自分たちの職場が社会的責任を果たすために
~質の高い公共サービスの実現に向けた取り組み
当日配布資料
1.自治労とは
(1)自治労の組織
自治労は、全国の県庁、市役所、町村役場、一部の事務組合など、地方自治体で働く職員によって組織された労働組合です。現在は、地方公務員だけではなく、公社・事業団、自治体から事業を受託している民間企業などで働く労働者も、多数組織しています。全国に2737の単組があり、組合員数は約90万名です(2009年1月現在)。
自治労の組織は単位組合(単組)の連合体です。都道府県ごとに単組をまとめているのが、各都道府県に置かれた県本部です。また、各県本部の活動を助け、地区ごとに共通の課題に共同で取り組み、県本部間の連絡・調整をしているのが、全国9地区(北海道、東北、関東甲、北信、東海、近畿、中国、四国、九州)の地区連絡協議会です。そして、47都道府県本部、9地区連絡協議会と連携し、諸課題を全国レベルで解決し、運動を推進する役割を担っているのが自治労中央本部です。
(2)自治労の活動
自治労は非常に幅広い活動を行っています。自治労の組合員の賃金や職場環境などの労働条件の改善だけではなく、より良い公共サービスを提供していくために必要な制度、政策、法律・条例を作ることについても、自治労は取り組んでいます。自治労の果たしている重要な役割の一つが、より良い公共サービスを提供し、より良い社会を作ることです。
2.公共サービスとは
(1)公共サービスの定義
自治労は、公共サービスを、国や都道府県、市町村が提供する医療・介護、福祉・教育、職業訓練、公共施設の運営などであり、国民が日常生活および社会生活を円滑に営むために必要な基本的な需要を満たすもの、と定義しています。
(2)公共サービス基本法
2009年5月13日に、自治労をはじめとした多くの団体、政党の努力によって、「公共サービス基本法」という法律が、超党派の議員立法というかたちで成立しました。本法の目的を定めた条文には、「公共サービスが国民生活の基盤となるものであることに鑑み、公共サービスに関する基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、公共サービスに関する施策の基本となる事項を定めることにより、公共サービスに関する施策を推進し、もって国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする」と記載されています。
(3)私たちがめざす公共サービス
①よい社会とは
近年、雇用問題、格差の拡大、セーフティネットの不備、自殺者の増加など、多くの社会問題が発生しており、日本社会は徐々に悪い方向へ向かっていると思われます。日本社会を「良い社会」にしなくては、という思いで、上記の「公共サービス基本法」の制定に取り組んだのです。
なお、経済学者であるジョン・ケネス・ガルブレイスは、「良い社会」について、「すべての国民が個人の自由、基本的福祉、人種的・民族的平等、価値ある人生を追求する機会を享受する社会」と記述しています。
②政府のあり方
「良い社会」を作るための政府の役割に関して、「大きな政府」「小さな政府」、という議論があります。「大きな政府」であれば、政府の役割が重視され、充実した福祉を国民に提供できますが、民業が圧迫され、財政規模の拡大によって国民の負担も大きくなります。一方、「小さな政府」であれば、民間の役割が重視され、財政規模の縮小によって国民の負担は軽減されますが、公共サービスは量も質も低下してしまいます。具体例をあげますと、埼玉県ふじみ野市の市営プールで発生した児童の死亡事故は、公共サービスを提供するためのコストを削減しすぎたことがその原因と考えられます。
こうしたなか、自治労は「大きな政府」でも「小さな政府」でもない、政策の優先順位を考え、必要な公共サービスをきちんと提供する「ほどよい政府」を提唱しています。日本は、OECD諸国のなかでは、政府支出における教育・社会保障分野の支出の割合は高くないのです。
③公共サービスの担い手
さらに、自治労は、公共サービスについて、3つのセクターが協力して提供することを提唱しています。公共サービスを担う3つのセクターとは、政府・自治体セクター(政府・地方自治体)、市場セクター(民間)、そして、非営利セクター(NPO・ボランティア等)です。つまり、政府・自治体だけが公共サービスの担い手ではないということです。この3者が力を合わせて、市民が「労働市場で働き」「地域社会で暮らす」、すなわち社会に参加することを支援する公共サービス(参加支援型の公共サービス)の実現を提唱しています。
3.自分たちの職場が社会的責任を果たすための、質の高い公共サービス実現に向けた取り組み
自治労は常に、質の高い公共サービスの実現に向けて取り組んでいます。その一つの例が、1976年の「自治労による救急医療たらいまわし訴訟」です。当時、医者の人数も少なかったこともありますが、公共サービス、義務としての救急医療という考え方が不十分であっため、救急医療で病院をたらいまわしにされ、治療が遅れために、患者が亡くなられるという事件が発生しました。救急医療のあり方について考え直してもらうため、自治労と、自治労の組合員であった患者の親族が原告となって医療機関を相手に訴訟を起こし、勝訴しました。この訴訟によって、救急医療に関する制度・体制に関するルールが決められ、公共サービスとしての救急医療に対する考え方が改善されたのです。
4.労働組合の存在
国際労働機関であるILOの憲章の前文には、「世界の平和が危うくされるほどの社会不安、すなわち不正、困苦、窮乏を多くの人々にもたらす労働条件の存在を、社会正義としての労働運動が改善していく」という記載があります。このように、労働組合、労働運動は、よい職場、社会をつくるために大きな役割を持っています。
人間はおおよそ20歳前後から60歳まで、約40年間、働くことになります。人間の主な活動は、「働くこと」「社会に参加すること」そして「家庭を持つこと」の3つです。主な活動の一つである「働くこと」と深くつながる職場のありようは非常に大切です。職場に誇りがもてない、労働条件が劣悪である、ということでは人生が不幸になってしまいます。したがって、良い職場をつくるために、労働組合がさまざまな取り組みをおこなっていく必要があるのです。
くわえて、個人の職場を良くすることだけでなく、「良い社会」をつくるうえでも、労働組合は必要不可欠な存在なのです。
以上
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