同志社大学「連合寄付講座」

2009年度「働くということ-現代の労働組合」

第4回(5/8

労使交渉の最前線から[1]
労組は働く仲間をどのように支えているのか~2009春闘の取り組みをふまえ

神津里季生 基幹労連事務局長
当日配布資料

Ⅰ.「春闘」の変遷と現在

1.春闘の虚像と実像

 毎春、組合員の労働条件をいかに改善していくか、状況の悪い時にはいかに労働条件を守っていくかという取り組みが春闘です。春闘は昭和30年頃に始まり、半世紀以上の歴史があります。賃上げ率・経済成長率・物価上昇率の相関関係を時系列で見ると、春闘の実像が見えます。あたりまえのことではありますが、春闘は経済の動きと密接に関わっており、時代によってその様相は全く異なることが分かると思います。
 春闘が始まって以降、1970年代のオイルショックに至るまでの期間は、毎年賃金が大幅に上がりました。そのときの労働組合は、物価が上がるなかで、二桁の賃上げ率を獲得するという、素晴らしい体験をしました。マスコミを含めた世の中には、中高年齢層を中心にして、この時の成功体験が強烈に残っています。そこから発するものの見方を私は「春闘の虚像」と捉えています。
 高度経済成長期以降、中成長、低成長を経て、昨年末のリーマンショックで現在の経済はマイナス成長となっています。このような経済状況の下では、高度経済成長期の「素晴らしい体験」だけを追いかけて活動しても成果は期待できません。われわれは今の時代に適応した春闘の姿を追求すべきです。こうした点も踏まえ、基幹労連の活動をお伝えするというかたちで、今日の講義を進めたいと思います。

2.基幹労連の取り組み

(1)2年サイクル
 基幹労連の春闘は、他産業の労働組合の春闘と少し異なります。通常、春闘においては毎年、その年の賃金に関して交渉を進めます。しかし、基幹労連においては2006年から、2年分の賃金をまとめて決めています。(鉄鋼労連にさかのぼると1998年から)なお、一時金については毎年交渉しています。
 理由はいくつかありますが、現下の経済成長の基調を踏まえるとともに、たとえて言えば4年に1度しか実施されないオリンピックのように、交渉のエネルギーを集中させるという発想がひとつあります。また、賃金交渉を2年サイクルにすることで、賃金交渉の必要がない年は、賃金以外の課題、政策課題により力を注ぐことができます。また、2年協定、3年協定を実施しているアメリカやドイツの事例にも学びました。
 労使交渉を近視眼的なものとせず、中期的の課題を重視するという効果もあります。2008年春闘において2008年と2009年の2年分の交渉をし、2年間で2000円の賃金改善という結果を得ました。この2年タームの中頃でリーマンショックが起きましたが、2年分の交渉を終えているので、これの影響を受けることなく、安定したベースアップを確保した形となりました。

(2)好循環の考え方
 春闘交渉では毎年、会社と組合が綱の引っ張り合いをしています。しかし我々の発想は、ただ単に、お互いに正反対のことを主張して、綱の引っ張りあいで理屈もなく賃上げが決まるということでよいのか、ということです。賃上げは会社にとってはコストプッシュに他なりません。しかし、それによって企業としての魅力を増し、人材をひきつける事になれば、会社にとって好循環を生み出すということを、この数年間主張しています。会社にとって意義あるお金の使い方とは何であるかを、会社に理解させるのも労働組合の大きな役割のひとつです。

3.09春闘の状況

 私は基幹労連の春闘は、[1]雇用をとことん守る、[2]大企業と中小企業の格差改善をはかる、[3]賃金改善をはかる、を3つの柱としつつ、多様な広がりを持っていると考えています。
 09春闘時では、個別年度として格差改善を柱とした取り組みを行ないましたが、たとえば、「60歳以降就労者の一時金のアップ」や「深夜労働手当の割増率について、30%から33%のアップ」といった回答を引き出しました。そのような構成組織の回答状況は、本日参考資料として配布したイメージの形で、全組織にその都度情報提供し、相乗効果につなげています。


Ⅱ.会社と何を話し合うのか

1.事例説明・・・新日鐵労使の「話し合いの場」

(1)団体交渉
団体交渉を通じて、組合と会社が、組合員の労働条件を取り決める労働協約を締結することになります。

(2)労使委員会
労使委員会という場で、賃金以外の労働条件、福利厚生等について労使で協議をおこなっています。

(3)経営審議会
経営審議会という場で、会社の経営状況について説明を受け、労働組合の意見を述べています。

2.労働組合の経営対策機能とは

 労働組合の経営対策機能の重要性が高まっています。これは、[1]組合員を代表して経営に意見を言う(文句を言う)、[2]経営が何を考えているかを把握し、組合員に伝える、ということが基本です。私見ですが、[3]組合は経営のプロではないが、組合の主張のほうが的を射ていることもある、という意義もあります。


Ⅲ.労働組合は何をするのか

 様々な立場にある人間がその人にしかできないこと、そしてその組織でしかできないことを遂行するのが大事だと考えます。そこで、労働組合にしかできないことは何なのかを考えていきたいと思います。

1.「派遣村」の問題で何を考えるか

 昨年末のリーマンショックによる経済悪化で、「雇い止め」や「派遣切り」の犠牲になった人たちを救おうと「派遣村」が立ち上げられました。業績悪化で、真っ先に解雇されるのは派遣で働く人々です。「相手に言いたいことが言える」ことが労使関係ですが、これらの人々の多くは労働組合に加入していないため、自分たちの雇用や労働条件について使用者と交渉することができません。
 日本の労働組合の組織率は現在約18%で、残念ながら減り続けています。これはわれわれの努力不足もありますが、日本の社会がもっと考えなければいけない点だと思います。

2.持続的な発展を守るために

 基幹労連は、今年の4月に、「京都議定書の失敗を繰り返すな」という趣旨の、政府の地球温暖化問題に関する懇談会「中期目標検討委員会」の検討結果に対する談話を発表しました。ちなみに、鉄鋼産業は日本全体の15%のCO2を排出しています。
 アメリカは1997年の京都議定書を批准せず、40%以上排出量を増やしてきました。日本はまじめに議定書の約束を守ろうとしますから、2000億円から3000億円の税金を使って、そして関係産業も含めれば1兆円規模になる排出権を海外から買って辻褄合わせをすることになります。オバマ政権は2020年までに14%削減すると言っていますが、ブッシュ政権での下で既に40%増やしています。アメリカが14%削減を決めたからといって日本も同調すると、ポスト京都での辻褄合わせは京都の何層倍、何兆円もの国富の海外流出をもたらします。日本は外交においていつも弱腰です。このように国の政策に対して提言をおこなうということも、産業別組合だからこそやらなければならない活動です。

3.結びにかえて

 労働組合の活動は、マクロとミクロ、この二つのメリハリを効かすのが大切です。マクロというのは、京都議定書に関する談話のような、日本の政治を修正しようとする活動で、ミクロというのは、一人ひとりの働く人たちの悩みを受け止めていく活動です。どちらも非常に重要と捉えて、今後の活動を進めていきたいと考えています。

以上

ページトップへ

戻る