私たち連合が求める政策の実現はできませんでした。しかし、自民党から民主党への政権交代以降は、民主党には、以前から連合の「政策・制度」をよく理解していただいていたということもあって、連合の「政策・制度」がより実現可能なものになってきました。その分、政策要請をおこなう際には非常に重い責任を背負うようになったのは事実です。

3.連合の「環境政策」―くらしの安心・安全の構築―

 このようにして策定される「政策・制度」の中に、先ほど申し上げた環境問題および平和活動についての「政策・制度」も入っています。以下、この節では環境政策を、次の節では平和運動を扱います。

(1)環境政策における重点目標
 「持続可能な社会の実現」のために連合が求めていることはどういうことでしょうか。2010年度時点で環境政策として政府に要求しているのは次の6つです。

  • ①改定「京都議定書目標達成計画」に基づき、温室効果ガス排出1990年比6%削減を確実に達成する。
  • ②2013年以降の「ポスト京都議定書」に向け、温室効果ガス排出削減、気候変動対策、低炭素社会づくりに有効な施策を検討する。
  • ③「グリーン・ジョブ」に関する政策を推進する。
      *2007年6月ILOが提唱した環境と雇用・労働に関する新しい概念
  • ④環境と経済の両立に向け、企業の環境対策を推進するため、環境対策に関連した技術・事業・産業の育成・支援を強化する。
  • ⑤環境対策分野における国際協力活動等国際的な環境対策を強化する。
  • ⑥「自然と共生する社会」の実現に向け、自然環境の保全、「水基本法(仮称)」の制定、森林整備の強化、生物多様性の確保等を推進する。

 六つの要請のうち、連合が一番期待しているのは、①の「温室効果ガスの排出1990年比6%削減」です。この「6%削減」はいわゆる「京都議定書」で策定された目標で、そこには「目標達成計画を着実に達成する」という意味が込められています。
 つい最近、「地球温暖化対策基本法」という法律が「強行採決」で通過しました。これは前首相の鳩山総理が主張していた「温室効果ガス削減25%目標」を具体的に構成したものです。しかし、これは政府の方針であって、連合の環境政策の中には具体的に「25%削減」ということは明示していません。25%削減と明示せずに、当初目標の「1990年比6%削減」を目標においています。つまり「25%(削減)まで日本が一気におこなっていいのか」ということについては、必ずしも民主党の考えと連合の考えが一致しているわけではないということです。しかし、そうした多少の違いがあるものの、連合の考えの多くは、上記「対策基本法」の中にも盛り込んでいただいたので、連合の政策はより実現可能なものになったと思います。

(2)目標達成にむけての活動(2009年度の例)
 このように政府に対して申し入れをおこなっていますが、それだけで自動的にその達成が保証されるわけではありません。まずは具体的に自分たちで行動をとらなくてはいけません。そこで、「取組の内容」と「参加者」、つまり、「どのような活動」に対して、「誰」が取り組むのか、ということを、マップにしています(図表1参照)。
 このマップの縦軸に(ア)「取り組みの内容」があり、横軸に(イ)「参加者」が記載されています。以下では、「2009年度の取り組み」を例にとり、(ア)の取り組みの内容を中心に紹介しましょう。

図表1 2009年度の取り組み
<取組の内容と参加者>
※○印は、各組織・組合員が可能な範囲で取り組むことを想定

  連合本部 構成組織
(産別)
地方
連合会
加盟組織
(単組)
組合員
(家族)
①環境にやさしい10の生活
②食物廃棄・ロスの削減
③グリーン購入
④エコロジーペーパー  
⑤グリーン電力証明書  
⑥エコスタイル、室内温度
⑦チーム・マイナス6%
⑧マイエコバッグ
⑨エコ通勤
⑩植林、クリーンキャンペーン  
⑪学習会・勉強会・視察  

 

(ア)2009年度の取組み内容
 2009年度は11の取り組みが設定されました(図表1)。具体的には、①環境にやさしい10の生活、②食物廃棄・ロスの削減、③グリーン購入、④エコロジーペーパー、⑤グリーン電力証書、⑥エコスタイル、室内温度、⑦チーム・マイナス6%、⑧マイエコバック、⑨エコ通勤、⑩植林、クリーンキャンペーン、⑪学習会・勉強会・視察、の11項目からなっています。

①の「地球(環境)にやさしい10の生活」は、「連合本部」の中でも実施しています。例えば連合内部の温度設定は、夏は28度で、冬は20度。以前は26度でしたが、「1度上げると、温室効果ガスの削減の効果が高い」ということで、どんどん上げてきたという経過があります。⑨の「エコ通勤」。これは都心では採用されていませんが、地方の組合の人達はマイカー通勤をやっていますので、それを自転車に代えようとか、乗り合いで通勤しようといった取り組み等をおこなっています。
②の「食物(食品の)廃棄・ロスの削減」という項目も、①の「環境にやさしい10の生活」の中に入っております。皆さんご存じのフード・マイレージ(食料の輸送距離)という言葉をお聞きになったことがあると思います。すなわち食料の多くを外国から輸入に依存しているのにもかかわらず、国内食料消費の60%も廃棄をしているという現状に対して、食べ物を無駄にしないということです。また、この点にかかわって、「地産・地消」を実施し、自分達で作ったものはその土地で消費していこうという取組みもおこなっています。

