若者が働くということ―労働運動の歴史からみえてくるもの―
1.講義の目的
今日の講義のテーマは「若者が働くということ-労働運動の歴史からみえてくるもの-」です。一般に働くということはどのようなものなのかということを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。我々はいったい何のために働くのでしょうか。今日は少し歴史を振り返り、エピソード的なことを交えながら、主に以下のいくつの問題をめぐって、ガイダンスにあたるような話をしたいと思います。
①働くとは何か。我々は何のために働くだろうか。
②なぜ雇われて働くのがつらいのか。
③労働運動はどのような働くうえでのルールをつくってきたのか。
④ルールを確立する方法と経営参加・共同決定とはどういうものか。
2.働くとは?我々は何のために働くのか?
「働く」ということについては、さまざまな働き方がありますが、労働の根源的な意義は共通しています。紀元前1300年頃に、ピラミッドを作る石工が、ピラミッドを安全なものとするために世界最初のストライキを起こしました。また、1970年代にはイギリスクライドサイド造船所の労働者が、軍事生産から平和生産への代替を求めてストライキを起こしています。これらは、自分たちの仕事について責任を持ちたいところから起こしたものです。働くということは決してお金のためだけではないことが分かります。
人間労働は人間と社会存立の絶対的条件であり、不可欠な活動だと言えます。人類が働くのを何十日もやめたら人間社会は崩壊してしまいます。そして、人間労働は、社会的分業として基本的にはすべて繋がっており、ほかの人の働きが自分に役立ち、自分の働きが他の人に役立っています。しかし、実際は、人々はおカネのために雇われて働いています。
3.なぜ雇われて働くのがつらいのか?
上記のように、働くことは、人間社会に必要なことであり、人間の本質的活動であり、楽しいはずだといっても、実際に労働することは苦しいものです。アダム・スミスは『国富論』のなかで、「労働はtoil and troubleである」と言っています。大河内一男教授はそれを「苦労と骨折り」と翻訳しています。では、なぜ雇われて働くのがつらいのでしょうか?その理由についてあげたいと思います。
一点目は、労働が正当に報われない(低賃金)ということです。労働は「苦労と骨折り」であるため、その代償が得られなければならなりません。雇用労働においては賃金を得られなければならないのです。しかし、代償である賃金は必ずしも正当に支払われるとは言えません。
二点目は、仕事の裁量ができないうえ、自分の好きなほかの活動ができない「拘束された長時間労働」ということです。他人に雇われて働くことは、やはり仕事に対して裁量権を持たないということになり、命令された通りにするしかありません。命令された通りに働かないと賃金を受け取ることができません。
三点目は、危険な作業やストレスが強い仕事をやらされ、労災・職業病のおそれがあるということです。命令された通りにしかできないため、このようなことが発生してしまいます。最近、ストレスや過労などはよく言われていますが、以前から、危険な作業やストレスが強い仕事をやらされ、労災で労働ができなくなったり、職業病になってしまうこともしばしばでした。
四点目は、仕事の全体が分からず、部分しか担当できない単調な仕事をさせられる「ミーニングレス」ということです。特に製造現場では、仕事の全体がわからず、部分しか担当できない、部分しか教えられていないことはよくあります。
五点目は、労働者は失業すると生活ができなくなるため、失業の自由はないということです。
上記の理由によって、雇われて働くことはつらくなります。では、労働のつらさを少しでも緩和するために、何が必要かというと、それは働くうえでのルールづくりだといえるでしょう。
4.労働運動はどのような働くうえでのルールをつくってきたのか?
働くうえでのルールづくりは、労働のつらさを緩和する一つの道筋だと思われます。今日まで、労働運動は様々なルールをつくってきました。いくつの例を挙げてみると、①年少者の保護と若者の就業の権利、②労働者を簡単に失業させないルール、③自立して生活できる賃金を実現するルール、④労働時間短縮に関するルール、⑤上記した以外の労働に関わる様々なルール、があります。⑤は、具体的には、ジェンダー平等や安全などで、これらは、すべてディーセントワーク(Decent Work:人間的あるいは人間の尊厳に値する労働、しっかりとした基準をともなった労働)の内容です。
5.ワークルールを確立する方法と経営参加・共同決定とはどういうものか?
働くうえでのルールを確立するのには、三つの方法があります。
まず、第一に、労働者が自分たちでルールを決め、実行することです。例えば1850年代イギリスのクラフト・ユニオンが実施した、賃金を互いに決め合うことや、「共助制度」などがあります。
第二には、団体交渉で労働協約や協定をつくることです。例えばデンマークの中央協定や、ドイツの産業別労働協約などがあります。日本でも労働組合と各企業の経営者とのあいだに協約や協定が結ばれますが、これはルール形成の重要な方法です。
第三には、法律をつくり守らせることです。例えば労働基準法や残業割増率に関する規制などがあります。
しかし、働くうえでのルールをつくる際に最も大事なことは、当事者の参加でしょう。当事者が参加しない決定は民主主義に反します。産業社会のもっとも重要な当事者は労働者であり、労働者が労働組合を通じてルールの形成に参加することは産業民主主義の根幹です。経営者は「経営権の主張」で、労働者の権利を「労働条件」の範囲でできるだけ狭くしようとしていますが、実際に経営権の中でも労働者の運命に関わる事柄は沢山あります。例えば工場の閉鎖、又は新工場の設立です。したがって労働者の経営参加・共同決定は、働くうえでのルールをつくる際に非常に大事なことであるといえるでしょう。
以上
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