(イ)参加者と任務分担
 次に、上に述べた11項目に及ぶ取組みは、だれが担うのかということです。
 図表1の横軸の「参加者」の欄をみると、①連合本部、②構成組織(産業別労働組合のレベル)、③地方連合会(連合は47都道府県全てに地方組織が設置されている)、④加盟組織(上に触れた産別組合を構成している企業内組合=単組)、⑤組合員とその家族等が記載されています。したがって、この横軸の「参加者」の欄を、上に述べた縦軸の「取り組みの内容」の欄と合わせてみれば、これらの参加者それぞれが何を頑張る必要があるのかが一目でわかる仕組みになっています。
 たとえば上記(ア)の箇所で触れた「グリーン電力証書」のケースでは次のようです。私たち「連合」はもちろんのこと、「産業別労働組合」が大会、もしくは集会を開催すると、だいたい数百人規模の会議になります。そこで、会合を開く際には「連合」や「産業別組合」が率先して「グリーン電力」を使うようにしています。つまり、これら上部団体が電力を使う場合、できるだけ「グリーン電力」(*1)を購入して、それを使うように心がけています。「グリーン電力」を使うと、確かに「グリーン電力を使いましたよ」という証書が授与されます。
 以上、地球環境問題について触れました。次に、平和運動への取り組みについてお話しをしたいと思います。

*1 風力発電、太陽光発電、水力発電など自然エネルギーを利用して発電された電力)
*1 風力発電、太陽光発電、水力発電など自然エネルギーを利用して発電された電力)

4.連合の「平和運動」―平和問題へのかかわり方―

 私たちは日々、何気なく生活を送っていますが、実は「平和」であるからこそ「安心して仕事をする」ことができ、「安心して生活を送る」ことができるのです。つまり、「平和」が「働くこと」「生活すること」には不可欠だということをしっかり自覚する必要があります。そうした課題の本質的理解に立って、連合が今、取り組んでいる課題は次の3つです。①「核兵器廃絶による世界の恒久平和の実現と、被爆者支援の強化」。次いで、今、非常にホットな話題であります、②「在日米軍基地の整備縮小、日米地位協定の抜本的見直しに向けた運動」。③「北方領土の早期返還と日ロ平和条約の締結をめざす運動」、の3つの課題に取り組んでいます。
 これら一連の課題に取り組むと言っても、「労働組合はどこまでかかわるのか」と疑問をもたれる方がいるかも知れません。この運動を実りあるものにするために、核廃絶や米軍基地縮小、北方領土返還などにただ漫然とかかわるのではなく、期間を限定して、特にその期間だけは集中的に取り組むようにしています。具体的には、(ア)6月下旬には沖縄。(イ)8月上旬からは広島、長崎。(ウ)9月の中旬は根室。というように、これら期間の定めに応じて場所も変更しながら、取組みを進めています。

5.連合の「国際政策」―公正なグローバル社会の実現―

 以上、いずれも国内の問題であるようでいて、実はすべて「グローバルな課題」であることを理解していただけたと思います。しかし、そうした「グローバルな課題」にもっと効果的に取り組むには、日本国内だけの対応(国レベルの対応)では不十分です。それ相応に「グローバルに対応する」ための取り組み(国際レベルの対応)が欠かせません。いわゆる「国際政策」がそれにあたります。この「国際政策」も当然、この講義の冒頭で触れた「政策・制度」の中に盛り込まれています。つまり、国際的なテーマとして連合が関わっているということです。具体的には、①ITUC(国際労働組合総連合)ビルマ会議、②G20雇用労働大臣との協議、③児童労働の撤廃、④ILO総会などに取り組んでいます。これらの取り組みのうち、ここまでに述べてきた環境問題と平和活動の両面にかかわって重要なのは、②のG20雇用労働大臣との協議と、④のILO総会です。
 第一点目の②G20雇用労働大臣との協議について説明しましょう。今年は6月20日からカナダでG20の会議が開催されますが、G20に参加する雇用労働大臣との会議をセットするために、労働組合の世界のトップリーダー達が集まって会合を開いています。つまり、G20の会議がある時には必ず雇用労働大臣と各国労働組合代表との会議もあわせて開催しているのです。そのときの話題は雇用関係の諸問題についてはもちろんのこと、環境問題や平和運動にまで及びます。最近は、経済環境が悪化し雇用環境がたいへん厳しくなっているので、いかに雇用を創出し、雇用を確保するかについての議論が盛んにおこなわれています。世界中の智恵を寄せ集めて対策を考えることにこの会議のねらいがあるのです。
 以上はG20関連の話ですが、冒頭で申し上げた環境問題のみに特化して言えば、COP15とか、COP会議などがあります。これら各種の国際会議にも連合はメンバーとして参加しています。
 第2点目の④ILO総会についてです。ILOとは、既にご存知の方が多いと思いますが、「国際労働機構」のことです。ILOの総会は年に一回、スイスのジュネーブで二週間程度をかけて開催されます。参加者は政労使三者構成、すなわち政府代表と、労働組合代表、それから経営者代表の三者が世界中から集まってさまざまな議題について話し合います。全世界から約4000名が出席します。そこでは、条約を作ったり、あるいは批准した後の条約の施行状況がどうなっているのかを議論します。条約を作るためには、だいたい2年程度かけて話し合います。たとえば今年の主要議題の一つは、昨年議論したエイズに関する条約を採択するかどうかだと思います。連合からは10名程メンバーが参画・出席をして、それぞれ各委員会、フォーラムに参画をして、日本側の労働者を代表した主張をしています。

 以上、グローバルな立場で労働組合が環境問題とか、平和運動などにどう取り組んでいるかについてご説明をさせていただきました。先ほど申し上げました通り、これらは労働組合だけの課題ではなくて、国民的な課題でもありますので、ぜひ皆さんもこれを機に関心を持っていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。

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